焦点:トランプ政策への警戒から地合いにもろさ、最高値更新の米株式市場
トランプ氏が4月2日に主要貿易相手国に対する相互関税を発表すると、世界の金融市場は動揺。S&P500は2月19日の過去最高値から19%下落し、弱気相場入りの瀬戸際に追い込まれた。
ただ6月22日からの週には米国の仲介によるイスラエルとイランの停戦合意を好感して相場は上昇。トランプ氏が厳しい関税政策を一部後退させたこともあり、リリーフラリー(安堵感からの相場上昇)が始まった。
JPモルガン・チェースのグローバル調査チームは25日に発表した中間見通しで、現在の市場環境について「政策面における極度の不確実性が特徴」と分析した。
B・ライリー・ウェルスのマーケットストラテジスト、アート・ホーガン氏は「リスクオンに傾いたポジションを週末に持ち越そうとする人はいない。市場がいくらか確信や自信を持ち始めた瞬間に、突発的に政策が発表されて全てが変わってしまう可能性があると誰もが分かっている」と話す。たとえ発表される政策が4月のような、市場を全面的な混乱に陥れるものでないとしても、警戒を怠ることはできないという。
バンク・オブ・アメリカのマーケットストラテジスト、ジョセフ・クインラン氏によると、機関投資家が慎重な理由の一つは、昨年11月のトランプ氏再選後にS&P500が6%急騰し、さらに2月の最高値更新につながった、一連の相場上昇の規模にある。クライン氏は「われわれは勢い余って前のめりになっていた」と当時を振り返った。規制緩和や減税、企業買収への期待が「アニマルスピリッツ」を呼び起こし、まさにそのタイミングで関税戦争が降りかかった。
クインラン氏は、米国株の見通しになお強気で、新たな国際貿易体制が米企業に新たな市場を開き、売上や利益の拡大につながると楽観的だ。とはいえ、「政策の不確実性によって今後もボラティリティーの急上昇が起こることは避けられない」と、慎重な姿勢も維持している。
全体として、市場の変動性を示す指標は4月のトランプ関税騒動時の水準を大きく下回っている。「恐怖指数」とも呼ばれる米株の変動性指数(VIX)は足下で16.3と、4月8日に記録した52.3のピークから大きく低下している。
<不安定な市場>
機関投資家向け取引プラットフォーム、リクイドネットの米州市場構造部門責任者のジェフ・オコナー氏は「顧客はニュースの見出しへの感応度がやや鈍ってきているようだが、市場はいまだ健全とは言えない。ソーシャルメディアへの一連の投稿の背後にある『気まぐれな思いつき』に基づいて取引が動く可能性があることを誰もが認識している」という。
オプション市場の取引を見る限り、過去の株高のときに見られたような熱狂の兆しはほとんど見られない。バークレイズの米国株デリバティブ調査部門責任者のステファノ・パスカーレ氏は「機関投資家の間には相場上昇の流れに飛び乗ることに対して大きなためらいが見られる」と話す。過去の相場急落局面と異なり、機関投資家は相場反転に備える強気のコールオプションの利用にそれほど積極的ではないという。
リクイドネットのオコナー氏によると、市場の流動性を測る指標である売買スプレッドは、多くの銘柄で昨年終盤の水準を大幅に上回っているが、潜在的な注文の規模と数で見た「市場の厚み」は過去20年で最低水準のままだ。
「市場はこの数カ月、回復してきたように見えるが、市場の状況を表す最も適切な言葉は『不安定』だ」と、チャールズ・シュワブのマーケットストラテジスト、リズ・アン・ソンダース氏は指摘。市場が再び3月と同じように「過度の安心感」に浸っているのではないかと危惧しており、「相場は再び下方への動きが起きる寸前の状態となっている可能性がある」と言う。
ワシントンの投資運用会社ポトマック・リバー・キャピタルの最高投資責任者、マーク・スピンデル氏は、トランプ氏の絶え間ない政策変更による市場への影響を「スナップチャット大統領制」と表現する。「トランプ氏は長期目的投資家というより、まるでデイトレーダーのようだ」と、政策の一貫性のなさに言及。「ある瞬間には交渉しないと言い、次の瞬間には交渉すると言う」と、発言のぶれの大きさを指摘した。
もっとも現在の株価上昇局面でトレーダーは、トランプ氏のそうした急激な政策方針の転換をむしろ好意的に見ている節もある。急減な変更は、トランプ氏が市場のシグナルに耳を傾ける意思があるということを示していると受け止めているようだ。
インタラクティブ・ブローカーズのマーケットストラテジスト、スティーブ・ソスニック氏は「少なくとも今のところ株式市場は、こうしたスタイルと政策における一貫性のなさに伴うリスクには目をつぶり、トランプ政権は『市場に優しい』という評価を与えている」と述べた。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab