鳥のさえずりを聴くとうつや不安が軽減、健康効果の報告続々

英ノーフォークでさえずるヨーロッパコマドリ(Erithacus rubecula)。鳥のさえずりは、うつや不安を軽減することを示した研究がある。(PHOTOGRAPH BY DAVID TIPLING, NATURE PICTURE LIBRARY)

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 科学者たちは、自然に触れると心が癒やされることを知っている。屋外に出れば体が活発になり、森に入ればストレスや心拍数、血圧が下がる。鮮やかに咲きほこる野の花々を見れば、畏敬の念が湧いてきて、自分という存在や頭の中で渦巻く問題などは途方もなく大きなものの一部にすぎないと思わされる。そして、鳥の歌声にも、私たちの脳を落ち着かせる効果があることが科学的に示されている。

 しかし、鳥のさえずりが特別に感じられるのはなぜだろう?

「社会的な動物である私たちは、生きものとつながり合いたいと思うようにできているのです」。そう話すのは、米オーバリン大学の社会・環境心理学者であるシンディ・フランツ氏だ。人とのつながりを作る際に使われる脳の部位が、鳥を含めた自然との交流にも役立っているという。

 なぜ鳥たちのさえずりに耳を澄ますことで、実際に回復の効果があるのかを専門家に聞いた。(参考記事:「なぜ鳥は春の朝に大きく、美しく鳴くのか、季節限定の大合唱」

鳥の歌のメンタルヘルス効果

 鳥のさえずりは、自然が与えてくれるたくさんの恩恵の入口になることを示唆する研究が増えつつある。

 2022年に学術誌「Scientific Reports」に掲載された研究では、約1300人に1日3回、2週間にわたって周囲の環境と自分の気分を記録してもらった。

 すると、鳥が見えたりその声が聞こえたりした場合、身近にある緑や水域の影響(木が見える、水の音が聞こえるなど)を差し引いても、心の健康度がかなり高まることがわかった。鳥と出会うことによるメンタルヘルスの改善効果は、数時間にわたって続いていた。

 ただしこの実験では、被験者たちが研究の主な目的に気づいて自然を過剰に意識し、バイアスがかかった可能性も指摘されている。さらに、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の最中に行われた研究なので、被験者の日常的なストレスレベルや鳥に対する感情という点でも影響があった可能性が高い。(参考記事:「鳥を見たときにあなたの脳で起こること、野鳥の効能とは」

ギャラリー:春の朝に大きく、美しく合唱する鳥たち 写真5点(写真クリックでギャラリーページへ)

米ミネソタ州メドーランズで木に止まるギンザンマシコ。ドーンコーラスに参加する鳥だ。(PHOTOGRAPH BY RICHARD SEELEY, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

 2022年に同じ学術誌に掲載された別の研究では、自然の音(鳥の鳴き声)と都会の音(交通騒音)を耳にしたときの反応の違いを浮き彫りにしている。

 295人の被験者にヘッドホンで6分間の音を聴かせたところ、鳥のさえずりを聴いた人は、不安、妄想のスコアが下がったという。また、うつのスコアは、2種の鳥によるさえずりではなく8種の鳥からなる歌声を聴いたときだけ下がった。一方、交通騒音を聴いた被験者は、うつのスコアが上がった。

 米カリフォルニア・ポリテクニック州立大学が行った2020年の研究からも、同じような結論が得られている。この研究では、米コロラド州ボルダーの2つのハイキングコースで、400メートルほどにわたって「幻のさえずり」を再生した。自然に鳥がいる場所にスピーカーを隠し、さまざまなさえずり音を流すことで、より多様な鳥たちが生息する環境を模擬的につくったわけだ。

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