モバイル送金システムがアフリカで太陽光発電の爆発的普及を巻き起こす
サブサハラアフリカ(アフリカのサハラ以南)では、人類史上最も野心的な太陽光発電システムの普及が起こっています。これは政府や公益団体によるプロジェクトではなく、農家に分割払いで太陽光発電システムを販売するスタートアップの影響であるとして、気候変動に関するトピックを取り扱うニュースレターのClimate Driftが解説しています。
Why Solarpunk is already happening in Africa
https://climatedrift.substack.com/p/why-solarpunk-is-already-happening サブサハラアフリカでは6億人が安定した電力を得られていないという統計データがあります。これは技術が存在しないだとか、電力への需要が存在しないといったことが理由ではなく、「農村部への送電網の拡張が経済的に破たんしているため」です。従来の送電網開発戦略は以下のような4つのステップに分かれていました。
1:集中型発電所を建設
2:数百kmにおよぶ送電線を敷設 3:数百万世帯に電力を供給 4:料金を徴収 これは1930年代のアメリカでは上手く機能しましたが、その理由は労働力が安く、資材は補助金で賄われたなどさまざまなあります。それに対して、アフリカでは最寄りの舗装道路から4時間も離れた、年収600ドル(約9万2000円)の農家が電力を求めているため、従来の送電網開発戦略が上手く機能するわけがないとClimate Driftは指摘しました。 実際、サブサハラアフリカの農村部1世帯に送電網を敷設すると、かかるコストは266~2000ドル(約4万1000~30万8000円)になります。農村部1世帯の平均的な電気代はひと月10~20ドル(約1500~3000円)であるため、送電網の敷設コストを回収するのにかかる期間は13~200カ月です。そのため、アフリカでは15億人が収入の最大10%を灯油や軽油などの燃料に費やしています。そんなアフリカで太陽光発電システムに驚くべき革命がおこりました。以下は太陽光パネルの価格変動をまとめたグラフ。1ワット当たりの価格が2020年には0.3ドル(約46円)にまで減少しており、過去45年間で99.5%の減少です。
さらに、家庭用の太陽光発電システムの価格は2008年には5000ドル(約77万円)とケニアの都市部の富裕層のみが購入可能なレベルだったのが、2025年には120~1200ドル(約1万8000~18万円)と小規模農家でも購入可能な価格帯にまで落ちています。 太陽光発電で利用するバッテリーのコストも90%下落しており、インバーターやLED電球のコストも驚くほど下落しています。また、中国企業のアフリカ進出により、アフリカの物流網も驚くほど改善されているそうです。
こういったトレンドは2018年から2020年にかけて起こったため、オフグリッド太陽光発電システムの経済性は突如として優れたものとなりました。
アフリカでの太陽光発電システムの普及に一役買ったもう一つの要素が「スマートフォンでの個人間送金の普及」です。
その発端となったのが、2007年にケニアの通信事業者であるSafaricomがスタートしたSMS経由の送金システムである「M-PESA」です。M-PESAの登場により、2025年までにケニア人の70%がモバイルマネーを利用するようになりました。これは銀行に取って代わるものとしてケニア人に親しまれているそうです。ケニアでは人口1人当たりのモバイルマネー取引量が地球上のどの国よりも多くなっています。
M-PESAの成功の理由は、送金手数料が非常に安価だったためです。M-PESAは取引コストがほぼゼロ円であるため、少額取引であっても経済的に回収することができます。これによりアフリカで流行中の資金調達モデルである「Pay-As-You-Go(PAYG)」(使った分だけ払う)が誕生しました。PAYGの登場により、太陽光発電システムの販売モデルとして以下が確立されます。これにより顧客の90%以上が太陽光発電システムを30カ月かけて購入できるようになったそうです。これはM-PESAのような送金システムがなければ成り立たない販売モデルであるとClimate Driftは指摘しています。
1:会社がユーザー宅に太陽光発電システムを設置
2:頭金は約100ドル(約1万5000円) 3:その後24~30カ月間、月額40~65ドル(約6200~1万円)で利用可能 4:太陽光発電システムは自宅に電話をかけるGSMチップを搭載 5:支払いが途切れると遠隔で太陽光発電システムの電源が切れる 6:支払いが続く限り太陽光発電システムは利用可能 7:30カ月が経過すると太陽光発電システムはユーザーの所有物となり、永久に無料で電力を手に入れることが可能 このような販売モデルでアフリカにおける太陽光発電システムの普及に大きな役割を果たしたスタートアップのひとつがSun Kingです。同社は2023年に2300万個の太陽光発電関連製品を販売し、42カ国で4000万人もの顧客を抱えています。取り扱い製品はソーラーランプやバッテリー、照明などです。 もうひとつの企業がSunCultureで、同社は太陽光発電システムで使える灌漑(かんがい)用ポンプやIoT対応のリモート監視システム、PAYG融資システムなどを提供しています。SunCultureの登場により農作物の収穫量は3~5倍に増加し、農家の収入も1エーカー当たり600~1万4000ドル(約9万2000~220万円)増加したそうです。SunCultureは4万以上の農家にサービスを提供しており、システム導入件数は4万7000件以上で、小規模農家向けの市場で50%以上のシェアを獲得しています。 SunCultureの灌漑用ポンプはディーゼル燃料ではなく太陽光で動作するため、ポンプ1台当たり二酸化炭素の排出量を年間2.9トンも削減することに成功しています。SunCultureの灌漑用ポンプの導入台数は推計4万7000台であるため、二酸化炭素の削減量は年間13万6000トンにも上ることになります。さらに、カーボンクレジットも存在します。SunCultureはカーボンクレジットを保有するアフリカ発の太陽光発電灌漑企業で、削減された二酸化炭素排出量は1トン当たり15~30ドル(約2300~4600円)で販売可能です。カーボンクレジットにより太陽光発電システムは電力インフラとしてだけでなく、定期的に収入を得られる資産へと変貌したとClimate Driftは指摘しています。 Climate Driftは20世紀のインフラモデルが「集中型発電」「政府主導」「巨大プロジェクトによる資金調達」「30年単位のタイムライン」「独占的な公益事業」であったのに対して、21世紀のインフラモデルは「分散、モジュール型」「民間主導」「PAYGファイナンス」「数日、数週間という迅速な導入」「競争市場」に変わったと指摘しています。
・関連記事 太陽光発電システムが急速に普及している実態を分析 - GIGAZINE
「太陽光発電で生じた電力を使い切れない」ということの何が問題なのか? - GIGAZINE
効率の良い太陽光発電を実現するための日照評価に人工衛星からの画像を適用する手法をGoogleが解説 - GIGAZINE
このまま太陽光発電のコストが安くなるとソーラーパネルを送電網に接続できなくなると専門家が指摘 - GIGAZINE
太陽光発電のコストはどんどん下がり続けるのか? - GIGAZINE
「宇宙に巨大な太陽光発電所を置いて地球に送電する」というアイデアの望みが薄い理由を宇宙産業のエキスパートが解説 - GIGAZINE
-
<< 次の記事
-
前の記事 >>