50日間続いた「石破降ろし」、驚異的な内閣支持率の高市政権 変わった政治の風景 政治回顧2025㊤

高市早苗首相(右)と国民民主党の玉木雄一郎代表=12月18日午後、国会内(春名中撮影)

昨年の衆院選に続き、今年7月の参院選も与党が大きく議席を減らした後、自民党内では石破茂首相(当時)の退陣を求める勢力による「石破降ろし」が約50日間続いた。世間に露呈した内輪もめは、9月に石破氏が辞意を表明したことで収束した。10月に就任した高市早苗首相(党総裁)は驚異的な内閣支持率をたたき出し、新たに連立を組んだ日本維新の会とともに次々と政策を打ち出している。10月を境に政治の風景は変わった。

国民民主と電撃合意

12月18日午後、所得税の非課税枠「年収の壁」を巡り、自民と国民民主党が178万円への引き上げで電撃合意するとの情報が永田町に流れた。

その直後、首相と国民民主の玉木雄一郎代表が国会内で文書に署名し、フラッシュの集中砲火を浴びながら破顔一笑を見せた。政治が前に進んだという印象を抱かせる光景だった。首相は「両党の間で何とか関所を越えようと、2年越しで知恵を絞っていただいた結果でもある」と語り、達成感をにじませた。

自民内には「財源の議論が後回しにされている」(首相と距離のあるベテラン)という懸念の声もあるが、「世論の支持」にかき消される。合意後の20、21両日に産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が実施した合同世論調査では、内閣支持率が11月の前回調査比0・7ポイント増の75・9%に達した。

麻生氏「明るくなった」

就任当初、高支持率は初の女性首相に対する期待値であり、高いのは最初だけだという見方が一部にあった。しかし3カ月連続で75%を上回っている。「新しい政治が始まるのではないかという期待感がある」(自民の鈴木俊一幹事長)、「積極財政を打ち出している」(閣僚)-といった要因が指摘されている。

麻生太郎副総裁は12月11日の会合でこう評した。

「(石破政権は)どよーんとした感じで、何にも動かないという感じがあった」「(高市政権で)明るくなった雰囲気がある。世の中のことが決まり、動いている感じもする」

高市首相が党総裁選に勝利した後、公明党が連立政権から離脱し、公明に代わって安全保障観などが自民に近い維新が加わったのも大きい。首相は安保3文書の前倒し改定、国家情報局創設、外国人問題対策、大規模太陽光発電所(メガソーラー)の規制強化などを打ち出し、ガソリンと軽油の暫定税率の廃止を決めた。自民内の「疑似政権交代」でイメージを刷新したともいえる。

高支持率に自民議員も戸惑い

高支持率には自民議員も戸惑い気味だ。台湾有事を巡る国会答弁は不用意な発言で、政権幹部からも「言うべきではなかった」と苦言を呈された。支持率下落の危機感も広がったが、批判の矛先は、答弁に反発した中国による威圧行為に集中。今回の合同世論調査で、中国への日本政府対応を「評価する」との回答が「評価しない」の2倍の59・6%を占めた。

内閣支持率の高さゆえ、自民内の首相批判が起きにくい。首相が維新の連立入りと引き換えに合意した衆院議員定数削減について「オフレコ」で不満を語る議員は多いが、批判を公言するケースは少ない。

今の首相の最大の武器は世論だ。総裁選は党員人気をてこに勝利したが、国会議員票は5候補中3位で、党内基盤が強いわけではない。支持率が下落すれば、批判が噴出する可能性が高まる。首相は、日銀の政策金利引き上げ後も止まらない円安・物価高など不安要素を抱えながら、来年も政策を積み重ねて期待感を保たなければならない定めにある。(官邸キャップ 田中一世)

石破茂首相が退陣を表明し、女性初の首相となる高市早苗首相が就任した令和7年。今年の政局を振り返る。

関連記事: