イランのミサイルがロンドンに到達できるという評価は下していない 英閣僚がBBCに
画像提供, アメリカ国立公文書記録管理局
イランが自国から約3800キロ離れたインド洋のチャゴス諸島にある米英共同軍事基地を攻撃目標にしていたことが明らかになる中、イスラエル国防軍(IDF)は21日、イランがロンドン、パリ、ベルリンに到達可能なミサイルを保有していると発表した。これについてイギリスのスティーヴ・リード住宅相は22日、BBCの番組で、「イランがイギリスを標的にしているという具体的な評価は下していない。仮に(イランが)そうしようとしても、それが可能だと、我々は判断していない」と述べた。
リード住宅相の発言に先立ち、イランが自国から約3800キロ離れたインド洋のチャゴス諸島にある米英共同軍事基地を攻撃目標にしていたことが明らかになっていた。
これについてリード氏はBBC番組で、ランはチャゴス諸島のディエゴ・ガルシア島に向けて弾道ミサイル2発を発射したが、1発は目標に届かず、もう1発は迎撃されたと話した。
リード氏は、イギリスの海外領土にミサイルがどれだけ接近したかについては、「作戦上の詳細」を明かすことはできないとして、説明を避けた。
ディエゴ・ガルシア島への攻撃を最初に伝えた米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、匿名の米政府当局者の話として、同島に向けて弾道ミサイルが発射されたものの、いずれのミサイルも標的には到達しなかったと伝えた。
この報道を受けてIDFは21日、イラン政府が欧州、アジア、アフリカに到達可能なミサイルの開発を目指していたことが昨年明らかになったと主張。さらに、「我々が言い続けてきたように、イランのテロ体制は世界にとっての脅威だ。今や、ロンドン、パリ、ベルリンに到達するミサイルを保有している」と述べた。
これについて、BBC番組のローラ・クンスバーグ司会者に「これは本当ですか」と質問されたリード氏は、「イランがイギリスを標的にしているという具体的な評価は下していない。仮に(イランが)そうしようとしても、それが可能だと、我々は判断していない」と答えた。
さらに、「この国を守り安全を維持する能力が、我々には十分にある。国内についても、中東全域のイギリスの資産や自国民についても同じだ」と述べた。
IDFの主張について重ねて質問されると、リード氏は「(IDFが)話していることを裏付ける評価はない」と答え、たとえイランがその射程の攻撃を実施可能だったとしても、イギリス軍はイギリスを防衛できると述べた。
英政府は20日、ホルムズ海峡を攻撃するイランの拠点をアメリカが攻撃するにあたり、英軍基地の使用を認めると決定した。キア・スターマー政権はそれまで、イランによるミサイル発射がイギリスの利益や人命を脅かす事態を防ぐ防衛作戦に限り、米軍が英軍基地を使うことを認めていた。
イランがディエゴ・ガルシア島へ向けてミサイルを発射したのは、19日深夜から20日早朝にかけての様子。
スターマー政権が、ホルムズ海峡警護について米軍への英軍基地使用を限定的に認めると決めた閣議は、20日午後に開かれた。
イランがディエゴ・ガルシア島を攻撃しようとしたのは、20日の閣議決定より前のこととと理解されている。
中東で活動するイギリス軍は、紛争開始以降、複数のイランのドローンを撃墜している。国防省は22日、「高脅威地域」で活動する地上部隊が夜間にドローン1機を撃墜したと発表した。
政府は20日の閣議で、ホルムズ海峡を通過する船舶を脅かすために使用されているイラン拠点も「集団的自衛」の名目で攻撃対象に加えた。ホルムズ海峡は通常は世界の石油の約2割が通過する重要な航路。
イギリス政府は、イギリスの国益や同盟国を標的とする拠点への攻撃に限り、英南西部グロスターシャー州のフェアフォード基地に加え、ディエゴ・ガルシア島の共同基地の使用もアメリカに認めている。
この事態を受けてイギリスのイヴェット・クーパー外相は21日、「国際海運に対するイランの脅威の拡大や、英国の湾岸パートナーに対する脅威」をイギリス政府は認識していると述べ、紛争の迅速な終結を望む姿勢を繰り返した。
