『バイオハザード レクイエム』レビュー RE:2とRE:4を融合させた、ナンバリング最高傑作
評価の高い『バイオハザード RE:2』と『バイオハザード RE:4』。この2つを合体させてパワーアップさせたようなゲームが『バイオハザード レクイエム』だ。
プレビュー記事を書いた千葉は先行プレイの段階でこう評していたが、クリアまで駆け抜けた今、筆者の目線からもその印象は確かなものだと感じている。事実上のナンバリング9作目となる『バイオハザード レクイエム』は、RE:2が築いたサバイバルホラーの緊張感と、RE:4が確立したダイナミックなシューターを両立させた、シリーズにおける明確な到達点となっていた。
そしてもうひとつ強調しておきたい。それはRE:2から始まった「RE」シリーズの歩みは、振り返ってみればレオン・S・ケネディという一人の男のサーガだった、ということだ。恐怖に翻弄される新人警官から、死線を潜り抜け続けるエージェントへ。本作は、その軌跡にひとつの決着を与える集大成と呼ぶにふさわしい一本にもなっている。
また、筆者はPS5版をプレイしたが、動作に問題はなかった。Switch2版をプレイした編集部のスタッフについても、アクションシーケンスを含め動作に影響はなく快適に遊べたとのことだ。Nintendo Switch 2版のプレイはこちらの記事を参照してほしい。
ダブル主人公制の採用、「静」の緊張感を体現するグレース
そうはいっても、本作は数々の修羅場を超えたレオンだけの物語ではない。FBI分析官グレース・アッシュクロフトとのダブル主人公制を採用したことで、恐怖に翻弄される若き視点も同時に描き出している。その差異は立場の違いにとどまらず、ゲームデザインそのものを二分することに寄与している点が明快だ。レオン編は研ぎ澄まされたアクション。対してグレース編は、じっとりと神経を削るホラー。UIの設計思想、テンポ感に至るまで徹底して作り分けられていて、ひとつのタイトルに2本の異なるホラーゲームが同居しているかのような体験を成立させている。
一方でグレースには、銃やナイフによる力押しに直接頼らない形で状況を打開する手段も複数用意されている。その中核を成すのが、採血によるアイテムクラフト。ステージ内の血溜まりや倒したゾンビの死体からウイルス入りの血液を採取することで、弾薬や回復アイテム、さらにはステータスを上昇させる「スタビライザー」まで生成できる。
作成可能なアイテムの内、とりわけ重要なのが「破血アンプル」だ。これは背後から接近した際や、ゾンビに拘束された場面で突き刺すことで、ほとんどの敵を一撃で破裂させられるもの。いわゆるステルスキルに相当するようなアクションで、中ボスクラスの敵でさえ、3発ほど打ち込めば撃破が可能なほど強力な代物になっている。
脅威となる大型個体も、「破血アンプル」さえあればお手の物。厄介なことに、本作ではゾンビの死骸がその場に残り続け、再訪したタイミングで「ブリスターヘッド」と呼ばれる強力な変異体として復活することがある。しかし破血アンプルで処理すれば死骸は消滅するため、変異を未然に防ぐことができるのだ。さらに変異体は感染物質を撒き散らし、周囲の死体を連鎖的に変異させていく。ゆえに対峙してしまった際にも、アンプルを用いた早期の対処が極めて重要となる。量産の難しい破血アンプルをどの局面で使うか。その判断に伴う葛藤もまた、本作の醍醐味のひとつだ。
このアイテム生成に伴って、ついつい所持品が増えがちになってしまうグレースパート。しかし所持枠には厳しい制限があり、キーアイテムですら一枠を占有するため、すぐにアイテムを持ちきれなくなってしまう。さらにアイテムボックスの設置場所も限られているため、プレイ中は何を持ち歩き、何を置いていくかといった取捨選択を常に迫られることになる。こうしたストレスもまた、良い意味で緊張感を持続させるための負荷として機能している点もうまい。
特にアイテム枠の拡張ができない序盤は、キーアイテムを含めて8個しか持ち歩くことができない。さらに特筆すべきは、徘徊するゾンビたちの挙動だ。彼らは過去作品に見られたような没個性的な存在とは異なり、各々が生前の習慣を思わせる行動を執拗に繰り返す。たとえば、かつて「療養所」で働いていたと思しき個体は、消灯時間を守るために周囲の照明を消して回りながら「電気ハ ケしま ジョう……」と呻いている。他にも以下のようにユニークなゾンビが多数出現し、ステージを巡ってバリエーション豊かな新種と出会うだけでも愉快で楽しい。
