コンクリートに6歳の遺体 発見者「一歩間違えば、なかったことに」

コンクリート詰めにされた岩本玲奈さんの遺体が見つかった長屋=2025年7月17日午後5時22分、大阪府八尾市、岡田真実撮影

コンクリートの中から、18年以上前に亡くなった6歳の女の子の遺体が見つかった――。遺体は衣装ケースに入れられ、大阪府八尾市の長屋に放置されていました。発見したのは長屋の管理人の男性です。男性は「一歩間違えれば、この事件はなかったことになっていた」と、通報した当時を振り返ります。(朝日新聞記者・岡田真実)

午後1時、上司からの電話

殺人事件などを扱う大阪府警捜査1課の取材を担当している記者が、この事件を知ったのは2025年3月1日でした。

この日は土曜日で、午後1時ごろに上司から1本の電話がありました。

「長屋で、コンクリート詰めにされた女の子が見つかった」

逮捕された容疑者や事件の情報を集めるため、関係先に向かってほしいという内容でした。

遺体の女の子の名前は、岩本玲奈さん。逮捕されたのは、玲奈さんと生活を共にしていた叔父(42)でした。

叔父はその後、2006~07年に玲奈さんに暴行を加えて死亡させたとして傷害致死罪で起訴され、コンクリート詰めにした玲奈さんの遺体を運搬したとする死体遺棄罪でも起訴されました。大阪地裁で2026年3月13日、懲役8年の判決が下されています。

退去者の部屋に残されたもの

玲奈さんがどのような女の子だったかを知ろうと、私は同僚とともに事件が発覚した後も数カ月間現場に通い、取材を続けました。

その中で、1人の男性(62)に会いました。遺体が放置されていた長屋の管理会社の代表を務めています。

「退去者の部屋にコンクリートブロックのようなものがある」。管理会社の社員から、男性にそんな報告があったのは昨年1月のことでした。

部屋には80代の男性が住んでいましたが、入居から数カ月で高齢者施設に引っ越すことが決まり、退去した物件だったといいます。

一室から岩本玲奈さんの遺体が見つかった長屋=2025年3月1日午後1時6分、大阪府八尾市、朝日新聞社ヘリから、林敏行撮影

急な退去で、部屋の荷物は放置されたまま。住人の男性とは連絡がとれなくなったといいます。

残された「コンクリートブロックのようなもの」を確認するため、男性は翌月に部屋を訪れました。

玄関を入ってすぐの部屋にある押し入れの隅に、金属製の箱が置かれていました。

押してもびくともせず、ふたを開けると、コンクリートが箱いっぱいに張られていました。

大阪府警によると、この箱は横88センチ、奥行き45センチ、深さ35センチで、重さは約228キロありました。

地域課員「事件性はない」

「これは、いったい…」

これまで管理人として、多くの部屋を見てきた経験がありましたが、初めて見る塊に異様さを感じたといいます。

「ここまでして隠したいものはなんだろう」

男性は自身に子どもがいたこともあり、2010年に大阪市西区で母親が幼い姉弟を置き去りにして餓死させた事件のルポをはじめ、子どもが巻き込まれた事件のニュースや本を、関心を持って読んだり見たりしてきたそうです。

コンクリートを見て「子どもが入っていてもおかしくない」と思ったといいます。

男性はその日のうちに大阪府警八尾署に電話しました。すぐに署の地域課員が部屋を訪れたそうです。

しかし、コンクリートをしばらく確認し、「事件性がないので処分していただいて構わない」と言って帰っていったということです。

血痕や異臭がなかったため「事件性がない」と判断したとの説明でしたが、男性には疑問が残りました。

翌々日。男性は次に大阪府警本部に電話をしました。

「もし、中に子どものご遺体があったら被害者が浮かばれない。かわいそうなので、もう一度見てくれないか」

男性の2度目の申告を受け、今度は八尾署の刑事課員がコンクリートを確認しに訪れます。

刑事課員はわずかな異臭を感じ、当時の住人や家族に聞き取りを始めました。

退去した男性の息子に電話で話を聞くと、こう言いました。「コンクリートの中に、小さい子が入っている」。

この息子というのが、逮捕された叔父のことです。

府警によると、叔父は「コンクリートの中には、十数年前に預かっていた姉の娘が入っている」「(姉の娘が)言うことを聞かず、しつけでたたいた。朝起きたら冷たくなっていた」と説明しました。

司法解剖やDNA型鑑定の結果などから、遺体は2007年ごろに死亡した、推定で当時6歳の玲奈さんであることが判明します。遺体が見つかるまで18年以上が経っていたことになります。

岩本玲奈さんの親族関係

管理人の男性はその後、八尾署からコンクリートの中に遺体があったことを伝えられ、報道で遺体が玲奈さんであることを知ったということです。

男性は「胸が痛む。一歩間違えれば、この事件はなかったことになっていた。玲奈さんが亡くなった事実を世に出すことができてよかった」と話しました。

数カ月の取材 18年気づかれない「なぜ」

男性が2度目の申告をしていなかったら。八尾署員が異臭を感じなかったら。玲奈さんは今も気づかれないままだったかもしれません。

大阪では日々さまざまな事件が起こります。日頃の取材は、事件が起きたその日に終わるケースが多く、長くかかっても数日から1カ月ほどです。

しかし、今回の事件では取材に数カ月間と時間をかけました。

玲奈さんがどのような女の子だったのか。幼い命が失われながら、なぜ18年以上の間、誰にも気づかれなかったのか。そうした疑問が尽きなかったからです。

近隣住民への取材から描いた岩本玲奈さんのイメージ 絵・岡田真実

取材を続けると、おぼろげながらも、玲奈さんを知っている人に出会え、「職権消除(しょっけんしょうじょ)」という普段聞き慣れない行政手続きで生前に住民票が削除されていたことが、事件の背景にあることがわかってきました。

こうした取材を、朝日新聞のデジタル版の連載「消された住民票、消えた子どもたち」で詳報しました。

同僚たちとの取材を経て、玲奈さんと同様に「いなくなっても気づかれない」可能性のある子どもが全国にいることが、各自治体への調査の結果、見えてきました。

いまの社会で、あのときの玲奈さんの命を守ることはできるのか。今回の記事を通し、問い続けていきたいと考えています。

ニュースが身近になるメディア「withnews」

https://www.asahi.com/withnews

TikTokアカウント:

https://www.tiktok.com/@withnews

YouTubeアカウント:

https://www.youtube.com/@withnewschannel

関連記事: