心癒やす「学校犬」、子どものよりどころに 20余りの学校で導入:朝日新聞

【動画】日本スクールドッグ協会の青木潤一代表理事が定期的に訪問する、岡山県立林野高校の生徒たちと学校犬=大坪実佳子記者撮影

 「学校犬」(スクールドッグ)を知っていますか。2003年に東京都内の私立小学校の教諭が、家で飼っている犬と「出勤」を始め、いま全国で少なくとも20以上の小中高に広がっています。命を慈しむ心を育み、学校生活のストレスを軽減してくれる存在として注目されています。

岡山の高校に週2回来校 生徒と触れ合い

 5月、岡山県立林野高校(同県美作市)を訪ねると、学校犬の「アスラン」(オス、6歳)が生徒たちと校内の犬用テントでくつろいでいた。校内を一緒に散歩し、時にはおやつをもらい、フライングディスクで遊ぶ。

 アスランは、飼い主である一般社団法人「日本スクールドッグ協会」代表理事の青木潤一さん(42)と、約1年前から週2回来校。放課後や休み時間に生徒と触れ合っている。2年の女子生徒は「アスランがいるから、学校が楽しい。毎日来てほしい」と話す。

 青木さんは京都で私立中学の教員をしていた17年、盲導犬の候補として育った犬を譲り受け、管理職の許可を得て犬とともに毎朝出勤を始めた。

岡山県立林野高校で、生徒たちとともにスクールドッグを散歩させる青木潤一さん(左下)=岡山県美作市、鬼室黎撮影

 愛着を持つことで命を慈しむ心が育まれる▽生徒や教員のストレス軽減になる▽世話を通じて自主性が芽生える▽不登校の子の居場所づくりにもなる、といった変化を実感。生徒がいきいきとした表情に変わるのを感じたという。

 21年に退職して岡山県に移住。日本スクールドッグ協会を立ち上げ、研修や講演を始めた。

 青木さんは教員時代、生徒から「犬はしゃべらないからいい。大人は、求めてないのに説教やアドバイスをする」と言われたという。「寄り添い見守るスタンスを、犬から教えてもらいました」

 国内における学校犬は、立教女学院小(東京)の教員だった吉田太郎さん(現在は東洋英和女学院小学部の小学部長)が03年、全国に先駆けて始めたとされる。

 不登校だった児童の「学校に犬がいたらいいのに」というつぶやきをきっかけに、エアデール・テリア(生後2カ月、メス)の「バディ」を家に迎え、犬が大の苦手だった校長を説得し、毎日学校に連れて行った。

 バディは授業や運動会、卒業式にも参加し、児童のパートナーのような存在に。死ぬ間際まで学校に行きたがり、出産や病、死を通じ子どもたちに命の尊さを伝えた。

 吉田さんはいま、東洋英和女学院小(東京)に学校犬ANNE(アン)とともに出勤する。

 「人と違う生き物に心を寄せるのは、とても高度なこと。学校は本来、楽しい場所のはず。休みの日でも来たい、と思える所にしたい。犬がその一助になればうれしい」

吉田太郎小学部長の授業を見守る学校犬ANNE(アン)。授業が始まるとマットの上で昼寝し、終わるころになると察するのか、伸びをして起きてくるのがアンの日常だ=2026年6月、東京都港区の東洋英和女学院小学部

 朝日新聞の調べによると、学校犬は少なくとも全国の20以上の小中高などで導入されている。校長や教員らがハンドラーとなり、毎朝「出勤」し校内に常駐するケースが多いが、外部のハンドラーが犬と定期的に訪問するところもある。触れ合う時間や方法などは学校により様々だ。

 海外でも、呼び方や活動方針など違いはあるが、台湾やアメリカ、オーストラリアドイツなどでも広く取り組まれている。特に台湾では、300校ほどの学校に導入され、動物愛護の観点から保護犬を迎えているという。

 なぜいま、学校犬が注目されるのか。近年、不登校の子や自殺する子、心の病で休職・退職する教員は増え続けている。子どもも教員も、ストレスを抱えている。

 吉田さんは「『犬はいつも寝てて暇そうでいいな』みたいな、そんな隙がいいんです。教員も子どもたちも、真面目に、ルールでガチガチになったら苦しい」と話す。

 かつて小学校ではニワトリやウサギを飼育することも多かったが、長期休業中の世話の難しさや教職員の負担の大きさなどから、減少しているとされる。文部科学省が24年に実施した全国の公立小学校1224校の調査では、学校として動物を飼育しているのは全体の約6割だった。

 学校犬の場合、校外から学校に通う点で従来の学校飼育動物とは異なる。

 また、犬は少なくとも1万5千年前から人と一緒に暮らしており、飼い主と犬が目線を合わせると互いに愛情や信頼感に影響するホルモン「オキシトシン」の濃度が上がるという研究結果もある。獣医師で動物行動学が専門の高倉はるかさんは「犬は、人が気持ちが通じ合ったと感じやすい動物。ニワトリやウサギとはそこが大きく違う」と話す。

4月から取り組みが始まった中学校へ、様子を見に来た青木潤一さん(右から3人目)=千葉県浦安市の入船中学校、葛谷晋吾撮影(画像の一部を加工しています)

 学校犬の導入には、犬が苦手な子やアレルギーの子と動線を分けることが必須だ。事故を防ぐため、事前に犬の気持ちや行動について理解を深めることも求められる。

 動物福祉に配慮された環境も必要だ。高倉さんは「眠いときは昼寝し、うれしいときは跳んだりはねたりして犬らしさを表せる環境が重要」と指摘する。

 盲導犬を目指して育てられた犬が候補になりやすいが、犬の個性により適性を見極めることが大切だ。

 動物介在教育に詳しい広島大名誉教授の谷田創さんは「『効果』だけを求めるのではなく、先生、子ども、保護者で、その学校だけの素晴らしい『犬との物語』を紡いでほしい」と話す。

 犬がいる学校がじわりと全国で増えています。日本スクールドッグ協会代表理事の青木潤一さんと、4月からスクールドッグ「ドルチェ」とともに通勤している千葉県浦安市立入船中学校の落合幸一郎校長をゲストに迎え、現状と課題を考えます。

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この記事を書いた人

大坪実佳子
文化部 be編集部
専門・関心分野
人権、平和、子ども、文化、食
ジャンル

連載きみがいてくれるから~学校犬と子どもたち(全7回)

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