- トイレで自らの身体から生じた血だまりを拭き続けるゾンビ
- 観客らしい他のゾンビに歌を披露するシンガーゾンビ
- 料理をつくるため、小言を呟きながら厨房を徘徊するシェフゾンビ
生前の行動をなぞるその姿は、うめき声のような断片的なセリフと相まって、「SIREN」シリーズの屍人を思わせる不気味さと、ある種の滑稽さをも漂わせている。そうした滲む生活の痕跡がゾンビ一体一体に背景を想像させ、奇妙な愛着さえ抱かせることで世界観に奥行きを与えているように思えた。
今作は主人公側のキャラクター性が際立っている反面、『バイオハザード7 レジデント イービル』のベイカー一家や、『バイオハザード ヴィレッジ』のドミトレスク家のような強烈な個性を放つヴィランは不在だ。しかし、この生々しくも魅力的なモブゾンビたちの存在感が、その余白を見事に埋め合わせていると感じる。
本作のゾンビはよくしゃべり、ときに人間らしい反応も見せる。写真は「消灯ゾンビ」に懐中電灯を向けた例。しかし残念ながら、こうした習性は表現の向上にとどまっており、ゲームプレイへ十分に還元されているとは言い難い。確かに一部には攻略の糸口として機能している側面もある。先の「消灯ゾンビ」の例でいえば、グレースが意図的に灯りを点灯すれば、ゾンビを光源へと誘導できるといったような具合だ。
だが、このように明確な形で習性が攻略に活用できる局面はごくわずかで、ほとんどはフレーバーの域を出ていない。さらに冒頭のマップとなる「ローデスヒル療養所」を抜ける頃には、そうした個体差の演出自体が次第に後景へ退き、ゾンビが従来通りのやられ役へと落ち着いてしまう点も惜しい。
プレイヤーを追跡するクリーチャーは今作も健在。ただし『バイオハザード7 レジデント イービル』のジャックのように限定的で、登場演出に重点が置かれている。抑圧からの解放をもたらす、「動」のレオンパート
対してレオンパートは、RE:4をベースにしたシューター主体のつくり。豊富な銃火器やグレネードといった爆発物を駆使し、バリエーション豊かなゾンビやクリーチャーを次々と制圧していく。場面によっては『バイオハザード6』を思わせる市外戦などの派手なシチュエーションすら用意されている。
特にゲーム前半はグレースパートの割合が多く、その合間に短いレオンパートが挟まれることになる。つまり、グレースパートで緊張感の高い探索を強いられた直後に、レオンパートの火力で敵を一掃していく展開が訪れるため、体験としてはアメとムチ。いわば、一種のご褒美パートのようにも機能している。
非力なグレースから一転し、レオンの英雄的な強さを体感させるストーリー上の流れも巧みだ。ときには、グレースが慎重に切り拓いてきたルートを、レオンが圧倒的な戦力で駆け抜けていく場面もある。対照的なアプローチが生むテンポの緩急は心地よく、プレイヤーに強い爽快感をもたらすはず。
流血量も激しく、あっという間に血の海が広がる。また、レオンは銃火器だけでなく、研ぎ澄まされた体術でも真価を発揮する。今作で従来のナイフに代わる近接武器として登場した「トマホーク」は、RE:4のようにクリーチャーの繰り出す様々な攻撃をパリィすることが可能だ。
特にボス戦はパリィを積極的に活用することが前提のデザインになっており、うまく扱えば無傷で攻略することもできる。さらにトマホークはその場で研ぐことができるため、実質的に耐久力は無限。攻防一体の立ち回りを支える、今作の攻略には欠かせないアクションとなっている。
トマホークによる攻撃などを起点に、見ごたえあるアクションシーンが挿入されるケースも。レオンパートでは閉じられたエリアに出現する敵を一掃しながら先へ進む展開が中心となるが、注目すべきはそのレベルデザインにある。本作では『バイオハザード6』までに多く見られた、障害物を使ったカバーアクション主体のステージは控えめ。代わりに『バイオハザード4』冒頭の村を意識したような、全方位から敵に囲まれるロケーションが数多く用意されている。
