米国の気候作業部会報告を読む⑪:災害のリスクは減り続けている

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(前回:米国の気候作業部会報告を読む⑩:CO2で食料生産は大幅アップ

気候危機説を否定する内容の科学的知見をまとめた気候作業部会(Climate Working Group, CWG)報告書が2025年7月23日に発表された

タイトルは「温室効果ガス排出が米国気候に与える影響に関する批判的レビュー(A Critical Review of Impacts of Greenhouse Gas Emissions on the U.S. Climate)」である。

今回は、「10章 極端気象のリスク管理」について解説しよう。

以下で、囲みは、CWG報告書からの直接の引用である。

まずは本章の要約から。

極端な気象と気候変動による損失の傾向は、人口増加と経済成長に支配されています。気象予測の改善や早期警戒システムなどの技術的進歩は、極端な気象による損失を大幅に削減してきました。より良い建築基準、洪水対策、災害対応メカニズムは、GDPに対する経済的損失を低下させてきました。米国の経済成長によって、災害コストは相対的に低下してきました。このことは過去と現在の災害によるGDP損失割合の比較から明らかです。熱関連死亡リスクは、エアコンの普及などの適応措置により大幅に低下しました。このような措置は、手頃なエネルギーの供給に依存しています。米国では、極端な温暖化シナリオ下でも、人々が適応措置を実施できれば、死亡リスクは増加しないと予測されています。

米国大気海洋庁(NOAA)は、被害金額が10億ドルを超える災害が増加している、という“10億ドル災害キャンペーン”をして、これを気候変動による悪影響だとしてきた。しかし、米国経済が成長を続けるので、被害の金額が増えるのは当たり前のことに過ぎない。実際のところ、米国のGDPあたりの災害損失は減少傾向にある(図10.1)。このような批判を受けて、2025年5月に、NOAAは「10億ドル災害」キャンペーンを中止した(ピエルケ・ジュニア、2025)。

図10.1 NOAAの10億ドル規模の災害データセット(2023年7月にダウンロードしたバージョン)における災害ごとの損失額が国内総生産(GDP)に占める割合(1980年から2022年)出典:(Pielke, Jr. 2024)

GDPあたりの損失が減った理由は、天気予報・警報などが発達したこと、ダム・堤防や建築などのインフラが整備されたこと、経済が多角化して災害に脆弱な農業などのGDPシェアが減ったことだ。つまりは技術進歩と経済成長のお陰である。人災も大幅に減少した。

地球温暖化によって熱中症などによる暑さ関連の死亡が増加するということもよく言われているが、実際には寒さ関連の死亡の方が遥かに多い。

図10.2は、Gasparini et al.(2015)の分析結果を国別に見た分布を示しています。米国では、死亡原因の温度要因の割合は5.9%で、そのうち5.5%が寒さによるものでした。つまり、寒さは暑さの14倍の人命を奪いました。

図10.2 極端な寒さと暑さによる死亡率の割合(国別)出典:Gasparini et al.(2015)より再掲

したがって地球温暖化はむしろ死亡リスクを下げることになる。

だがIPCCは暑さによる死亡リスクばかりを強調してきた。

IPCCはAR6統合報告書において、全体的な状況を誤って説明しています。同報告書の第A.2.5節では次のように述べています:「すべての地域において、極端な熱波の増加は人間の死亡率と罹患率の増加を引き起こしています(非常に高い信頼度)」。しかし、極端な寒波における死亡率の全体的な減少については言及していません。

CWGは、暑さや寒さによる死亡率が米国において激減してきたことを紹介している。これは建築物が改善されたこと、エアコンが普及したことなどが理由である。そして、貧しい世帯は、厳しい暑さ・寒さになってもエアコンの使用を控える傾向にあるためリスクが高く、したがって安価なエネルギー供給こそが、貧しい人々の健康リスク回避のために重要であるとしている。

死亡リスクとエネルギーコスト

2016年の米国における気温変動と長期死亡リスクに関する研究(Barreca et al. 2016)は、米国における死亡率の増加が寒冷な天候と高温な天候の両方と関連していることを示しました。しかし、時間経過とともに、電気の普及と中央暖房・冷房(エアコン)の採用により、両方のリスクが劇的に減少しました。特に暑さに関連するリスクの減少が顕著でした。1960年以前、32℃を超える日は平均死亡リスク率に2.2%を追加しましたが、1960年以降、同じ天候は死亡リスクに0.3%しか追加せず、85%の減少となりました。1960年以前、4℃未満の気温は死亡リスクに約1%を追加しましたが、1960年以降、同じ天候は死亡リスクに約半分の量しか追加しませんでした。従来の住宅改善による適応は、極端な天候に対する公衆の脆弱性を劇的に軽減しました。暑さによる死亡率の全面的な減少は、信頼性が高く手頃な価格の電気の普及に依存する室内エアコンの広範な採用に起因します。

これに関連して分かることは、暖房・冷房システムの使用は、エネルギーの価格が手頃であるかどうかに依存するということです。Doremus ら(2022)は、米国における富裕層と低所得層の世帯は、穏やかな気温の変動に対してはエネルギー支出を同様の割合で調整するが、極端な気温の変動に対してはそうではないことを示しました。気温が非常に低温(5℃以下)に低下すると、高所得層の世帯ではエネルギー支出が1.2%増加しますが、低所得世帯ではわずか0.5%の増加に留まります。非常に暑い日(30℃超)には、高所得世帯の電気代は0.5%増加しますが、低所得世帯では全く変化しません。後者の結果は、すべての世帯がエアコンを保有するサブサンプルでも観察されます。Congら(2022)は、アリゾナの世帯サンプルにおいて同様の結果を報告しています。この結果は、家庭用暖房・冷房システムの普及が進んでも、エネルギーの支払いが困難な低所得世帯は気象の極端な変化にさらされ続けることを示しています。

なお、気候変動による死亡率や災害の経済損失への影響については筆者らも書いてきたので詳しくはリンクを参照されたい。

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