人間の脳にできてAIにできないこと。直感的な行動判断

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 人は、写真を一目見ただけで「ここは歩ける」「ここは泳げる」と直感的に判断することができる。だがこれがAIにはできない。

 アムステルダム大学の最新研究によると、我々の脳は目にした環境の中で「自分が何をできるか」を瞬時に判断しており、しかもその処理は自動的に行われているという。

 人間の脳の仕組みを解明することが、今後のAI開発に新たなヒントをもたらすかもしれない。

 この研究は『Proceedings of the National Academy of Sciences』誌(2025年14日付)に掲載された。

 もし初めての場所を訪れても、人間ならどこが通れて、どこが通れないのかパッとわかるはずだ。

 山や川だろうと、人混みあふれるにぎやかな街中だろうと、風景の写真を目にすれば、そこを歩けるか、登れるか、あるいは自転車で進めるか、即座に判断できる。

 こうした「この行動ならできそうだ」という感覚のことを、心理学用語で「アフォーダンス(affordance)」という。

 アメリカの心理学者ジェームズ・ギブソン博士が提唱したもので、たとえば階段は「登れる」場所、イスは「座れる」もの、ドアノブは「回せる」といった具合に、人は物の性質と自分の身体的な行動とを自然に結びつけて知覚している。

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 はたして人間の脳はどうやってアフォーダンスを感じているのか。

 これを調べるために、オランダ、アムステルダム大学の研究チームは今回、風景の写真を観察する人間の脳をMRIでスキャンした。

 実験では、まず被験者に屋内外の様々な風景写真を提示する。

 被験者はそれを見て、「歩く」「自転車に乗る」「運転する」「泳ぐ」「ボートに乗る」「登る」といった行動ができると思うかボタンで回答する。

 そして、このとき脳がどのように活動しているのかMRIで観察する。

 研究を指導した計算神経科学者アイリス・フルーン氏は、「風景を見たとき、人間は主にそこにある物体や色に注目するのか、それとも何ができそうかまで無意識に見ているのかを知りたいと思いました」と、ニュースリリースで語る。

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 実験の結果、脳の視覚野の一部が、風景の中に存在する物体だけでは説明がつかないような活性化パターンを示すことがわかった。

 フルーン氏によれば、「それらの脳領域は、見えるものだけでなく、それをどう使えるかまでも表していた」という。

 しかもそうしたパターンは、被験者に、具体的に何かをしろと指示していない場合でも発生した。

 つまり、ある風景を目にしたとき、脳は意識して考えることなく、環境から行動の可能性(アフォーダンス)を感じ取っているということが実証されたことになる。

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 一方で、こうしたアフォーダンスの判断が今のAIには難しい。

 研究チームは、画像認識モデルやGPT-4などのAIに、ある環境でどんな行動が可能かを予測させる実験も行っている。

 だが、その結果は人間ほど正確なものではなかった。

 特定の行動に絞ってAIを学習させれば、ある程度は人間の感覚に近づけることもできたが、それでも人間の脳の判断力には敵わなかった。

 目の前の空間のどこをどう通れるかは、人間にとって直感的にわかることだ。ところが、今のAIではたとえ最高のモデルであったとしても難しいのだ。

このことは、私たちの“見る”という行為が、世界との関わり方と深く結びついていることを示しています。

私たちは目で認識したことを、物理的な世界での経験と結びつけています。しかしAIモデルにはそれができません。なぜなら、彼らはコンピュータの中にしか存在しないからです(フルーン氏)

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 この研究は、今後物理的な世界にも進出するだろうAIの信頼性や効率的を高めるうえでも重要なヒントになるという。

 たとえば自動運転車や災害現場で働くロボットは、どのルートならば通行できるのかさっと判断できねばならない。

 医療用ロボットならば、どの道具をどう使えるのか素早く正確に把握することが不可欠だ。

 脳のアフォーダンスの仕組みを解明すれば、同じような機能をAIに実装する手がかりになる。

 さらにフルーン氏は、AIの持続可能性にも注目する。現時点でAIを訓練するには莫大なエネルギーが必要であるため、大企業しか利用できないこともある。

 だが人間の脳が情報を高速かつ効率的に処理している仕組みを学ぶことで、より賢く、環境にやさしく、人間らしいAIの開発が可能になるとフルーン氏は語っている。

References: What the human brain can do that AI can’t

本記事は、海外メディアの記事を参考に、日本の読者に適した形で補足を加えて再編集しています。

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