もしいまのAIブームがバブルだったら、はじけるときに何が起きるのか? 米誌が考察する最悪のシナリオ
AIの台頭によって、人間が不要になりつつあるといわれる分野が「コーディング」である。だからこそ、2025年7月に発表されたある研究結果は衝撃的だった。 米シンクタンク「モデル・エバリュエーション・アンド・スレット・リサーチ(METR)」による研究では、熟練したソフトウェア開発者を無作為に分け、AIツールを使うグループと使わないグループに同じコーディング課題を与えた。 これは、実際の現場でAIがどれほど役立つかを測る、これまでで最も厳密な検証だった。コーディングはAIがもっとも得意とする分野のひとつであり、関係者のほとんどが大幅な生産性向上を見込んでいた。 実験前の専門家アンケートでは、AIによって開発スピードが平均40%向上するとの予測が出ていた。事実、実験後も参加者たちは「AIによって20%ほど速くなった」と感じていた。 ところがMETRの研究チームが実際の作業量を分析したところ、AIを使った開発者グループのほうが、使わなかったグループよりも20%遅かったのである。研究者たちは驚愕した。研究論文の共同著者ネイト・ラッシュはこう語る。 「誰もこんな結果を予想していませんでした。作業が遅くなるなんて、可能性としてすら考えていませんでした」
もちろん、ひとつの実験結果をもって結論づけるべきではない。しかし、このMETRの研究はAIをめぐる矛盾した現状を説明する鍵でもある。 いま、米国ではAIブームが起きている。AI関連企業の株価は高騰し、データセンターなどのAIインフラ投資に数千億ドルが投じられている。その背景には「AIが労働者の生産性を飛躍的に高め、企業の利益を空前の水準に押し上げるはずだ」という信念がある。 しかし同時に、AIが現実世界で期待どおりの成果を上げていないという証拠も増えている。 AIに巨額の資金を注ぎ込むテック大手は、投資を回収できる見込みが立っていない。AIを導入した企業も、業績に目立った効果を感じていないという報告もある。 また、経済学者たちが探し続けている「AIによる雇用喪失」の明確な証拠も、ほとんど見つかっていない。 経済学者サラ・エックハルトとネイサン・ゴールドシュラーグによる最新の分析では、AIの影響を最も受けにくい建設作業員やフィットネストレーナーといった職種の失業率が、AIの影響を最も受けやすいテレマーケターやソフトウェア開発者の失業率よりも3倍の速さで上昇していることが判明した。 そのほか多くの研究でも、おおむね同様の結果が得られている。
Rogé Karma