「ちいかわ」好きの子供たちがかわいそう…ハッピーセットで過ちを繰り返すマクドナルドは転売ヤーに甘すぎる 今こそ「子供向け」という原点に立ち返るべき

人気キャラクター「ちいかわ」のおもちゃが付くマクドナルドのハッピーセットを転売目的で購入する人が多発し、キャンペーンが早期終了となった。桜美林大学准教授の西山守さんは「最近のハッピーセットの特典は大人ウケを狙ったものや、ハンバーガーの価値を超えたものが多く見受けられる。『お子さまセット』としての原点に立ち返るべきではないか」という――。

編集部撮影

販売終了のお知らせが貼られたハッピーセットのディスプレイ

日本マクドナルドは5月24日、ハッピーセットの「マインクラフト ザ・ムービー」「ちいかわ」第2弾の早期終了を発表した。同時に5月30日から開始予定の第3弾の中止も発表している。

第1弾は5月16日に販売を開始したが、顧客が殺到し、わずか3日後の19日に販売終了した。転売が相次いだり、セットメニューと思しき商品が大量廃棄されたりする問題も起こっていた。

第2弾においても、フリマサイトで大量の転売が起きるに至っている。

フリマサイトではちいかわハッピーセットが多数出品されている

なぜ、マクドナルドは第1弾のトラブルを知りながら、十分な対応を取ることができなかったのだろうか? 今後、こうしたことが起こらないためには、どのような対策を講じるべきなのだろうか?

過去の教訓は活かせなかったのか?

先述の通り、第2弾で起きた買い占めや転売の問題は、すでに第1弾でも起きている。

第2弾開始の際は、“1人4セット”という制限を設け、「転売または再販売、その他営利を目的としたご購入はお控えください」といった周知を行ったが、効果は限定的だったようだ。

この対応は、実は第1弾と同じであり、それを第2弾で改めて広く周知したに過ぎない。購入数を1人あたり1セットなり、2セットに減らすなり、販売対象を子供に限定するなりの対応が取れなかったのだろうか?

そうすれば、買い占めや転売にも手間がかかるので、一定の効果を上げることはできたのではないかと思う。

第2弾開始までの期間が短いため、購入条件に変更を加えることが難しかったのかもしれない。マクドナルドの店舗数は、日本全国で約3000店もある。全店舗津々浦々に変更を周知し、十全な対応をするのは容易なことではなかったのではないだろうか。

ただ、マクドナルド側で何らかの対策を講じることはできなかっただろうかという疑問は残される。


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元々、ハッピーセットは「お子さまセット」という名称だったが、1995年から現在の名称に変更になった。通常のセットにおもちゃの「おまけ」が付いてくることを考えると、原価率が高く、利益率が高い商品とは言えないだろう。

レストランのお子様ランチと同じで、ファミリー層を取り込むことと、子供にリピートしてもらうことで、将来の顧客を育成しようという意図があると思われる。

最近のハッピーセットは、必ずしも子供向けとは言いがたい。実際、2022年のアニメ映画『すずめの戸締り』コラボの際は、CMに神木隆之助さんが出演して、大人も購入できることをアピールしていた。

マクドナルドは公式サイトで、「ハッピーセットは『ほん』や『おもちゃ』で、子供たちが夢中になって遊びながら、いきいきと自分らしさを発揮し、発達することをサポートしていきます」と、本来は子供向けであることをうたっている。

この辺りで、マクドナルドは原点回帰して、ハッピーセットを「子供向けのメニュー」としてアピールするべきではないかと思う。購入者を子供に限定するかどうか、実際に子供だけに販売することが可能なのかは要検討だが、まずは大人が買いづらい空気感を作ることを検討してはどうかと思う。

写真=iStock.com/Madzia71

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需要を予測するのは難しい

すべての元凶は、需要が供給を上回ってしまっていることにある。

供給量を増やせばよいのではないか? という意見もあるのだが、これが思いのほか難しい。筆者は広告会社で一時的にキャンペーンの企画をやっていたが、キャンペーンは実施の数カ月前から企画が始まる。大きなキャンペーンほど、準備に時間も労力もかかる。

一方で、キャンペーン実施時にどのくらいの需要があるか、予想が難しくなっている。変化の激しい現在、流行がいつまで続いているのかわからない。SNSが発達している現在では、口コミで予想外にヒットが加速することもある。

逆に、供給が需要を上回ってしまうと、大量の在庫を抱えてしまう恐れもある。筆者自身、会社員時代に売れ残ったコラボ商品を社内販売で購入したこともある。

今回の場合は、大ヒットキャラクターとのコラボであり、マクドナルド側も反響を予測していたようで、第1弾から購入数の制限、転売自粛を告知していた。それでも、十分に反響は予想できなかったようだ。

