焦点:中国輸出企業に「緩やかな死」、米中休戦もなお高関税が圧迫
[上海/北京 11日 ロイター] - 中国でキッチン用品工場を経営するジャッキー・レン氏は、同業の輸出企業は米国の顧客をつなぎ止めるために赤字で製品を販売しており、高関税がかかる製品については値引き要請を断りづらい状況にあると話す。
こうした注文を受けなければ、輸出企業は「即死だ。だからゆっくり死ぬ方がましだと人々は考えている」とレン氏は言う。
米中の当局者らは10日、レアアース(希土類)を含む輸出制限を相互に緩和する方針で合意し、貿易戦争の「休戦」状態を取り戻した。
しかし、その間も中国では米国の関税による痛みが深刻化している。レン氏の企業のように、第1次トランプ米政権の関税措置を受けても生産の一部を海外に移転していなかった小規模輸出業者への打撃はとりわけ大きい。
米中が今後数週間から数カ月にわたって貿易交渉を続ける中、採算を度外視した価格での販売や、賃金・人員削減といった形で中国企業の痛みが強まっていることは、米国が中国に圧力をかける材料になるだろう。
香港大学のジウ・チェン金融学首席教授は「この状況が3、4カ月以上続くなら、こうした中小企業の大半は持ちこたえられないだろう。これは間違いなく米国の交渉カードだ」と言う。
今週ロンドンで開かれた米中協議により、両国の貿易関係は先月ジュネーブで行った初回協議後の状態に戻ると期待されている。初回協議では関税率を3桁台から引き下げることで合意。双方に痛手が残るものの、少なくとも貿易の流れを再開させる水準にすることで一致した。
米国の中国製品に対する関税率は、今なお昨年に比べて30パーセントポイント高い。
関税が最高水準に達した4月、赤字の中国製造業企業の数は前年比3.6%増の16万4467社となり、実に全体の32%を占めたことが公式統計で分かっている。
中国政府のデータによると、今年第1・四半期の工業セクターの設備稼働率は74.1%と、昨年第4・四半期の76.2%から低下した。現在も過去最低に近い水準にとどまっている。
一方、中国の5月の輸出全体の伸び率は4.8%で、米国の輸出が30%余り減少したことを考えれば底堅さを示す兆候と解釈されるかもしれない。だが、落ち込んだ輸出需要のパイを奪い合う中国メーカー間の激しい競争は価格下落に表れている。
仏投資銀行ナティクシスのアジア太平洋チーフエコノミスト、アリシア・ガルシアエレロ氏は「人々は忘れているが、現在の関税水準は既に相当な痛手だ」と言う。
同氏は「これは中国の弱点だ」としつつ、高インフレと品不足を警戒せざるを得ない米政府側にとっても「大きなカードではない」とくぎを刺した。中国には、米国より大きな痛みに耐えられるという自信があるとも指摘した。
The line chart shows China's export volume index and export price index<給与支払いに遅れ>
ジュネーブでの協議前、中国は自国企業、特に家具や玩具など労働集約型の企業が破綻を回避すべく四苦八苦している兆候を見て警戒感を募らせていたと、ロイターは先月報じた。
その後の関税緩和により、中国は大量解雇という悪夢のシナリオから救われた可能性があるが、アナリストらは数百万人の雇用が依然脅かされていると指摘する。
中国南部の医療機器メーカーでマーケティングマネージャーを務めるキャンディス・リー氏は、会社から過去2カ月分の給与が払われていないと話す。関税を巡る不確実性から米国の顧客企業が自衛手段として新たな要求を突きつけてきたため、キャッシュフローに問題が生じたという。
リー氏によると、米国の顧客企業は発注時に手付金を払わなくなり、納品120―180日後の支払いを要求するようになった。他の中国企業も同様の条件を受け入れており、自身が勤める企業も対抗できない状況だという。
「彼ら(米企業)は私たちを支配下に置いている。表面上は穏やかに見えるが、実際にはビジネスが非常に厳しくなっている」とリー氏。会社は給与もまともに払えないため、従業員の4分の1が退職したと明かし、「経営を維持するのは非常に困難だ」と嘆いた。
ただ、全ての中国企業がひっ迫した状態にあるわけではない。短期的に見れば、米国であれ他の国々であれ、世界全体の製品の約3分の1を生産する中国のサプライチェーン(供給網)への依存を大幅に減らすことはできない。
痛手は主に、クリスマス用の装飾品など生活必需品以外の製品や、他の生産国に容易に置き換えられる製品、例えば家電製品や低・中価格帯の電子機器を生産する企業に集中している。
中国経済全体を見渡すと、主要事業の年間売上高が2000万元(約278万ドル)以上の工業部門企業では、1―4月の利益が前年同期比1.4%増加したことが、公式統計で示されている。
英銀大手スタンダード・チャータード(スタンチャート)の中国・北アジア首席エコノミスト、シュアン・ディン氏は、米輸入業者が関税引き上げを見越して注文を前倒ししたのに加え、中国政府が財政支出を拡大し金利を引き下げたことで、中国経済は表面的な数字上は持ちこたえていると指摘した。
これらの要因が今後数カ月で薄れれば、中国政府は一段と不安を感じるようになる可能性があるとアナリストらは警告する。
豪モナシュ大のヘリン・シー経済学教授は「中国のマクロ経済は依然、低付加価値の製造業、特に輸出産業に依存している」と語る。
シー氏は「米国政府は産業からの圧力に対応する必要がある。中国の中央政府はこうしたものに即座に対応する必要はないが、長期的に見れば大きな懸念材料であることに変わりはない」と述べた。
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Casey has reported on China's consumer culture from her base in Shanghai for more than a decade, covering what Chinese consumers are buying, and the broader social and economic trends driving those consumption trends. The Australian-born journalist has lived in China since 2007.