新型ムーヴが登場したけど新型ワゴンRはどうなった? 発売から8年を経過してもフルモデルチェンジしない理由とは
認証不正の問題で約2年遅れのデビューとなった新型ムーヴ。反響も大きくヒットになりそうだが、その最大のライバル、スズキワゴンRはどうなっているのか? 8年経ってもフルモデルしない理由とは?
文:渡辺陽一郎/写真:ベストカーWeb編集部、スズキ、ダイハツ
【画像ギャラリー】新型ムーヴと登場から8年経ったワゴンR どっちがいい?(8枚)ワゴンRカスタムZ
軽自動車は売れ筋のカテゴリーで、2024年度(2024年4月から2025年3月)に国内で販売された新車の内、36%を占めた。そのために人気車も多く、ホンダN-BOX、スズキスペーシア、ダイハツタントといった全高が1700mmを超えるスライドドアを装着した軽自動車は、国内新車販売ランキングの上位に入る。
この背景には、軽自動車が薄利多売の商品という宿命もある。最近の軽自動車は安全装備などを充実させて価格を高めたが、メーカーや販売会社が受け取る1台当たりの利益は依然として少ない。エンジンやプラットフォームなどを共通化して、1車種当たりの販売台数も増やし、いわゆる量産効果を高める必要がある。
そのために軽自動車には、設計の古い車種は少ない。売れ筋車種の登場時期は、ホンダN-BOXとスズキスペーシアが2023年、ダイハツタントは少し古いが2019年、日産ルークスは2020年という具合だ。
ところがスズキワゴンRは、全高が1600~1700mmに位置する定番的な軽自動車なのに、現行型の発売は2017年2月に遡る。今では発売から8年以上を経過した。ワゴンRのライバルになるダイハツムーヴは、2025年6月5日に新型車に切り替わったが、ワゴンRをフルモデルチェンジする話は聞こえてこない。
ワゴンRスティングレー ハイブリッドT
ワゴンRのフルモデルチェンジについて販売店に問い合わせると、「今のところメーカーからは、情報が入っていない」という。
それならメーカーはどうなのか、メーカー関係者を取材した。「今はワゴンRの企画を検討している段階だ。2021年にスライドドアのワゴンRスマイルを加えた後も、ワゴンRは堅調に売れており、スペーシアやハスラーも好調だ。そのために急いでフルモデルチェンジする必要がない」。
ちなみにスズキでは、ワゴンRとワゴンRスマイルの販売台数を「ワゴンR」として一括公表している。正確な内訳は分からないが、スズキ広報部に聞いてみると、「ワゴンRとスマイルの販売比率は半々くらい」という。販売店でも「ワゴンRとスマイルの比率は半々くらい。ワゴンRも、営業などのビジネスに使う法人のお客様を含めて、人気が根強い」という。
ハイトワゴンのワゴンRスマイル。両側スライドドアを採用する
ワゴンR&ワゴンRスマイルの販売総数は、2024年度は7万5800台/1か月当たり6317台であった。この50%が2017年に登場したワゴンRなら、1か月当たり3159台だ。2019年に発売されたホンダN-WGNを上まわり、人気車とはいえないものの、中堅水準の売れ行きになる。
ワゴンR FX。価格は129万6900円(CVT)
設計の古いワゴンRが手堅く売れる理由は価格の安さだ。最も安価な標準ボディのFXは、CVT(無段変速AT)装着車なら、衝突被害軽減ブレーキを標準装着して129万6900円に収まる。この価格でキーレスプッシュシステム、エアコンのフルオート機能などの快適装備も標準装着する。
ワゴンR・FXは、全高が1600mmを超える軽自動車では最も安価で、後席を格納すれば荷物も十分に積める。広い室内と低価格の両立により、乗用車でありながら販売店の指摘通り配達などのビジネスに使うユーザーも多い。法人ユーザーは、クルマを定期的に買い替えることもあり、安定的な需要に繋がっている。
新型ムーヴ。全4グレードあり、L(135万8500円)、X(149万500円)、G(171万600円)、RS(189万7500円)。これまでのカスタムは廃止となりRSがその後釜的存在に
またダイハツの開発者は「背の高い軽自動車を好調に売るには、今は後席側をスライドドアにすることが不可欠だ。新型ムーヴもスライドドアを装着した」という。この背景には、スライドドアを装着したミニバンの普及がある。またスライドドアについては、
「今の35歳以下の比較的若いお客様は、幼い頃から自宅にミニバンがあり、スライドドアに親しんで育った。そのために2列シートの軽自動車でも、スライドドアを備えた背の高いボディを好まれる」とコメント。
ミニバンが急速な普及を開始したのは、初代ステップワゴンなどが発売された1990年代の中盤だ。今では約30年が経過して、当時子供だった世代が親になり、子育てに便利なスライドドアを装着した軽自動車を購入している。最近はミニバンの価格高騰もあり、スライドドアを装着した背の高い軽自動車が選ばれている。
ハイトワゴンにとっても両側スライドドアが必須になるのか
そのためにダイハツでは、全高が1700mmを超えるタントが売れ筋になり、1600~1700mmのムーヴキャンバスもスライドドアを装着する。さらに新型ムーヴも、ムーヴキャンバスと同じく、スライドドアを装着するようになった。
2021年に登場したワゴンRスマイルも、この流れに沿って、全高を1700mm以下に抑えながら後席側のドアをスライド式にした。問題は今後のワゴンRで、高いコストを費やして横開きドアでフルモデルチェンジしても、好調に売れるとは限らない。
だからといってスライドドアにすると、ワゴンRスマイルに近付く。その一方で現行型が1か月に3000台以上売れていると、廃止するのも惜しく、フルモデルチェンジせずに販売を続けている。
スズキの開発者は「ワゴンRは、スペーシアが人気を高める前は、国内におけるスズキの最多販売車種だった。知名度も高く、過去を振り返ると、エネチャージなどの環境技術を率先して採用してきた」という。この位置付けを踏襲すると、将来的にスズキが軽自動車にフルハイブリッドを搭載する時などは、ワゴンRが選ばれるのだろう。
ワゴンRのインテリア。全方位モニター付ディスプレイオーディオ・スズキコネクト対応通信機装着車。内装はブラック
つまり現在のワゴンRの売れ方は、120万円台のFXを始めとする低価格路線だが、伝統的には先進の環境対応車でもある。この2つの要素を両立させるのは難しい。
さらにスズキの場合、スライドドアを装着しないハスラーが、2024年度に1か月平均で7474台販売された。この売れ行きは、軽自動車の販売ランキングでは、N-BOX、スペーシア、タントに続いて4位に入る。ハスラーは内外装をSUV風に仕上げて人気を得たが、販売店では「スライドドアが不要なお客様は、ハスラーを選ぶことが多い」という。従来のワゴンRの需要をハスラーが受け持っている面もあるわけだ。
以上のようなさまざまな事情により、現行ワゴンRは、発売から8年を経過しながらフルモデルチェンジを受けていない。設計の新しい車種の多い軽自動車では、珍しい存在になっている。