特攻隊に志願した千玄室さん、戦後は「一碗から平和」と各国首脳と交流…「茶室には勝者も敗者もない」
茶の湯の海外伝道に力を入れ、元特攻隊員としても知られた茶道裏千家前家元の千玄室さんが14日、亡くなった。英エリザベス女王、旧ソ連のゴルバチョフ元大統領、中国の胡錦濤前国家主席ら王族や各国首脳とも茶を通して国際交流に努めた。
日中韓の友好を祈って茶をたてる茶道裏千家前家元の千玄室さん(2017年9月、北京で)=安川純撮影戦時中、学徒出陣で海軍に入隊。特攻隊に志願したものの、出撃しないまま四国の松山航空隊で終戦を迎えた。虚脱状態に陥った千さんには、忘れられない光景があった。
1945年9月、実家の裏千家に戻った千さんの前に現れたのは昨日までの敵、進駐軍の若い米将兵たち。「お茶を飲ませてくれ」と門の前に車で乗り付けた。先代家元の父は彼らを畳に座らせ、堂々とした態度で日本の礼儀作法を教え、不作法者は叱った。米兵は威厳に驚きながら、茶道を知ろうと努力していた。
「茶室には身分の上下も勝者も敗者もない」。感銘を受けた千さんは「お茶を通して日本人の心を世界に伝えよう」と決心した。それが生き残った自分に与えられた使命であり、戦地に散った戦友たちのためにも、茶人としてなすべきことと悟った。
茶道は「総合的な文化体系」と繰り返し語った。茶碗や茶入れは美術工芸品で、茶とともに和菓子も出る。床の間に花をいけ、書や水墨画を掛ける。茶室を見れば日本建築の特色がわかる。亭主は和服だ。日本文化を知ってもらう格好の場所でもあると強調していた。
桂離宮の茶会でエリザベス女王夫妻をもてなす千玄室さん(左)(1975年5月、京都市西京区で)51年、茶道具一式を持って渡米。ハワイを拠点に2年をかけて全米各地の町から町へとデモンストレーションに回った。この時、米国滞在中の物理学者、湯川秀樹さん夫妻や仏教哲学の鈴木大拙さんの協力も受けた。これが海外茶道行脚の第一歩で、各国に裏千家の支部を創設していった。
海外での献茶や講演を続け、84年にはバチカンで献茶を行い、「 一(いち)碗(わん) から平和を」の題で記念講演。ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世にも謁見している。世界を股にかけた活躍で「空飛ぶ家元」と呼ばれた。
晩年は特に東アジアの平和に心を砕き、2004年から、日中韓の研究者、文化人を集めた「東アジア茶文化シンポジウム」を開催してきた。