民間が軍支えるウクライナのユニークな構図 大統領の元ライバル「無人機も衛星も寄付」
ロシアの侵略を受けるウクライナには、民間団体が資金を集め、軍に不足している物資を供与するというユニークな構図がある。そんな民間団体の中で最大級のものが「セルヒー・プリトゥラ慈善財団」だ。ゼレンスキー大統領のコメディアン時代のライバルとして知られ、財団を率いるセルヒー・プリトゥラ氏(44)が活動内容についてインタビューで語った。
無人機3万6千機、輸送車両1900台、医療キット40万個…
プリトゥラ氏によると、2022年2月の露軍全面侵攻以降、財団がクラウドファンディングなどによって集めた寄付金は約3億ドル(約443億円)。「戦争が早期に終わると期待し、人々がなけなしの金も寄付した侵攻当初のような状況はもはやない。戦争長期化に伴って人々はより計算して金を支出するようになった」とプリトゥラ氏は現状を説明する。
個人寄付の落ち込み分を補うため、23年秋からは国内外の企業や外国の慈善団体に協賛を呼びかける活動に力を入れているという。
キーウの財団本部でインタビューに応じたセルヒー・プリトゥラ氏(遠藤良介撮影)財団が寄付金によって軍に供与した物資は多岐にわたる。全面侵攻から今年5月までの供与量は、攻撃ドローン(無人機)が約2万5千機、大小の偵察ドローンが約1万1千機、通信関連機器が約2万4千台、輸送車両が約1900台、装甲車が約190台、携行医療キットが約40万個-などとなっている。
「何が軍にとって最も意義ある供与だったかと問われると難しい。塹壕の兵士と司令部の将校では感じ方がだいぶ違うだろう」
「人民の衛星」が露軍攻撃に大活躍
プリトゥラ氏はこう前置きした上で、ウクライナ軍で唯一の偵察人工衛星は財団が供与したものだと明らかにした。財団が22年8月、すでに軌道上にある衛星をフィンランド企業から購入して軍に供与し、「人民の衛星」と名付けた。
衛星は露軍の拠点を攻撃する際の「目」として大活躍しており、23年9月には露海軍の揚陸艦や潜水艦を南部クリミア半島で爆破するのに貢献した。ウクライナは米国などからも衛星情報の提供を受けているが、「自前の衛星だと軍は格段に早く画像を得られる」という。
財団はまた、ドローンが敵の通信妨害を回避するためのソフトを諸外国の研究者に開発してもらった。破壊された露軍の戦車や装甲車を修理し、ウクライナ軍に供与することにも取り組んでいるという。
「少しの共感と支援を」
ロシアによる14年のクリミア併合と東部紛争以降、ウクライナは急ピッチで軍の改革と増強を進めたが、ロシアの物量戦にあらがうには不十分な点が多い。軍は必要とする物資を民間に向けて公表し、寄付や供与を呼びかけている。
「私は14年から軍を支援するボランティア活動に取り組んでおり、信頼と知名度がある。それを人々の命を救うために生かすべきだと考えた」。財団の活動に取り組む理由をこう話し、プリトゥラ氏は訴えた。
「ウクライナが倒れれば、ロシアは次に東欧やバルトの国を攻めるに違いない。ウクライナ人が体験していることを、私は他の国の人々には決して味わってほしくない。どうかウクライナに少しの共感を持ち、支援してほしい」(キーウ 遠藤良介)