死者160人超…香港の高層マンション火災が「日本ではあり得ない」理由を専門家が解説(FRIDAY)
「映像を見ると、信じられない速さで上に燃え広がっていて、あの燃え方は、まるで木造住宅火災の最もひどい延焼時の炎のように見えました」 【思わず二度見】家事で焼け焦げた林家ぺーの自宅 高層マンションを覆う緑のネットを燃え落としながら、外壁を大きな炎が駆け上がって行く……、そんな光景について、元麻布消防署署長で市民防災研究所の理事・坂口隆夫氏は、そう嘆息する。 今年、11月26日午後に発生した香港の高層マンション群“宏福苑”での火災では、林立する8棟のマンションのうち7棟に延焼。161人の死者を出す(12月26日時点)に至った。 改修工事中だったマンションの外壁を覆うネットに可燃性のものを利用。足場も可燃性の竹製だった。 「特に建物の外窓には、養生のために発泡スチロールが貼られており、短時間で上階への延焼を加速させました。またその発泡スチロールが燃えた熱によって、窓ガラスなどが破損、延焼を屋内にまで拡大させたものと思います」 と坂口氏は言う。高層タワ―マンションは日本にも多数建てられている。同様の火災の危険性はないのだろうか。坂口氏は「宏福苑のような火災は起こり得ない」と断じた。 「まず日本では、外壁工事に可燃性の足場を使うことがない。保護ネットも防炎性能を有しているものでなければなりません。窓を保護するために発泡スチロールなどを貼り付けるということもあり得ません。つまり、外部から火が屋内に入ることがないのです。日本のマンションでは延焼を防ぐため、防火壁・防火床が採用されており、もし火が出ても当該世帯で収まるようになっています。 宏福苑にはスプリンクラーが設置されていなかったようですが、日本だと11階以上の階にはスプリンクラーの設置が基本的には義務付けられています(同等の安全性が認められれば、なくても可)。スプリンクラーがあれば、ある一定の温度に達すれば作動して自動的に散水されます」 宏福苑では、住民が「火災報知器が作動しなかった」と指摘している。改修作業を行うにあたり、切られていた可能性がある。 「火災の覚知がなされなかったことによって住人が避難できず、大きな被害を出してしまった。日本では消防法によって火災報知器やスプリンクラーを始め消防用設備の設置が義務付けられており、今回のように工事中でその機能が果たされないような場合であっても、代替措置について工事の消防計画書を作成・提出しなければならない。そんなルーズな話ではないのです」 ◆建物に近寄ることすら困難だった 宏福苑では、火災の覚知が遅れた上に、一つしかない避難ルートである避難階段(いわゆる非常階段)に煙が充満して、住民たちは避難できなかった。 「日本では避難ルートを確保するため、避難階段の防煙・防火対策がなされています。高層の15階建て以上のものでは、更に安全性の高い“特別避難階段”を設けなくてはならない。人が出入りする際の扉の開閉での煙の流入を防ぐため、避難階段の手前に付室(部屋)を設け、そこには排煙機能も義務付けられている。 避難ルートは“二方向避難”(異なった方法での避難)ができるようになっています。日本の場合、厳しく規制されている避難階段の他に、殆どのマンションでベランダが設置されていて、隔て板を割って隣の世帯に行くことができます。それを繰り返せば火から遠くに離れることができる。そして、避難ハッチが設置されているところまで行けば、避難梯子を利用して下の階、地上まで降りることも可能です」 高層階への消火活動は困難を極める。地上からの放水活は3階部分が限界。梯子車での放水活動も10階位までが限界。宏福苑では、7棟に延焼し、更に高層な部分でも燃えていた。燃えた竹材などが上から降ってくるため建物に近寄れず、そもそも地上からの消火ができなかった。 高層階の消火のため、階段を使ってホースを運んで繋いで行くことも、階段部分に煙や熱気が充満していて、できなかった。 「日本では7階以上の建物には、消防法で“連結送水管”の設置が義務付けられています。各建物の玄関付近に“連結送水管”の送水口があり、そこから各階に配管が通っているのです。 10階以下の場合には、消防隊が安全性の高い階段を使って、ホースを持って上がれば、3階以上の各階にある放水口に接続して消火活動ができます。11階よりも上の各階では、そもそもホースが2本ずつ設置されているので、持って上がる必要がない」 日本の高層マンションでは「宏福苑の悲劇は起こり得ない」「あるとすれば、テロとか、放火犯がガソリンを撒くとか、そんなレベル」と坂口氏は言うのである。 「日本のマンションの安全性は世界でも最高ランクだと思っています。でも、どんなに安全性を高める設備を持っていても、その建物を利用している人間がそれを理解していなければ使えない。機能していないのと同じ。それで命を落とす危険があるのです。“宏福苑”のようにはならなくても、本来は延焼せず各階で収められたはずの火災が別の階に……ということもある」 坂口氏は、以下の点を問う。 「避難階段の安全性を知っていますか? 煙の流入を防ぐために避難階段の扉は開けっ放しにしてはいけないですよ! “二方向避難”を知っていますか? 消火器は最低でも1つは家にありますか? その使い方をちゃんと知っていますか? 天井まで延焼が進んでいなければ、放って逃げないで、自分で火を消す努力をして下さいね! 大前提として、エレベーターは使ってはいけませんよ! 消防法では、年2回の消火設備点検、年に1回の防災訓練が義務付けられていますが、残念ながら訓練に参加する人は大抵同じメンバーで、多くは参加しないでしょう。でもそんな機会は非常に大切なのです」 生命を守るために備えられた機能が守ってくれるのではない。それをちゃんと理解して使えるのかどうかが、生死のわかれ道となるのだ。 取材・文:納戸 剛
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