「首相が明確に表明している通り、イギリスはイランの無謀な脅威に対して防御的支援を提供するが、攻撃行動には関与しておらず、今後も関与しない」と外相は述べ、「イギリスの国益のためにも、地域の安定を支えるためにも、できる限り早い解決が必要だ。イギリスはより広い紛争に巻き込まれない」と強調した。
イランの保有する兵器の中で最も射程が長いものは、最大射程が2000キロとみられている。たとえイラン国境の最も近い地点から発射されたとしても、ディエゴ・ガルシア島にもロンドンにも届かない。
ドナルド・トランプ米大統領は、アメリカとイスラエルがイランへの攻撃を開始する数日前、イランは「欧州を脅かす」ミサイルを開発し、さらにアメリカも攻撃できるミサイルの開発を進めていると主張していた。
イランのアッバス・アラグチ外相は今月初め、自国はミサイルの射程を意図的に2000キロに制限しているのだと言い、「世界の他の誰からも脅威と感じられたくない」と話していた。
一方、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は22日、イランには「欧州の奥深くに到達する能力がある」と主張した。
最大野党・保守党のジェイムズ・クレヴァリー影の住宅相は同じBBC番組で、イランは「とてもとても長距離のミサイル」を配備していると述べたが、自分がかつて外相として受け取っていた機密情報報告を今は得られていないため、そのミサイルがイギリスに到達可能かどうかについては言及を避けた。
英王立統合軍事研究所(RUSI)の上級研究員シダース・カウシャル博士は、「ミサイルの射程という概念には、弾性がある。軽い弾頭を載せれば射程を延ばせるからだ」と述べた。
イランがイギリスに到達可能なミサイルを保有しているという指摘は「おそらく正しい」だろうが、「それは最も差し迫った脅威ではない」と同博士は言い、その理由として、こうした兵器は長距離では精度が低く、イギリス領空に入るまでに高度に防御された空域を通過しなければならないことを挙げた。
「大きな問題は、『だったらどうなのか』だ。徹底的に防御された空域を越えて、少数の通常弾頭の弾道ミサイルを発射できたとして(中略)しかもその射程ではかなり不正確だ(中略)その場合、イランは何を達成しようとしてそうるのか」
北大西洋条約機構(NATO)司令官だったリチャード・シレフ退役陸軍将軍は、イランの攻撃力に関するイスラエルの主張は「深刻に受け止めるべきだが、どれだけ深刻かといえば、ロシアのミサイルがこちらに向かうかもしれない、その脅威と同じくらいに深刻だ」とBBCラジオに述べた。
「とはいえ、イスラエルはもちろんこう言うに決まっている。というのも、イスラエルにとっては、戦争を拡大し、できるだけ多くの国々を巻き込むことが、自国の利益につながるからだ」
スターマー政権のリード住宅相は、政府が戦争をエスカレートさせようとしているとの見方を否定し、「イランが新たに焦点を当てている標的に対応する必要がある」と述べた。
これに対し、保守党のクレヴァリー影の住宅相は、政府が開戦当初にアメリカによる基地使用を拒否したのは「誤り」で、それによってイギリスの「国際的な信頼を損なった」と批判。「我々は、イギリスの要員、イギリス国民、イギリスの利益を守るために他国に頼っている状況だが、これは本来あるべき姿ではない」と述べた。
野党の自由民主党と緑の党は逆に、米軍による英軍基地の使用許可は、戦争へのイギリスの関与を拡大させる危険があるとして、米軍による英軍基地使用の可否を議会で採決すべきだと求めた。
リード氏はこれに反論し、「イギリス国民が攻撃されている状況で、国民を守るかどうか議会で採決するなど、そのような前例はない」と述べた。
英政府は23日、緊急事態対策委員会「COBRA会議」を開き、エネルギー安全保障や、今回の危機が各家庭に与える経済的影響、企業やサプライチェーンへの影響、国際的な対応などについて議論する。スターマー首相が議長を務め、各閣僚やイングランド銀行(中央銀行)総裁らが出席する。
こうしたなかでリード氏は、政府はすでに光熱費対策に着手していると説明。暖房用灯油の価格急騰に苦しむ世帯を対象とした5300万ポンド(約110億円)の支援策などを講じているとBBC番組で述べた。