地球の大気中の粒子、月に吸収されていた 数十億年続く現象と天文学者

太陽風と地球の磁場の影響で、地球の大気中の粒子が月面に運ばれ続けているという/Shubhonkar Paramanick/University of Rochester via CNN Newsource

(CNN) 新たな研究によると、地球の大気に由来する粒子が太陽風によって宇宙空間へと運ばれ、数十億年にわたり月面に着地し続けていたことが分かった。これらの粒子は月面の土壌と混ざり合っているという。

この研究を受け、一つの謎に新たな光が当たった。その謎とはアポロ計画が月面サンプルを持ち帰って以降半世紀以上続くもので、当該のサンプルに水、二酸化炭素、ヘリウム、窒素といった物質の痕跡が含まれていたというものだ。

初期の研究の理論では、これらの物質の一部は太陽が起源だとされていた。しかし2005年、東京大学の研究者らはそれらが若い地球の大気に由来する可能性もあると示唆。約37億年前に磁場を形成する以前の地球であれば、そうした現象が起こり得ると説いた。著者らは、磁場が形成されると粒子を閉じ込めて宇宙への放出が困難または不可能になるので、この流れが遮断されたのではないかと推測していた。

今回の新研究はこの想定を覆すもので、地球の磁場については大気由来の粒子が月へ移動するのを阻害するのではなく、むしろ促進した可能性を示唆する。この移動は現在も続いているという。

「これが意味するのは、地球が酸素や窒素などの揮発性ガスを月面土壌へ常に供給し続けてきたということだ」。今回の新研究の共著者であり、米ニューヨーク州ロチェスター大学の物理学・天文学教授を務めるエリック・ブラックマン氏はそう述べる。

1972年、月面でサンプルを採取するアポロ17号の月着陸船パイロット、ハリソン・シュミット/NASA

「月は原始地球への小惑星の衝突によって当初形成されたと長い間考えられてきた。その過程でこうした揮発性物質の初期段階の混合が大規模に起こった。物質は地球から月へ移動して混ざり合った」と、同氏は電子メールで付け加えた。「我々の研究結果は、揮発性物質の共有が依然として続いていることを示す。何十億年を経てもなお」

月面における酸素や水素などの有用な元素の存在は、月探査への関心を引き起こすかもしれない。

「月探査に加え、最終的には月面のコロニーがいつの日か実現する可能性がある。その時には自給自足型の資源が必要になる公算が大きい。地球から運搬しなくてすむ環境を整えなくてはならなくなるだろう」とブラックマン氏は指摘する。

「例えば、月面のレゴリス(表土)に処理を施して得た水から水素と酸素を抽出し、燃料を作る方法が研究されている。また太陽風によって月へ運ばれた窒素を活用するアンモニアベースの燃料の研究もある。太陽風が運んだこうした物質は土壌に浸透し、現地の資源の一部になる。それを種々の革新技術によって活用するというわけだ」

1971年、検疫施設で分析されるアポロ14号の月面サンプル/NASA

貴重な化学的記録

新たな研究では、研究者らはコンピューターシミュレーションを用い、二つのシナリオを検証した。一つは強力な太陽風(太陽から放出される高速粒子流)が存在し、地球周囲に磁場がない状態。もう一つは太陽風が弱く、地球周囲に強力な磁場が存在する状態だ。これらのシナリオは、おおむね太古と現代の地球の状態に対応している。検証の結果、現代の地球シナリオが地球大気の一部を月へ移送する上で最も効果的であることが判明した。

その後、研究者たちは、当該の結果とこれまでの研究で月面土壌の分析から直接得られたデータとを比較した。

比較対象としたのはアポロ14号および17号のミッションによって地球に持ち帰った月面サンプルだという。ロチェスター大学物理学・天文学部の大学院生、シュボンカー・パラマニック氏が明らかにした。同氏は昨年12月に学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ・アース・アンド・エンバイロメント」に掲載された本研究の論文の筆頭著者。