特に触れておきたいのは、RE:2のG第一形態戦のような、三次元的な起伏を備えた狭いグリッド状のフィールドが頻出する点だ。複数の敵やボスを相手に、間合いを管理しつつ退き撃ちで局面をコントロールする。その攻防が実にスリリングで、手触りとしては「パックマン」に代表されるドットイーターの系譜に近い。
もちろん単に退くだけではなく、ときにはリスクを承知でガス缶などのインタラクションへ踏み込み、ギミックや投擲武器を駆使して敵集団を制圧する判断も求められる。こうした一瞬の判断が活きる立ち回りの面白さを演出する設計思想が、レオンパートを通して一貫しているように思う。
また、グレースパートでは主観視点、レオンパートではTPS視点がデフォルトで設定されているが、設定次第で主人公ごとにどちらにも切り替えることが可能だ。
『バイオハザード ヴィレッジ』のDLCで追加されたTPS視点は、もとが主観視点前提の設計であったため、アニメーションに違和感が残る部分があった。加えてアイテム配置やインタラクションの判定も主観視点基準のままだったため、注視点を合わせるためにカメラを不自然に上下させる必要が生じ、操作のちぐはぐさから、かえって酔いやすい場面もあった。
しかし本作ではそうした問題は見られず、両視点とも最初から想定された設計になっている。デフォルト設定の視点はあくまで体験の方向性を示すものであり、どちらを選んでも快適にプレイできる完成度に仕上がっている点は付け加えておきたい。
銃器のカスタマイズ要素は存在するものの、画一的な性能の底上げに留まっており、独自のビルドを構築する拡張性はほとんどない。2つのパートの共通点から浮かび上がる、シリーズの本質とは
さて、ここまでの内容自体は、プレビューや他誌でも触れられている範囲だろう。
本誌の『バイオハザード ヴィレッジ』評でも述べられていた通り、確かにホラーとアクションは水と油の関係にある。そのため今作では、いっそ開き直ってゲームの進行を2つのパートに明確に分断するという、ある種思い切った方策をとった。無論、このアプローチが見事に成功していることは間違いない。しかし、むしろ一見対照的にも思える二編を貫く共通項に目を向けたとき、本作が示す「バイオハザード」というフランチャイズの本質が浮かび上がってくるようにも思えてくる。
筆者が考えるに、その目的がグレースパートの謎解きであれ、レオンパートでの敵の殲滅であれ、本作で常に問われるのは「敵に対処するためのルート構築力」だ。プレイヤーは状況を読み取り、最適な動線を組み立て、狙ったアクションを通す。その思考と実行のプロセスそのものが、いずれのパートでも遊びの核に据えられている。それは、弾丸を節約するためにゾンビの隙間を縫って進む――初代から連綿と続いてきた立ち回りの思想が派生し、洗練され続けた帰結ともいえる。
「SILENT HILL」シリーズの復権。あるいは『バイオハザード7 レジデント イービル』や『8番出口』にも影響を与えた『P.T.』ライクなインディーゲームの潮流。近年、ホラージャンルはかつてないほど多様化し、市場を席巻している。そうした状況のなかで「バイオハザード」が追及するのは、恐怖そのものではない。恐怖の中でどう立ち回るか、その移動の設計にこそ焦点を当てているのだ。本作は、その本質をより明確な形で再提示してみせたと筆者は感じている。
初代『バイオハザード』のリメイク版のPVに使用されていたキャッチコピー。ただし結果として、本作のゲームプレイがどこまでいってもRE:2やRE:4の反復に留まっているように感じられたことは否めない。序盤の舞台となる「療養所」のレベルデザインは、RE:2の「警察署」の構造をなぞっている感が強く、さらにはトレーラーでも明かされている通り、プレイヤーは実際に警察署そのものを再訪することにすらなる。ここまで上げたゲームシステムや謎解きのギミックに至るまで、プレイフィールは既視感のオンパレードだ。
もちろん、シリーズへの思い入れが深いほど感慨を覚える仕掛けになっているのは確かだが、人によっては最新作でありながら「ないはずのRE:9」、あるいは既存の「RE」シリーズの延長戦を遊ばされているような感覚に陥るだろう。生前の記憶に囚われて同じ行動を反復し続ける本作のゾンビたちの姿が、皮肉にもゲームプレイの構造そのものに重なって映ってしまうかもしれない。
