楽天モバイルの“値上げしない”宣言がもたらす波紋、その命運を握るのは

 楽天モバイル・三木谷浩史会長の発言がスマホ業界に波紋を広げている。

楽天の三木谷氏(2025年9月撮影)

 9月30日に楽天モバイルはプレスカンファレンスを開催。競合キャリアが続々と料金プラン値上げを発表するなか、三木谷浩史会長からは、完全仮想化などネットワークの設備構造が異なるので「値上げをしない」という宣言が飛び出した。

 第4のキャリアとして新規参入した楽天モバイルにとって、今がまさにかき入れ時。契約者数1000万に向けて、料金プランの優位性で他社から顧客を奪う絶好のタイミングなのは間違いない。

 しかし、楽天モバイルは同時に「ネットワークでも最強を目指す」と宣言した。キャリアとしては当然だが、ここに疑問を投げかけたのが、他キャリア幹部だ。

 ソフトバンクの宮川潤一社長は11月5日に開催された決算会見で「楽天モバイルはアンフェアだ」と噛みついた。

 楽天モバイルはサービス開始時から、一部エリアでKDDIのネットワークにローミングすることでユーザーにサービスを提供している。いまもローミングに依存しているのは変わらない。

 宮川社長は「キャリアは地方に背の高い鉄塔を建てる。それはすなわちコストの高いエリアといえる。基地局とネットワークをつなぐ伝送網も、非常に長距離になるので工事代がかかる。都心部の基地局に比べたら、地方の基地局のトラフィックは1%にも満たないのではないか」と指摘する。

 既存3キャリアの料金プランは、そうした決して効率の良いわけではない、山間部や離島などのネットワーク整備を含めた重たいコスト構造なのだと宮川社長は力説する。

 最も儲からず、コストのかかる部分をKDDIにおんぶに抱っこ状態で、安価な料金プランを提供。しかも「値上げはしない。最強のネットワークを目指す」と三木谷会長が発言したところに、宮川社長の堪忍袋の緒が切れた。

ソフトバンクの宮川社長

 そもそも、楽天モバイルには全国規模でネットワークを整備すると総務省に約束しているからこそ、周波数が割り当てられている。とはいえ、確かにいきなり全国津々浦々でスマホが使えるようなサービスを提供するのは無理があるので、ローミング契約は支持されてきた。

 しかし、2019年の無料サポータープログラムから6年が経過し、商用サービス開始から5年以上という長期間、ローミング契約が続くというのは正しいことなのかと宮川社長は指摘する。

 「最後の10%、5%をいかに埋めていくかという地道な努力をした上で最強のネットワークを目指すのであればフェアだと思うが、ローミングに頼った現状ではアンフェアだ。どこかで議論が始まってくれるのを期待する」(宮川社長)と指摘した。

 では、ローミングを提供するKDDIは、三木谷会長の発言をどう思っているのか。

 11月6日に開催されたKDDIの決算会見で、松田浩路社長に直接質問してみた。

 すると「私自身だけでなく、KDDI社員も含めて最強ネットワークというのは私どものローミングを含めてのことだろうと認識している」(松田社長)と余裕の表情を見せた。

 楽天モバイルの「最強」はKDDIのネットワークがあってこそというわけだ。

 ただ、一方で、楽天モバイルに対しては「キャリアは割り当ててもらった国民の周波数をしっかりと展開していくのが使命である。楽天モバイルとの間では競争と協調でスタートさせてもらっている。楽天モバイルが自前のエリアを構築するまでの間、暫定的にお貸し出ししているに過ぎない。こちらの考えに沿って、進めていきたい」と釘を刺した。

 KDDIとしても、楽天モバイルにネットワークを貸し出すことでの恩恵は相当、受けているのは間違いない。サービス開始当初に比べれば、大きく減ったものの、いまでも年間、数百億円規模の「ローミング料」が楽天モバイルからKDDIに支払われているものと思われる。

 楽天モバイルは、プラチナバンド獲得後、どこまでルーラルエリアを対応させたか、見えない部分がある。

 今回、発表されたKDDIの決算資料を見ると、昨年度の第2四半期に152億円あったローミング収入を含んだMVNO収入は今年度、146億円と微減に過ぎない。

 実際、KDDIが発表している楽天モバイルに提供しているローミングマップを見ると、今年5月22日現在でもかなりオレンジが占めていることがよくわかる。別に思いっきり山間部というわけでもなく、住宅地でもオレンジ色が目立つのだ。

 KDDIと楽天モバイルの契約は2026年9月30日までだ。果たして、契約更新するのか気になるが、三木谷会長は「守秘義務契約があって答えられない。しかし、継続性は大事にしないといけないと思っている」と語るなど、契約更新するような雰囲気を醸し出していた。

 では、貸し出す側のKDDIはどうか。

KDDIの松田社長

 松田社長は「(楽天モバイルには)これまでも十分に(ネットワークを)構築する時間があったと認識している。次のタイミングを持って、いくつか、ご相談を差し上げていきたい」と回答した。

 KDDIとすれば楽天モバイルに「もう貸さない」と塩対応もできるが、それでは年間数百億円のローミング収入をドブに捨てることになる。もし、そうすれば、楽天モバイルのネットワーク品質は一気に落ち、ユーザーが逃げ出すなか、「真の最強ネットワーク」であるKDDIがその顧客を奪うこともできるだろう。

 KDDIのローミングネットワーク品質の良さを最も知るのは現・楽天モバイルユーザーなのだ。

 一方でKDDIは楽天モバイルに対して「1000万契約を突破して、黒字化しているなら、ローミング料を値上げするぞ」と吹っかけることもできそうだ。

 まさに楽天モバイルの命運は松田社長の「いくつかのご相談」にかかっているようだ。

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