年俸3億円で残留か〝手切れ金〟払って移籍か 西勇輝と阪神球団が熟考する来季の去就 鬼筆のトラ漫遊記
〝手切れ金〟の支払いで他球団移籍か、それとも年俸3億円のまま来季も阪神残留か-。今季でプロ17季目を終える西勇輝投手(34)の去就が注目されます。2年ぶりのリーグ優勝を果たした阪神は、10月15日からのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージに向けて「次の準備」中ですが、気になるのは通算124勝右腕の処遇。今季の1軍登板は4月12日の中日戦(甲子園)の1試合だけ。CS以降の戦いでも〝戦力外〟となれば、「年俸3億円の4年契約」で来季まで契約が残る西勇は今後の野球人生をどう考えるのか? 球団側も功労者の〝飼い殺し〟は絶対に避けたいはずですね。
監督人事に動き
プロ野球はレギュラーシーズンの最終盤を迎えました。この時期は各球団の監督人事やベテラン選手の引退など、さまざまなニュースが飛び交います。セ・リーグでは最下位に低迷したヤクルトの高津臣吾監督(56)退任→池山隆寛2軍監督(59)の監督昇格や、阪神に独走を許した責任を取ってDeNA・三浦大輔監督(51)が辞任表明するなどの動きが次々に明らかになりました。阪神では代打などで活躍した原口文仁内野手(33)の現役引退も…。
本拠地最終戦のセレモニーを終え、選手に胴上げされるヤクルト・高津臣吾監督=28日、神宮球場(長尾みなみ撮影)こうした状況下、阪神は9月7日の優勝決定後、10月15日から始まるCSファイナルステージに向けて、藤川球児監督(45)いわく「次の準備」に取り掛かっています。7日のV決定後の16試合は6勝9敗1分け。これも指揮官の計算のうち!?となれば、何ら心配はいらないでしょう。たぶん…。
一方で、チームの方針とは全く違う次元で「10・15」を見据えている選手もいるはずです。その一人が今季でプロ17季目を終える西勇ではないですか。今季は1軍の開幕メンバーに入れず、1軍登板は4月12日の中日戦での先発登板の1試合だけ。4回⅔を3失点で負け投手になった後は、右膝の故障などもあり、再び1軍登録されることはありませんでした。
来季が契約最終年
ファームでは14試合に登板し、3勝4敗、防御率3・29でしたが、藤川監督はプロ通算124勝の右腕をレギュラーシーズンではほぼ起用しませんでした。そして10月15日から始まるCSファイナルで西勇を出場選手登録するのか? ある阪神OBはこう話しました。
中日・細川成也に適時打を浴びる阪神・西勇輝。今季の1軍登板はこの1試合だけにとどまった=4月12日、甲子園球場(甘利慈撮影)「村上、才木、大竹、伊藤将、高橋遥、デュプランティエらレギュラーシーズンで先発として成績を残した投手がそろっている。たとえCSを勝ち抜き、25日から始まる日本シリーズに勝ち進んでも、西勇が先発登板することは考えにくい。かといってリリーフ陣も充実しているので、登録メンバー入りすることも考えにくい」
レギュラーシーズンでもポストシーズンでも〝戦力外〟となった場合、西勇は今後の野球人生をどのように考えるのか。球団もフリーエージェント(FA)で2018年オフにオリックスから獲得し、阪神で7シーズン投げて2年前のリーグ優勝&日本一にも貢献した右腕の処遇をどう考えるでしょうか?
これは双方ともに熟考に値するでしょう。なぜならば、西勇は22年オフに年俸3億円の4年契約を締結していて、来季は4年目。そのまま阪神残留ならば、年俸3億円は支払われます。ただ、西勇とすれば来季も1軍で投げるチャンスがないことを〝予感〟しながら現状に甘んじることは、プロ野球人生の今後においてどうなのか…。
巨人を完封し、喜びを爆発させる阪神・西勇輝。この年は8勝を挙げ、チームのリーグ優勝に貢献した=2023年9月12日、甲子園球場(安部光翁撮影)球団としても実績のある投手を2軍に2年連続で〝漬けておく〟ことはまさに「飼い殺し」のイメージが強く、これは避けたいでしょう。かといって年俸3億円で今季1軍登板1試合の右腕を同じ条件で引き取る球団が他にあるのかといわれれば絶望的です。
年俸の半額肩代わりも
23年オフ、中田翔内野手が年俸3億円の3年契約を締結していた巨人との契約を1年目終了後に自ら破棄して退団。すぐに獲得に乗り出した中日と年俸3億円の2年契約で合意に至り、契約が切れる今季限りで現役を引退しました。
23年シーズンは巨人で92試合に出場し、打率2割5分5厘、15本塁打、37打点でしたが、阿部慎之助新監督の戦力構想から外れ、ちょうど4番不在に苦しむ中日の立浪監督が中田翔獲得を熱望したことで「巨人をオプトアウト→同条件で中日移籍」が成立したのですが、同じ流れを西勇に望むのは無理です。では西勇&阪神球団にはどのような展望があるのか。球界関係者は一つの〝解決策〟を示しました。
引退試合を終え、場内を一周する中日・中田翔=19日、バンテリンドーム(佐藤徳昭撮影)「今の年俸を他球団がそのまま受け継ぐのは無理だろう。しかし、阪神としては来季も起用しない投手にそのまま在籍させるのも酷。一つの方法は阪神が年俸の何割かを肩代わりする形で、他球団に譲渡するというプランだ。阪神が来季年俸の5割に当たる1億5千万円を支払い、パ・リーグの球団に譲渡を進めれば、手を挙げる球団が出てくる可能性がある」
つまり、阪神は〝手切れ金〟を支払う形で、西勇の新たな活躍の場を模索する-という方法ですね。今後、西勇が自ら受け入れ先を探すこともあり得ますが、年俸3億円を捨ててまで自由契約を求める? これは相当な決断ですし、現実的ではないでしょう。
力のないベテランは必要ない
思い起こせば、昨年10月15日、藤川監督は就任会見で「プレーヤー個人に力がなくて、ベテランというのは僕は必要ない」と言い、「(阪神には)力もあって意見も(若手に)橋渡しできる選手はいない」と発言しました。誰を指した言葉なのか…。うすうす感じられる存在がいました。
安藤優也投手チーフコーチ(左)と話す阪神・藤川球児監督=25日、甲子園球場(林俊志撮影)11月20日に年俸3億円の現状維持で契約更改を終えた西勇は監督発言を受けて「年齢を重ねて、どうみても邪魔だろうなと思われたら引退するだろうし、叱咤(しった)激励というよりも当たり前のことを伝えただけじゃないですかね」と冷静に話しました。この時点から何やら胸騒ぎはあったのですが…。
西勇の通算成績は124勝109敗1セーブ、防御率3・10です。まだまだやれる…。誰よりも本人がそう思っているはずです。
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【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) サンケイスポーツ運動部記者として阪神を中心に取材。運動部長、編集局長、サンスポ代表補佐兼特別記者、産経新聞特別記者を経て客員特別記者。岡田彰布氏の15年ぶり阪神監督復帰をはじめ、阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。