「かつての舞台への帰還」がもたらすカタルシスについても言及しておきたい。たとえば『METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS』でシャドーモセス島に再び足を踏み入れたときのように、プレイヤーが過ごした現実の時間をも巻き込んだ、時を超越するような強烈なノスタルジーを期待すると肩透かしを食うはずだ。なぜなら、本作で描かれるラクーンシティはオリジナル版の記憶を呼び起こすものではなく、明確にRE:2の系譜として描かれているからだ。
結果として、そこにあるのは「思い出の場所への劇的な帰還」というよりも、「わずか数年前に遊んだタイトルのアセットを再訪しているだけ」という一抹の虚無感であったことは否定できない。
MGS1からMGS4までの年数と、RE:2から「レクイエム」までの年数はそんなに変わりないのだが、当時とは技術進歩の体感速度が異なる。『バイオハザード レクイエム』で結実した、シリーズ再構築の真の狙い
本作の物語についても触れておきたいが、その前に近年のシリーズの流れを整理しよう。クリスを脇に据えつつも、新主人公のイーサンを主軸とすることで、ナンバリングでありながら実質的に新規層向けのリブート、あるいは外伝的なポジションを取っていた『バイオハザード7 レジデント イービル』と『バイオハザード ヴィレッジ』。一方、それらに並行して『バイオハザード2』のリメイクから始まった「RE」シリーズは、レオンを中心に、ラクーンシティやアンブレラといったシリーズの原点に立ち返る、王道のラインを再提示するプロジェクトだった。
レオンの物語を、当時プレイしていなかった世代に向けて現代的にリビルドしたうえで、改めて最新のナンバリング作品でさらに前へと押し進める――その一連のグランドデザインは、振り返ってみれば驚くほど合理的で緻密だ。本作の物語を追うことで、その設計思想がようやく一本の線として浮かび上がってくる(おそらくすでに初代『バイオハザード』がゲームキューブでリメイクされていたから、「RE:1」はスキップされたのであろうということがあるにせよ、だ)。
しかし、本作で描かれる新展開の多くは、どうにも後出しジャンケン的な印象を拭えない。正直に言えば、長寿化したシリーズが物語を延命させるために無暗にスケールを拡張していく、あの既視感を覚える瞬間ばかりだった。積み重ねられた歴史があるからこそ成立する切り返しではあるが、同時に、シンプルだった世界設定を必要以上に複雑化させているようにも映る。
もっとも、身も蓋もない言い方をすれば、本シリーズに重厚なストーリーを求める層は決して多くないだろう。むしろ重要なのは、ホラー体験の質とキャラクターの存在感だ。その点においては、これまで述べた通りに本作が高い水準を維持していることは間違いないし、ストーリーはそれらを際立たせる為に最低限機能はしている。
また、物語には意図的に残されたと思われる余白が散りばめられていて、それらをつなぎ合わせることで、今後のシリーズ展開の輪郭もわずかに見えてくる。明確な青写真が背後にあることを予感させる終盤の構成は、「バイオハザード」の未来に対するプレイヤーの期待を確かなものにするはずだ。
『バイオハザード レクイエム』は、RE:2が築き上げた息詰まるサバイバルホラーと、RE:4が確立したダイナミックなアクションを一つの作品内で見事に同居させた、シリーズの集大成と呼ぶにふさわしい野心作だ。グレースとレオンという対照的なダブル主人公制は、恐怖とカタルシスの鮮やかなコントラストを生み出し、「切迫したシチュエーションの中でいかに最適な攻略ルートを構築するか」というフランチャイズの根源的な面白さを、高い次元で再提示している。 一方で、ステージ構成や謎解きが過去作の踏襲に留まって新鮮味に欠け、反復の域を出ていない点は否めない。しかし、レオン・S・ケネディの過酷な軌跡に一旦の決着をもたらし、長年のロードマップを結実させたであろう功績は揺るぎないものだ。たとえ既視感という代償を払ってでも、その結末を見届ける価値はある。本作はまさに、シリーズの記憶に捧げられた至高の鎮魂歌(レクイエム)となるだろう。