「太陽風が地球の大気に流入すると、同時に地球の大気が漏出していく。そこで我々は、この混合物の混合比率を特定すること、あるいはどの粒子が太陽起源でどの粒子が地球起源かを区別しようと試みた」(パラマニック氏)

地球の磁場は、外核で流動する液状の鉄とニッケルの動きから生じる電流によって生成される。この磁場は宇宙空間に遠くまで延び、太陽風の大部分をそらすシールドを形成している。シールドがなければ太陽風が地球の大気を侵食する形になるとみられる。

磁場が太陽風と相互作用すると、磁気圏が形成される。これは前方が圧縮され長い尾を持つ彗星(すいせい)のような構造だ。太陽風の粒子が磁気圏の極付近の磁気線に沿って導かれると、オーロラ(北極光・南極光)が発生する。

カナダ・ノースウェスト準州イヌビックの北で観測されたオーロラ/Cole Burston/AFP/Getty Images

ブラックマン氏によれば、磁気圏の形状は太陽風が地球大気の一部粒子を剥ぎ取り、宇宙へ導く理由を説明すると同時に、非磁化状態(太古の地球モデル)と比較して、より多くの地球大気が月へ運ばれることを可能にしている。

「磁場が純粋な保護機能を果たさない理由は二つある。第一に、磁場にかかる圧力が地球の大気を多少膨張させるため、太陽風の大気への侵入が少し容易になる。第二に、月が軌道上の満月の位置にある際、『磁気圏尾部』と呼ばれる領域を通過する。この領域では磁場が開いた通路を形成し、吹き飛ばされた大気物質が月へより直接的な経路で到達することを可能にする」(ブラックマン氏)

月は毎月数日間、磁気圏尾部を通過する。地球から運ばれた粒子は、月面に到達すると土壌に埋没する。月には粒子を阻む大気が存在しないからだ。

この月と地球の相互作用の歴史を理解することは重要だと研究は主張する。なぜなら、月の土壌に封じ込められている可能性のある地球の太古の大気に関する貴重な化学的記録もしくは情報を提供してくれるからだ。ブラックマン氏によれば、そうした大気の組成は地球史の異なる段階における生命の進化と関連しているという。

アポロ11号が撮影した、月の地平線越しに見る地球の眺め/NASA/Hulton Archive/Getty Images

新たな視点

大阪大学大学院理学研究科、宇宙地球科学専攻の寺田健太郎教授は、自身の観測結果が理論的に裏付けられたことを喜んでいると述べた。寺田氏が主導した17年の研究では、太陽風と地球の磁場が酸素を月に運んだ仕組みを明らかにした。同氏は今回の新たな研究には関与していない。

寺田氏が電子メールで述べたところによると、地球と月が形成以来物理的に共に進化してきたとは以前から認識されていた。今回の月の隕石(いんせき)にまつわる発見並びに太陽風によって地球から運ばれる粒子の流れの観測はこれに新たな視点をもたらす。つまり両天体は化学的にも相互に影響し合っており、そこでは一種の物質の交換が起きていると同氏は説明。当該の論文について、地球の歴史を包括的に論じた点で非常に刺激的だとの見方を示唆した。

アポロ15号によって採取された、32億年前のレゴリス角礫岩/Michael Wyke/AP

英オープン大学の上級研究員シメオン・バーバー氏(本研究には関与していない)によれば、今回の研究は時宜を得たものでもある。20年には中国の無人月探査機「嫦娥(じょうが)5号」が年代の新しい月面土壌のサンプルを新たに採取。さらに24年には「嫦娥6号」が月の裏側で初のサンプルを採取した。こうした成果によって、今回の研究結果をより深く検証する機会が得られるからだ。

加えてバーバー氏は、この研究が今後打ち上げられる月探査機による探査結果の解釈にも役立つと指摘した。これらの探査機は、月面レゴリス中の揮発性元素を直接測定する能力を備える。

関連記事: