【為替】3月および第1週の米ドル/円を予想する
日本では2月8日に衆院選挙が行われ、自民党の歴史的圧勝となりました。自民党の勝利自体は基本的に選挙前から予想されていたものでしたが、そうなった場合、高市政権の積極財政を懸念して債券安・円安が再燃するとの見方が多かったものの、結果的には逆の債券高・円高となりました(図表1参照)。ではそれはなぜでしょうか。
選挙前の円安は、基本的に日本の長期債、とくに30年物国債など超長期債価格の下落と連動したものでした。ところが、超長期債相場は1月下旬、日米の通貨当局が、為替介入の前段階の行為とされる「レートチェック」を行った頃から反発に転じ、さらに衆院選挙後も自民党が勝利すれば下落再燃との見方に反し、一段の反発に向かいました。
前述のとおり、選挙前は日本の財政を懸念した長期債と円の売りが続いたと理解されていましたが、そのうちの長期債が反発に転じたことから、円も反発に転じたというのが基本だったのではないでしょうか(図表2参照)。
債券安一服で米ドル/円と日米金利差との相関関係が復活
米ドル/円は、超長期債を中心に日本の債券価格が大幅に下落する中では日米金利差変化でほとんど説明できない動きが続きました。ただそのような債券価格の下落が一段落すると、金利差との相関関係もある程度復活しました。
衆院選挙後に一時152円台まで米ドル安・円高となった動きは、基本的には日米金利差(米ドル優位・円劣位)縮小に沿ったもので、その後156円台後半まで再び米ドル高・円安に戻ったのは、日米金利差拡大である程度説明できそうです(図表3参照)。
2026年に入ってから2月までの米ドル/円は、基本的に152~159円のレンジを右往左往し、これまでのところ先行きのトレンドが定まるには至っていない状況でしょう。では3月は159円を超えて米ドル高・円安に向かうのか、それとも152円を割れて米ドル安・円高に向かうのでしょうか。
3月の注目点=「日本の財政懸念の円売り」は終わったのか
金利差で説明できない「異例の円安」
選挙前に、一時160円に迫るまで米ドル高・円安となった動きは、日米金利差縮小から異例なほど大きく、長くかい離したもので、その意味では金利差との関係からは「異例の円安」でした(図表4参照)。
そして、そのような「異例の円安」をかなりの部分まで説明できそうだったのは、日本の長期金利、具体的には10年債利回りの上昇でした(図表5参照)。この長期金利上昇は、日本の財政リスクへの懸念が主因とされました。
このため、金利差では説明できない「異例の円安」は、日本の財政リスクへの反応、つまり「財政懸念の円売り」による結果と考えられました。以上のことから、再び160円に向かう円安が再燃するかどうかは、衆院選後一服した形となった財政懸念が再燃するかが最大の焦点になるでしょう。
衆院選後、事前の予想に反して債券高・円高となったのは、連立与党が予想以上の大勝となり政権基盤が安定化したことにより、ポピュリズム的に財政規律を維持できなくなる懸念が後退したためといった解説が基本だったでしょう。ただし高市総理は、選挙公約とした消費税減税を進める方針を今のところ変えていないようです。選挙前まで高市政権の積極財政を懸念して進んでいた「財政懸念の円売り」の流れが転換したのかは、まだ判断が難しいのではないでしょうか。
このような高市政権の経済政策に対しては、金融市場だけでなく、じつは米トランプ政権内でも不安視されている可能性がありそうです。2月23日付け日経新聞によると、1月下旬にスイス・ダボスで行われた片山財務相との非公式会談で、ベッセント米財務長官は、「高市首相はこのままではトラスになるか、メイになってしまうのではないか」と、財源が曖昧なまま大減税を発表し、英国の通貨・債券・株「トリプル安」の「トラス・ショック」を招いた人物に重ねるような発言を行ったとされます。
その上で、2月25日付け日経新聞は、1月23日の日米「レートチェック」が、円安を阻止するための日本からの協力要請を受けたものではなく、ベッセント長官主導だった可能性を報じました。2月23日付け報道と合わせると、ベッセント長官は、高市政権の円安・金利上昇回避姿勢に懐疑的で、だからこそそれが米経済に悪影響となることを回避するべく、米国主導で円安けん制の「レートチェック」に動いた可能性もあるしょう。
高市総理の本音は円安容認、利上げ反対で変わらず
衆院選挙中に、高市総理が発言した「円安は輸出企業にとって大チャンス、外為特会にはホクホク」といったいわゆる「ホクホク発言」、そして2月25日付の毎日新聞による2月に植田日銀総裁と会談し、追加利上げに難色を示したといった報道などを合わせると、2024年の自民党総裁選挙中の「今金利を上げるのはアホやと思う」といった具合の円安容認、利上げ反対の姿勢は今でも基本的に変わっていない可能性があります。
これまで、みてきたように、高市総理の円安容認、利上げ反対といった基本姿勢に変化がなく、それに対してむしろ米政権内に米経済への悪影響を避けるという観点の考え方があるなら、衆院選挙前までの「財政懸念の円売り」再燃の有無は、3月に予定されている高市総理とトランプ米大統領による日米首脳会談が大きな焦点になりそうです。
日米の金融政策発表も予定される3月
一方で、米ドル安・円高へ向かう要因としては、日米金利差縮小が鍵になるでしょう。日米の金融政策は、日本が利上げ、米国が利下げと逆方向を目指す中で、金利差は基本的に縮小に向かう可能性が高いと考えられます。ただ2月には、上述のように高市総理が追加利上げに難色を示したといった報道、その一方で米国では次期FRB(米連邦準備制度理事会)議長人事や強い景気指標により利下げ見通しが後退し、その結果、金利差が拡大しました。
3月は、日米ともに金融政策発表が予定されていることから、それらを受けてこの先の金融政策の見通しが日米金利差にどう影響するかも、米ドル/円の行方を考える上での注目点になります。
3月の米ドル/円予想レンジは152~160円
以上を踏まえると、3月の円安要因として注目されるのは、日米首脳会談をにらみ、高市総理の円安・長期金利上昇の回避姿勢が試される可能性ではないでしょうか。一方の円高要因としては、やや不安定になってきた株価動向などの影響も受けて、日米の金融政策が金利差縮小にどれだけ影響するかに注目したいと思います。その上で、3月の米ドル/円は未だ2月までのレンジ・ブレークの決め手不足なので、152~160円で予想します。
今週(3月2日週)の米ドル/円は154~159円で予想
米国とイスラエルによるイランへの攻撃を受けた原油価格への影響が注目されます。原油価格が大きく上昇するようなら円売り要因となるでしょう。3月6日には米2月雇用統計の発表が予定されており、それがこのところの米早期利下げ予想後退の流れにどう影響するかが注目されます。
また日本の国会における高市総理の円安容認や利上げ反対姿勢への反応も要注意でしょう。株価急落がなければ、基本的には円安バイアスが強い展開となりそうなので、衆院選後の米ドル高・円安のピーク更新もありうるとの考え方から154~159円で予想します。