【焦点】FRBや日銀、ECB首脳がトランプ関税の影響の対処討議へ
ポルトガルのリゾート地シントラで開催される欧州中央銀行(ECB)フォーラムで、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長、ラガルドECB総裁、日本銀行の植田和男総裁らが7月1日のパネル討論会に参加する。
イングランド銀行のベイリー総裁や韓国銀行の李昌鏞総裁も参加して、金融政策について公に意見を交わす討論会では、トランプ米政権2期目発足から5カ月余りに世界経済に及んだ混乱が議論の中心となりそうだ。
トランプ大統領の関税措置に伴う貿易摩擦や、中東地域での対立に起因する原油相場の大幅変動など、ホワイトハウスの政策決定の影響にどう対処すべきかが、討論会の大きなテーマとなると考えられる。
ラガルド総裁とパウエル議長が公の場で討論のために同じ壇上に立つのは、2024年の同じイベント以来初めて。ロベルト・カンポス・ネト前ブラジル中銀総裁も参加した昨年のフォーラムの議論は、政治的緊張の中で金利を設定する試練について、グループセラピーのような様相を呈していた。ある意味、それは後に訪れる混乱の前兆でもあった。
それから1年が経過して25年も折り返し地点を迎え、トランプ氏の行動でもたらされたインフレと成長の双方に対するリスクを乗り越えねばならない状況で、政策運営は世界的にほぼまひ状態に陥っている。これはパネル討論に臨む全ての中銀総裁らが直面しているジレンマだ。
パウエル議長は24日の米下院金融委員会公聴会で証言し、金融当局として利下げを急がない姿勢をあらためて示した。一方、イングランド銀もこれに先立つ19日、政策金利の据え置きを発表した。
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ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の米国・カナダ担当エコノミスト、スチュアート・ポール氏は「コアインフレ率の加速や支出鈍化を背景に、米金融当局は不安を払拭(ふっしょく)することができず、年内利下げの適切な回数に関して議論が白熱化するだろう」との分析を示した。
ECBは5日に利下げし、当面はこれ以上の措置を取る準備が整っていない。一方、日銀は7月30、31両日の金融政策決定会合で政策金利を据え置くと広く予想されている。韓国中銀も慎重な対応を貫く姿勢を崩していない。
ECBチーフエコノミストのレーン理事は、30日からのフォーラム開催を前にポッドキャストで、このパネル討論が会合全体のハイライトだと強調した。「変化への適応」という今回のテーマは控えめ過ぎる表現のようにも見受けられる。
レーン氏は「7月や9月に何をするかという話だけでなく、一歩引いて根本的な力学を見つめ直す必要がある」とし、各国・地域の中銀総裁らが「非常に活発なセッション」を展開するだろうと予測した。
27日に発表された5月の米個人消費支出(PCE)は減少し、米消費者がやや疲弊しつつある様子が示された。6月の米雇用統計は労働市場の強さを占う手がかりとなるだろう。エコノミストは6月の非農業部門雇用者数が前月比11万3000人増加したと予測。これは過去4カ月で最少となるが、健全な労働需要と整合的な水準とされる。
米労働省労働統計局(BLS)は通常、金曜日に雇用統計を発表するが、今年は7月4日が独立記念日の祝日のため、3日に前倒しされる。6月の失業率は4.3%に小幅上昇したと予想されている。関税による潜在的なインフレ圧力の影響について、一段と明確な見通しを待っている米金融当局にとって、労働市場の著しい悪化があれば利下げを求める圧力を一層強める要因となるだろう。
これまでのところ、労働市場に亀裂が入り始めた兆候は散発的にしか見られていない。具体的には21年11月以来の高水準に増加した失業保険継続受給者数などが挙げられる。7月1日の米労働省の統計発表では、5月の求人件数が前月からほとんど変化がなかったことが示される見通しだ。
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7月3日に発表される5月のカナダの物品貿易統計では、対米輸出が引き続き大幅に減少したことが示される可能性が高い。その他の国への出荷は増加しているものの、米市場へのアクセス喪失を補うには至っていない。
カナダのデジタルサービス税の初回支払いが6月30日に期限を迎え、同国のユーザーから得た収益が2000万カナダ・ドル(約21億円)を超える米大手テクノロジー企業に対して3%の課税が行われる。
トランプ氏は27日、カナダとの貿易協議打ち切りの理由にこのデジタルサービス税を挙げた。
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原題:Powell and Lagarde Count Cost of Trump’s Turbulence: Eco Week(抜粋)