名門の名古屋大工学系、卒業式総代は2人とも女性 過去20年で初
今春、名古屋大を卒業する工学部と大学院工学研究科生の各総代に、いずれも女子学生が選ばれた。圧倒的に男子学生が多い工学系で双方同時に総代を務める例は珍しいとみられ、記録が残る2006年以降(秋の卒業を除く)でも初という快挙だ。
工学研究でも「女性活躍」
卒業・修了するのは、工学部生673人(うち女子82人)、大学院工学研究科生683人(同80人)で、女子はそれぞれわずか約12%と少数派。そんな中で成績優秀者である総代を女性が占めたことに、大学関係者からは「工学研究で女性が活躍できることがメッセージとして伝わる」と喜びの声が上がっている。
Advertisement名古屋大は取材に対し、「特段のバイアスが働いたわけではなく、関係者の総意で選出した学生が女性であった」として、性別が加味されたわけではないことを強調。「工学における女子学生の活躍を示す象徴的な出来事となった」と意義づけている。
「楽しく、わくわく」
2人は、工学部マテリアル工学科の平野学惠(まなえ)さん(22)=徳島県海陽町出身=と、大学院工学研究科修士課程の小澤咲季さん(25)=愛知県碧南市出身。
総代は教授らが学業成績、研究姿勢などで秀でた学生を選抜して推薦する。卒業式では、所属学部や研究科の代表として学長から学位記を受け取る。
工学部総代の平野さんは、燃料電池の反応を促す触媒に関する情報抽出モデルを研究。大学交響楽団ではチェロにも打ち込み、他の学生の模範となる学生に贈られる工学部長表彰にも決まっている。
自然に囲まれた環境で育ち、2歳上の兄は名大工学部の先輩。幼少期からこの兄と一緒に秘密基地を作ったりしたほか、無線操縦装置の仕組みに関心を持つなど、理系に進むのは自然のなりゆきだった。ただ、高校では理系に進んだ女子は自分1人だけ。現在の研究室でも唯一だ。
女性が少ないことに不自由さを感じることはなく、むしろ「周りは工学好きばかりで良い刺激になった」と笑顔で話す。ただ、「女性が増えたらもっと柔軟に研究が進み、新しい考え方が取り入れられるのかもしれない」とも思う。「“むさい”とか思わないでほしい。すごく楽しく、わくわくできるのが工学部です」。
卒業後は名大大学院工学研究科に進学する。将来は「社会に役立つものを作り出したい」と、メーカー研究職に興味を持っている。
「思い込み」なくす意義も
一方、大学院工学研究科総代の小澤さんは、国際学会での口頭発表の経験もあり、修士論文発表会では専攻内トップの成績を収めた。
総代に選ばれたことに、「研究に真摯(しんし)に取り組んできた成果が実った。非常にうれしい」と話す。「性別を特別意識することなく研究に打ち込めた。後輩には性別に関わらず、興味あることに取り組んでほしい」とエールを送った。4月からは博士課程に進む。
工学研究科の田川美穂教授は今回のダブル女性総代を「圧倒的に男子が多いので、1番も男子である確率が高い。しかし、そうなると無意識のうちに『男子の方が優秀』という思い込みが教員側にも学生側にもできあがってしまう。そういう意味で今回の意義は大きい」と受け止めている。
「見える化」で後輩増に期待
国内の理系人材不足と少子化の波を受け、研究機関や経済界を含め理系の女子学生を求める声は強まる一方だ。
名古屋大でも、構内に女性向けスペースを設置したり、工学部推薦入試に女子枠(23年度入学から)を設けたりして徐々に増やしているが、「工学部の女子学生率20%」の目標にはまだ届かない。
工学部は、全2936人中、女子は375人とわずか12・8%(25年5月1日現在)だ。
名大前副学長で元男女共同参画センター長の束村博子名誉教授は、「女性が総代に選ばれたことで、工学研究で活躍できることが伝わる」と感慨深げだ。その上で「女性の存在の“見える化”により、工学部への進学を目指す女子中高生が増えることを期待する」と話している。【川瀬慎一朗】