ニデック提出の有報に意見不表明、監査法人の判断が与える波紋
ニデックが26日、提出期限とされた25年3月期決算にかかる有価証券報告書(有報)をようやく提出した。ほとんどの企業が金融庁の定める決算後3カ月の期限を守って提出する中、ニデックはなぜ提出が遅れたのか。監査法人による異例の「意見不表明」とともに背景を解説する。
なにが起きたのか
ニデックは今年6月、イタリアの子会社で生産したモーターの原産国の申告に誤りがあり、関税の未払いが発生した可能性があるとして調査に着手した。3月期決算の同社は、4月24日に決算発表を済ませたものの、監査完了には「相当な長期間を要する」ため、有報提出を期限から3カ月近く遅れの9月26日に延長申請した。
なぜ意見不表明となったのか
今回、監査法人のPwCジャパンは、意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手できなかったとして監査意見を表明しなかった。
ニデックは9月3日、ニデック本体やグループ会社の経営陣の関与・認識のもとで不適切な会計処理が行われたことを疑わせる資料も見つかったと明らかにしていた。発表資料によると、資産の評価損の計上時期を自社に都合の良いように調整していたとも解釈できる内容が含まれていたという。
監査法人の意見不表明とは
金融商品取引法に基づいて作成される有報は、監査法人による監査済みの財務諸表などの提出が求められる。記される監査意見は、「無限定適正」、「限定付き適正」、「不適正」、「意見不表明」の4種類があるが、監査人はいずれの場合にも責任を持つ必要がある。
日本公認会計士協会の説明によると、意見不表明とは重要な監査手続きが実施できず、十分な監査証拠が入手できない場合に記されるもの。会社の財務状況を「適正に表示しているかどうかについての意見を表明しない」旨およびその理由を監査報告書に記載する。
どれくらい異例なのか
ほとんどの企業は、監査法人のお墨付きとも言える無限定適正を添付する。東京証券取引所は不適正意見や意見不表明になった企業を一覧で表示しているが、それによると、25年の意見不表明はわずか1件だ。限定付き適正意見とされたのは数社にとどまる。
過去の例としては、東芝が17年8月、前の期の9カ月間について監査法人の意見不表明のまま発表したことがあった。最終的には限定付き適正意見の評価を得た。ジャパンディスプレイは14年3月期の訂正後の財務諸表について意見不表明とされたことがある。
発覚の経緯
時期 内容 5月29日 海外子会社での監査遅延を公表 6月18日 イタリアの子会社で申告に誤りがあり関税未払いの可能性があるとして調査に着手 6月27日 有報の提出期限を9月26日に延長 7月22日 ニデックテクノモータの中国子会社で不適切な会計処理が行われた疑いがあると監査等委員会に報告 9月3日 第三者委員会設置 9月26日 2025年3月期の有価証券報告書を提出。監査意見不表明現状は
創業者でグローバルグループ代表を務める永守重信氏は、利益目標の達成に厳しく業績や株価向上にこだわることで知られる。積極的なM&A(合併・統合)を主導して同社を急成長させたが、これまでの成功が主に永守氏の能力と手腕によるものだとして、有報では、同氏への依存は事業を巡るリスクの一つとして挙げていた。
6月に有報の提出が遅れることが明らかになると、永守氏は「世界のニデックとして戦っていくためには正しいことを一番にやる」必要があるとした上で、コンプライアンス(法令順守)を経営の最優先事項と捉え、社内でも周知徹底していると説明した。
今後起きそうなことは
ニデック株は9月に入って約20%下落。シティグループ証券の内藤貴之アナリストは「現時点で悪材料がすべて出尽くしたとは言いがたい状況」だと指摘し、調査結果が公表されるまで株価は低迷するとみる。また、野村証券アナリストの秋月学氏は、今後、証券取引所によって上場維持の可否や「特設注意銘柄」指定の審査が行われる可能性を指摘する。
東証は、監査報告書に公認会計士が「不適正意見」や「意見の表明をしない」と記載した場合などに特設注意銘柄に指定することができる。指定された場合は、1年後の審査までに内部管理体制などを適切に整備・運用することが必要となる。適切と認められない場合は上場廃止となる。
意見不表明となった企業は、投資家や取引先からの信頼低下で、資金調達コストが上昇したり、銀行からの融資が困難になったりする可能性がある。