FRの傑作が今お手頃 トヨタ86を中古で(1) 理想的なドラポジ 出色ハードをおさらい
後輪駆動でマニュアルのスポーツカーは、現在では貴重な存在。しかし近年の最高傑作と呼べる中古車が、お手頃な価格で売られている。今後の高騰は想像に難くない。
それは、軽いFRシャシーに正確なステアリング、キレの良い自然吸気エンジンというパッケージングのトヨタ86。本物のドライバーズカーであり、以前のAUTOCARの試乗レポートでは満点の評価を得ている。
トヨタGT86(86/2012〜2021年/英国仕様)2.0L水平対向4気筒エンジンは、7000rpmで200psを発揮し、20.8kg-mの最大トルクは6400rpmで到達。確かに2012年当時、同じくらいの予算を準備すれば、もっと速いホットハッチが欧州では手に入った。しかし、スピードがすべてではない。
7400rpmのレッドラインへ引っ張れば、1.3tもないクーペは活発に走り出す。他方、モアパワーを求めて、英国の中古車市場にはターボチャージャーやスーパーチャージャーが組まれた例もあるが、信頼できる内容かは確かめたい。
シリンダーの寸法がモデル名の由来
スケールメリットが強みのトヨタだが、86の91%は専用部品。世界最大規模の自動車メーカーが、小さなクーペをどれだけ意欲的に開発したのか、理解できる数字だろう。
モデル名は、エンジン内部、シリンダーの内径(ボア)と工程長(ストローク)が、それぞれ86mmなことから来ている。かつてのトヨタ・セリカやMR2も、同じシリンダー形状が与えられていた。ちなみに、テールパイプの直径も86mmだ。
トヨタGT86(86/2012〜2021年/英国仕様)このエンジン開発を主導したのは、スバル。小型・軽量で、低重心を狙えることを理由に、水平対向ユニットが選ばれた。トランスミッションは、手首で変速できるほどショートストロークの6速マニュアルか、6速オートマティックが用意された。
前後の重量配分は、53:47。技術者は操縦性のバランスを吟味し、あえて僅かにフロント寄りに設定したそうだ。サスペンションは、前がマクファーソンストラットで、後ろがダブルウィッシュボーン。直感的なコーナリングを叶えている。
低く理想的なドラポジ 間隔が広すぎるペダル
インテリアは、プラスティック製パネルが硬く、やや高級感に欠ける。デザインも洗練度はほどほど。それでも製造品質は高く、シートポジションは低く理想的。正面に大きなタコメーターが配され、ドライバーが中心であることを物語る。
ステアリングホイールは、トヨタ史上最小径。センターコンソールには、旋回時に腕を支えるべく、ニーパッドが載る。ダッシュボードの上端にはセンターマークがあしらわれ、フロントガラス越しに確かめられる。
トヨタGT86(86/2012〜2021年/英国仕様)ただし、3枚のペダルの間隔は広すぎる。シフトダウン時のヒール&トウは難しい。
操作性の良いダッシュボード中央には、タッチモニターが備わる。タッチ2と呼ばれたインフォテインメント・システムは、ブルートゥースに対応。USBポートも付いている。
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英国で提供されたグレードは、ベースとプロの2段階。17インチのアルミホイールとLEDヘッドライト、フォグランプ、クルーズコントロール、2ゾーンのオートエアコン、キーレスエントリーなど充実装備を標準で得ていた。
プロへアップグレードすると、ボディキットにスウェード張りのダッシュボードを獲得。内装もレザーとアルカンターラで仕立てられ、シートにはヒーターが内蔵された。またグレードを問わず、英国仕様では加速に有利なトルセン式LSDが組まれている。
トヨタGT86(86/2012〜2021年/英国仕様)最近の英国では、7500ポンド(約149万円)前後で、悪くない前期型の86を探せる。1万ポンド(約198万円)以上へ予算を増やせば、走行距離が短くなり、望ましい車両を見つけられるはず。運転体験の濃さを考え、筆者は6速MTを推したい。
2017年に小変更を受け、ボディとインテリアがリフレッシュ。吸排気系とステアリング、ダンパーは改良された。その後期型は、2万ポンド(約396万円)前後へ上昇する。
走りの印象は、トヨタ86を中古で(2)にて。
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執筆
マット・プライヤー
Matt Prior
- 役職:編集委員 新型車を世界で最初に試乗するジャーナリストの1人。AUTOCARの主要な特集記事のライターであり、YouTubeチャンネルのメインパーソナリティでもある。1997年よりクルマに関する執筆や講演活動を行っており、自動車専門メディアの編集者を経て2005年にAUTOCARに移籍。あらゆる時代のクルマやエンジニアリングに関心を持ち、レーシングライセンスと、故障したクラシックカーやバイクをいくつか所有している。これまで運転した中で最高のクルマは、2009年式のフォード・フィエスタ・ゼテックS。
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翻訳
中嶋けんじ
Kenji Nakajima
- 1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。
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