猛暑でもエアコン設置できない-ロンドン富裕層も悩む規制の壁
ロンドン市民が気温上昇に対応しようともがく中、富裕層の一部でさえ、お金では望む快適さが必ずしも得られない現実に気付き始めている。
地下鉄の一部では家畜の安全な移動に適するとされる温度を超える暑さが観測されるなど、気候変動は確実に英国の首都での暮らしを変えつつある。その結果、高級住宅ではエアコン需要が急増している。
ロンドンの建築設計事務所ポール・アーチャー・デザインのディレクター、リチャード・ギル氏によると、ロンドンではかつて、エアコンの設置依頼はまれだった。しかし今では、主に弁護士や金融関係者など高所得層を中心に、顧客の約30%がエアコンを求めているという。
ただし、全ての人が、この希望をかなえられるわけではない。
申請却下
ロンドンでは、自宅にエアコンを設置する上でさまざまな障害がある。古い建物では技術的・美観上の制約があるほか、自治体が単純に「そこまで暑くならない」と判断して申請を却下する場合もある。
ギル氏によると、ロンドン北部ハイゲートにある1920年代の住宅に住むある顧客が、英国で初めて40度超の気温が記録された2022年にエアコン設置の許可を求めたところ、自治体に却下された。建物は過度に暑くはならないと判断されたという。
空調管理を手がけるエアコンコのマネジングディレクター、ゲーリー・ウッドワード氏は、ロンドン広域で夏の数カ月間に住宅が「極度に暑い」ことは明らかだが、既存の規制により全住宅の30-40%でエアコン設置が妨げられたり遅れたりしていると明かす。
ハムステッドやプリムローズ・ヒル、ベルサイズ・パークといった高級住宅街を含むロンドン北部カムデン地区では今年に入り、ある家族が2台のエアコン設置許可を求めたが却下された。騒音と「景観を乱す」というのが理由だ。ブルームバーグが確認した公的文書によると、申請には南向き寝室の気温が夕方に25度を超えている状況を示す温度計の写真が添付されていた。
ブルームバーグが確認した文書の中には、ケンジントン・アンド・チェルシー地区の議会に昨年提出された屋上エアコン設置の申請が、近隣住民から「目障りすぎる」との懸念が出たため却下された例もある。
市当局は、ロンドンのエアコン設置申請の集計データを公表していない。カムデンの広報担当者は、申請があれば、地区の開発計画に基づく審査を受け、持続可能性やデザイン、騒音に関する方針がすべて考慮されると述べた。ケンジントン・アンド・チェルシーの担当者は、同地区の4分の3が特別な建築または歴史的価値を有する地域に当たるため、他の地区よりも制約が多いと説明した。
史上最も暑い夏
英気象庁は18日、今夏は観測史上最も暑い夏の一つになる見通しだと発表した。同庁の科学者エミリー・カーライル氏によると、乾燥した地表と高い海面温度が持続的に高温をもたらしたことで、6ー8月の気温は一貫して平年を上回っている。
エアコンに関するデータは乏しいが、22年の政府推計では、英国の世帯でエアコンを備えるのは5%未満。一方、同年のコンサルタント会社アラップの分析によると、英住宅の55%で寝室が暑過ぎる状態にある。
研究機関ユーラックのサイモン・ペズット上級研究員は欧州全体でエアコン需要が高まっていると指摘。「私たちは暖房を使うという発想に慣れてきた。だが、気候変動の下、冷房を使う発想に切り替える必要がある。欧州の北側の多くの都市は、その準備ができていない」と説明した。
国連によると、世界は気温が3度以上も上がる方向に向かっている。アラップの分析では、2度上昇すれば、英国の住宅のおよそ5戸に1戸は適切な温度を保つためにエアコンが必要になる見込み。残る住宅は、シーリングファンや反射塗料、シャッターなどで対応可能とされる。
建物内部の温度上昇リスク対応で政府や自治体と協力する「シェード・ザ・UK」の創設者アンディ・ラブ氏は、エアコンは猛暑の際に人々の安全を守る助けになるとしつつも、まずは他の手段を検討するよう勧めている。英住宅ではほとんど使われていない外付けシャッターなどは効果的で、設置や維持費も比較的安いという。
解決策が何であれ、暑過ぎる住宅は危険につながる。夜間は睡眠の質を悪化させ、不快であるだけでなく、免疫機能の低下や心疾患リスクの上昇といった長期的な健康被害を招く恐れがある。夜間にクールダウンできなければ、長期に及ぶ暑さに対処する体の能力を低下させ、脱水や熱ストレスのリスクを高める。
エアコン設置規制の一部は、徐々に緩和されつつある。英政府は今年、許可申請なしで施工できる建築工事の対象リストに冷暖房兼用可能な空気熱源ヒートポンプを追加した。また、温室効果ガス排出ゼロの目標達成に向け、こうしたヒートポンプを補助金制度の対象に加えることも検討している。
それでも制限は依然残っている。富裕層が住む高級住宅にありがちな、歴史的保全や景観上の価値があると見なされる集合住宅や建物では、特別な許可が引き続き必要だ。
元政府顧問でキャンペーングループ「ブリテン・リメイド」のサム・リチャーズ最高経営責任者(CEO)は「こうした規則は、より涼しい気候とグリーンではない電力網を前提に作られたものだ。そのどちらも、今の英国には当てはまらない」と語った。
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原題:Rich Londoners Balk When Told ‘No’ in Efforts to Install ACs (1)(抜粋)