海図なき世界 正念場の日本経済 閉塞感を打ち破る志こそ

デフレ脱却をはやし、日経平均株価は2025年に5万円の大台を超えたが、日本経済の復活には程遠いのが実情だ。日経平均が5万2000円を超えたことを示すボード=東京都中央区で2025年10月31日午前10時10分、西夏生撮影

 日経平均株価5万円に沸く市場をよそに、日本経済の閉塞(へいそく)感は解消していない。トランプ米政権の高関税政策や日中関係の悪化など逆境を乗り越え、再生への道筋を付けられるかどうかの正念場だ。

 経済データを見ると、デフレに苦しんだ「失われた30年」からは脱却しつつある。日銀は2025年度の物価上昇率を2・7%程度と見込んでいる。春闘での高水準の賃上げも続きそうだ。日銀が政策金利を引き上げ、「金利のある世界」に移行した。

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 だが、足元の物価の上昇や堅調な企業業績は、歴史的な円安によってかさ上げされたものだ。25年度の実質成長率は1%を下回る見通しである。国内総生産でインドに抜かれ世界5位に転落することが予想されるなど、国力低下に歯止めがかかっていない。

 背景には、政府や企業がデフレ時代の意識を引きずって、成長力を底上げする努力を怠っていることがある。

縮み志向脱せぬ経営者

 高市早苗政権は「強い経済の復活」を掲げ、大規模な景気対策を講じた。人工知能(AI)や半導体、造船など17の重点分野を選定し、国家主導で産業競争力を強化する青写真も描く。

 だが、財政支出で一時的に景気を押し上げても、持続性は乏しい。むしろ財政悪化への懸念から円安と長期金利の上昇を招き、国民生活や企業活動を圧迫する。

 政府が太鼓をたたいても、産業競争力が高まるわけではない。

 「国ができるのは、税制や規制緩和など企業の投資を後押しする環境整備だけだ。プレーヤーが動かなければどうしようもない」。安倍晋三政権時代に経済政策の策定に関わった新原浩朗元内閣審議官(現キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)は語る。

記者会見で経済政策を説明する安倍晋三首相。金融緩和、財政出動、成長戦略を盛り込んだ「三本の矢」が道半ばと評される中、新たな「三本の矢」を打ち出した=東京・永田町の自民党本部で2015年9月、竹内幹撮影

 アベノミクスでは、金融緩和と財政出動に続く3本目の矢である成長戦略が奏功しなかった。その反省の弁である。

 企業がコストカット型経営から抜け出せていないのは今も同じだ。全体で600兆円超もの利益を内部留保としてため込んだまま、イノベーションに十分な資金を投じていない。

 経営者が言い訳にしてきた円高や高い法人税などは、すでに是正されている。にもかかわらず、新規投資に消極的な姿勢を続けていては成長はおぼつかない。

 近年の賃上げも人手不足に対応した防衛的な色彩が濃く、デジタル時代に対応した人材の育成などに十分な資金を回していない。このままでは生産性の向上を図れず、賃上げが持続できなくなる恐れもある。

本田技研工業社長を務めた本田宗一郎氏

 「開拓者精神で新しい世界に挑み、失敗・反省・勇気という三つの道具を繰り返し使うことによってのみ、成功できる」。低燃費車で世界を席巻したホンダの創業者、本田宗一郎はこう語り、イノベーションを追い求めた。そうしたアニマルスピリットを復活させる必要がある。

課題解決を成長の糧に

 日本企業は00年代以降の世界的なデジタル化の波に乗り遅れ、AIの開発でも米中に大きく先行された。だが、世界有数の課題先進国の立場を逆手に取って、新たな産業の柱を育てることは可能だ。

 ロボットとAIを組み合わせ、得意のもの作りに応用すれば、世界的な労働力不足を解決する画期的なイノベーションにつながる。少子高齢化への対応に役立つ介護用ロボットは、海外でも需要拡大が期待できる。

 新原氏の研究では、3Dプリンターの基幹技術やQRコードなど近年の日本発のイノベーションは、社員が才能を発揮できる自由な職場から生まれた。経営者は多様な人材を生かせる柔軟な組織作りを心がけなければならない。

 米国が保護主義に走り、中国は経済的威圧を強めている。企業が国際競争に挑むためには、自由貿易体制の立て直しが欠かせない。

 政府は、日本が加盟する環太平洋パートナーシップ協定(TPP)と欧州連合(EU)との連携を主導するなど通商政策に注力すべきだ。鈴木一人東大教授は「日欧ともIT製品の製造に不可欠なレアアース(希土類)の調達を中国に依存している。代替調達先の確保で連携できれば、経済的威圧に対抗する手段になる」と、経済安全保障上の意義を指摘する。

 日本経済の復活に向け、官民が高い志を持ち、それぞれの責任を果たすことこそが求められる。

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