田中貴金属、タンパク質結晶化実験に成功–「金」で結晶の発生確率向上に期待(UchuBiz)
地金大手の田中貴金属グループは宇宙空間での「タンパク質結晶化実験」に成功した。8月4日に発表した。 同社の社内イノベーション組織であるTANAKA未来研究所が「Auのナノ構造形成技術を応用した宇宙空間分子結晶化実験ユニット」を開発した。 米国時間4月21日にケネディ宇宙センターから米Space Exploration Technologies(SpaceX、スペースX)の補給船「Cargo Dragon」による物資補給ミッション「SpaceX CRS-32」として打ち上げられ、国際宇宙ステーション(ISS)の欧州実験棟「Columbus」に約1カ月間設置、観察を経て地上に帰還した。 宇宙空間でのタンパク質結晶化実験は、重力の影響を排除できるためタンパク質分子の詳細な構造解析に有用とされており、生物機能の解明や創薬に大きく貢献できると考えられている。一方で、タンパク質結晶化実験は結晶の発生確率が非常に低く、高コストで実験回数が限られることが宇宙実験の課題と指摘されている。 TANAKA未来研究所が開発した実験ユニットは、金(元素記号は「Au」)の「プラズモン共鳴」と呼ばれる現象を応用。プラズモン共鳴は、ナノレベルまで粒子化した金の表面で特定の波長の光を吸収する現象。 このプラズモン共鳴を利用したタンパク質結晶化技術で結晶発生確率を上がられるため、よりコストパフォーマンスの高い効果的な宇宙実験が可能になることが期待されるという。 金のナノ粒子の表面にはタンパク質分子が吸着しやすいと説明。金のナノ粒子間では可視光域内の波長でプラズモン共鳴を起こすため、タンパク質の結晶化が促進されるとしている。 TANAKA未来研究所では、金のナノ粒子間で光のエネルギーが凝縮されることで、タンパク質の結晶核の発生がさらに促進されることを発見。宇宙空間という微小重力環境下では、重力による対流や沈降の影響を受けないため、地上よりも質の高い結晶や大型結晶の生成が期待できるとしている。 そこで同研究所では、金のナノ構造形成技術と組み合わせて「カウンターディフュージョン法」と呼ばれる方法で使用する結晶発生能力が高いという、ガラス製の筒状デバイスである「キャピラリー」を開発した。 内径0.5mm、長さ5cmのキャピラリーの内壁には、ナノレベルに粒子化した金(直径の平均値は20nm)が、金の粒子の表面近傍でプラズモン共鳴がより発生しやすいナノレベル間隔(表面間距離の平均値は40nm)で整列している。 今回の実験は、有人宇宙システム(JAMSS)によるタンパク質結晶生成装置「Kirara」の利用サービスを利用。キャピラリーにタンパク質溶液を充填し、チューブ(袋)に封入した上で、Kiraraに格納し、実験ユニットをロケットに搭載して宇宙空間に打ち上げた。実験の時系列は以下の通り。 4月 7日:試料を日本から米国に発送4月13日:米フロリダ州ケネディ宇宙センターに到着4月19日:試料をKiraraに格納し、SpaceXの「Falcon 9」に搭載4月21日:ロケット打ち上げ4月22日:ISSに到着4月23日:KiraraをColumbusに設置5月21日:KiraraをColumbusを取り外し5月25日:Kiraraを搭載したCRS-32が地球に帰還 実験ユニットを活用した宇宙空間でのタンパク質結晶化に成功している。ナノ構造が形成されていないキャピラリーとナノ構造が形成されたキャピラリーを比較すると、ナノ構造が掲載されたキャピラリーの方が結晶発生数が多いという結果が出ている。
UchuBizスタッフ