衣料品大手のGUも、「ちいかわ」とのコラボTシャツについて、購入個数を制限、転売の自粛を呼びかけるに至っている。

「ちいかわ」は2022年の「日経トレンディ」の「ヒット商品ランキング30」で2位に選ばれている。さすがに、企画時点でヒットが加速しているという予想をするのは困難であったのではと思う。


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2024年の同じハッピーセットでの「星のカービィ」コラボの際にも、第1弾、第2弾は早期終了、第3弾は中止。店舗混雑、転売の問題も起きている。

2024年末から2025年1月にかけて行われたアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』とのコラボキャンペーンでは、抽選でフィギュアの購入権が当たるキャンペーンだったが、当選者が発表されると、商品が届く前からフリマサイトに商品が出品されるという問題が起きた。

2024年1月のゴジラとのコラボ商品「ゴジラVSマクドナルド BE@RBRICK」でも転売問題が起きている。

振り返ると、今回起きたような問題は昨年から起こっていた。十分な対策を取らなければ、今後も同じようなことは起きうるだろう。

編集部撮影

大人のファンも多いちいかわハッピーセット

マクドナルドが対応策を講じるべき

転売の問題については、転売行為を行う「転売ヤー」に問題があることはもちろんだが、転売自体は違法行為とは言えず、法律で取り締まることは実質的に難しい。

また、企業側がいくら「転売禁止」を呼びかけたところで、経済合理性があり、取り締まりにも抜け道がある以上、やってしまう人が出てくることは避けられない。

フリマサイト側で対策を取るべきだという声も大きいのだが、これにも限界がある。マクドナルドに限らず、コンサートのチケットや品薄商品など、これまでも何度も転売問題が起きており、対応策は取られてきたが、十分な成果を上げているとは言いがたい。

そもそも、転売を目的とした売買と、たまたま必要のなくなった商品の売買を区別することは困難だ。前者を取り締まるために、後者まで制限してしまうと、フリマサイトのビジネスモデルが成立しなくなってしまう。

転売が起きること自体はマクドナルドに非があるわけではないが、有効性を考えると、マクドナルド側が対策を取るのが最も有効だと言えるだろう。

写真=iStock.com/jfmdesign

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需要に応じて供給量を柔軟に調整するのがベストではあるが、それ以外にどのような対応が考えられるだろうか? 以下のように需要を調整することも必要となるだろう。

1.特典の価値を下げる 2.購入機会の抑制を図る

3.購入者に制限を設ける

新古典派経済学的な発想では、需要に合わせて価格を調整すればよいのだが、キャンペーン商品はお得なこと自体に価値があるから、価格を大きく上げることはできない。そうであれば、特典の価値を下げるほかはない。

昨今のハッピーセットは特典が豪華すぎるように思える。人気キャラクター・コンテンツのコラボであれば、需要はどうしても大きくなるのだが、「おまけ」を超える価値のある特典を提供するのは本末転倒ではないかと思う。

早期販売終了した「星のカービィ」と「ちいかわ」に共通するのは、4種類の特典が用意されていることだ。これによって、欲しい特典を手に入れたり、4種類コンプリートしたりするために、複数購入やリピート購入が促進されてしまう。

それ自体は悪いことではないのだが、それによって購入できなくなる人が出てしまっては、マクドナルド側にとっても機会損失になってしまう。

売れるために工夫を凝らすのはマーケターの使命ではあるが、意図を超えて売れすぎる弊害も同時に意識すべき状況になっていることもまた事実だ。

任天堂「Switch2」から学ぶこと

ハッピーセットの騒動が起きているほぼ同時期の5月20日、任天堂の新作ゲーム機「Nintendo Switch 2」の予約販売の抽選結果が発表された。X(旧Twitter)上では、落選報告がトレンド入りしたが、買えなかった人の批判の声は意外なほどに少なかった。

任天堂は、同社のファンや旧Switchのヘビーユーザーを優先して申し込めるようにしたり、国内線用モデルと多言語対応モデルに価格差をつけて販売したりするなど、転売を抑制する対策を取っている。

高額のゲーム機とファストフードのメニューを同一に扱うことはできないが、任天堂のやり方は参考になる点もあるように思う。マクドナルドも公式アプリ、さらに公式アプリを通じたモバイルオーダーやデリバリーサービスの提供を行っている。今後は、顧客を選別して、優良顧客、あるはファミリー客に優先的に購入できるような施策も考えられるのではないかと思う。

マクドナルドは、今回の経験をもとに、超大手のグローバル外食チェーンならではの先進的な対応を期待したい。

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