鼻を突くような化学製品の臭い、足元には土まみれの内臓が…520人が死亡した『日航123便墜落事故』自衛隊も「行かないほうがいい」と語った“恐るべき事故現場”(文春オンライン)

 報道陣のヘリの音が大きく聞こえる。2、3機ぐらいの音がしている。自衛隊員の姿も目に入ってきた。幹部らしき自衛官が「この先は行かないほうがいいですよ。もっとひどいから」と忠告してくれた。が、そういうわけにはいかないので、「気を付けて。お先に失礼します」と述べた。尾根にたどり着いた。約5時間半かかっていた。6時間と考えていたので、迷わずに登れたようである。よく分からないが、何か現場に誘導されているような感じがしていた。  下方を見ると、東京の夢の島のような、尾根全体がゴミの集積場のようになっていた。車輪が逆さまになって転がっている。左主翼もちぎれたように横たわっている。窓枠もある。  そばで煙があちこちに出ている。機械油や鼻を突くような化学製品の臭い、木々が燃えた臭いがないまぜになっている。歩きだすと、少し水平になった場所に寝袋に入った死体がいくつも置かれてあった。自衛官と警察官が多く、広範囲だから報道陣はあまり見かけない。そこを通り、場所を移動しようと歩くと、全身が焼けた死体の左手が上を向いている。焼けた身体は小さくなっている。目も鼻の穴、口の形も窪んでいて分かる。そのそばで客室乗務員らしい紺地の制服の遺体がうつ伏せになっている。ショルダーバッグが落ちている。

 いくつもの死体をまたいで歩いていく。甘酸っぱい吐いた時の臭いがする。空気も生暖かく、尾根全体を覆っている。靴底にぐにゃとした感触がある。土まみれの内臓を踏んだらしい。機体後部が滑り落ちていったスゲノ沢が遠くに見える。とてもそこまで往復する気力はない。  記者の顔色を見ると無表情でありながら、なんとも形容できないような表情をしている。放心してはいないが、心底、精神的に動揺している。「何も考えられない」というか、頭が真っ白になっている。時間が止まったような感じがする。「百聞は一見に如かず」ではあるが、とても理性的、客観的に全容を把握することなどできない。記者同士の会話もなかった。  少し離れた岩場に曹長らしき自衛官が弁当で食事をしていた。「よく食べられるなぁ」と思いながら、こちらも持参してきたトマトをかじった。何か腹に入れると食欲を感じるようになってきた。  下山を考えると食べないとバテてしまう。気分転換を兼ねて「飯を食べて休憩しよう」といい、何もない尾根の上部に座り、堀川さんが握ってくれた握り飯を秩父山系を見ながら食べた。山で握り飯はうまいが、味など感じない。  向かい側に、123便の機体をこすって樹林が折れて空白のようになったところがあった。後日、「U字溝」と名付けられた。その下方に水平尾翼が沢に落ちていたという。下山も5時間半かかった。下山中は現場の悲惨さばかりを考えていたので、下山道については今もまったく覚えていない。ただ、誰もが黙々と下に向かってひたすら歩いた。

米田 憲司/Webオリジナル(外部転載)

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