「睡眠医学」柳沢正史教授が「オレキシン」研究で医学賞を受賞 私たちはどう眠ればいいのか
日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを女性医師が医療や健康の面から解説するコラム。今回は「最新の睡眠」について、鉄医会ナビタスクリニック内科医・NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。
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* * *「毎日8時間は寝たほうがいい」「週末の寝だめには意味がない」。 睡眠について、そんな話を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。 私たちは人生の約3分の1を眠って過ごします。それほど身近な睡眠ですが、「なぜ眠るのか」「どう眠るのがよいのか」など、まだわかっていないことも少なくありません。 そんな睡眠研究が、いま大きく進んでいます。 2026年9月、日本人研究者の柳沢正史・筑波大学教授と、米スタンフォード大学のEmmanuel Mignot教授が、アルバート・ラスカー基礎医学研究賞を受賞[※1] しました。 評価されたのは、睡眠と覚醒に深く関わる「オレキシン」の研究です。 オレキシンは、私たちが起きている状態を安定して維持するために重要な役割を担っています。柳沢教授らがオレキシンを発見し、その後の研究によって、オレキシンを産生する神経細胞が失われ、オレキシンが欠乏することが、ナルコレプシー1型の病態の中心であることが明らかになりました。■不眠症の治療にも そして、この発見は実際の治療にもつながっています。 オレキシンの働きを抑える薬は、すでに不眠症の治療に使われています。一方、26年9月には、逆にオレキシン受容体を刺激する薬「oveporexton」の第3相試験の結果[※2] が医学誌「New England Journal of Medicine」に発表され、ナルコレプシー1型の患者で、覚醒を維持する能力や日中の眠気、突然、体の力が抜けるカタプレキシーなどの改善が示されました。 私が医学部で学んでいたころ、「睡眠学」は、少なくとも私の周囲では決して医学の花形という印象ではありませんでした。「睡眠を専門に研究する学問があるんだ」と、どこか遠い分野のように感じていたのを覚えています。それから十数年。睡眠と覚醒の仕組みは少しずつ解き明かされ、基礎研究の成果が新しい治療へとつながっています。かつて医学の中でも決して目立つ存在ではなかった睡眠研究が、世界的な医学賞で評価される。今回のニュースに、医学の進歩だけでなく、時代の変化も感じました。
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■どう眠ればいいのか? では結局、私たちはどう眠ればよいのでしょうか。 残念ながら、「毎日○時間眠れば健康になれる」というほど単純な答えはありません。 大切なのは、自分に必要な睡眠時間を確保すること。そして、できる範囲で就寝・起床時刻を大きく乱さず、生活のリズムを整えることです。 「何時間寝たか」だけで、自分の睡眠に点数をつける必要はありません。 眠る。目が覚める。そして、また眠る。 毎日当たり前のように繰り返しているこの営みにも、まだ多くの謎が残されています。 医学部時代には、どこか遠い分野のように感じていた「睡眠学」。それが十数年後、世界的な医学賞で注目され、新しい治療へとつながっています。
10年後には、私たちが当たり前だと思っている「睡眠の常識」も、また変わっているのかもしれません。
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■「何時間寝た」より「いつ」に注目 では、私たちの日常の睡眠については、どこまでわかってきたのでしょうか。 睡眠というと、「何時間寝たか」に目が向きがちです。 しかし近年は、睡眠時間だけでなく、「いつ眠るのか」「毎日の睡眠がどの程度規則的なのか」といった点にも注目が集まっています。 約6万人の成人を対象に、腕時計型の機器で睡眠を客観的に測定した研究[※3] では、就寝・起床時刻などから算出した「睡眠の規則性」が、その後の死亡リスクと関連していました。さらに、この研究では、睡眠時間よりも規則性のほうが死亡リスクとの関連が強いという結果でした。 もちろん、「毎日同じ時間に寝れば長生きできる」と証明した研究ではありません。 それでも、「7時間寝たから大丈夫」「8時間寝なければいけない」と、睡眠を時間だけで考えるのは少し違うのかもしれません。■「寝だめ」は意味がない? では、「週末の寝だめには意味がない」という話はどうでしょうか。 26年に発表された約8万6000人を対象とした研究で[※4] は、睡眠不足のあとに睡眠時間が延びなかった人では死亡リスクの上昇がみられた一方、その後に睡眠時間が延びた人では有意な上昇はみられませんでした。 これも観察研究ですから、「平日は寝不足でも、週末にたくさん寝れば大丈夫」という意味ではありません。 ただ、「寝だめはまったく意味がない」と単純に言い切ることもできなさそうです。 さらに最近は、「睡眠時間」から、1日を通した睡眠と覚醒のリズムへと研究対象が広がっています。 26年に「JAMA Neurology」に発表された研究では、60歳以上の約5万3000人[※5] について、活動量計から得られた睡眠・覚醒パターンと、その後の認知症との関連が調べられました。
注目されたのは、単純な睡眠時間だけではありません。夜間の覚醒や起床時刻、日中の身体活動など、睡眠・覚醒サイクルのさまざまな要素が検討され、その一部を組み合わせた指標が、その後の認知症リスクと関連していたのです。