【糖尿病の合併症】家族のこころの健康状態にも影響 家族もメンタルサポートが必要?
糖尿病は、本人だけでなく、家族やパートナーへも心理的な負担を与え、配偶者が糖尿病だと、家族のうつ病リスクも上昇し、とくに合併症(脳卒中、心不全、心筋梗塞などの心血管疾患)を発症すると、その影響があることが、京都大学などの新しい研究で示された。
心血管疾患(CVD)は、心臓や血管の機能異常によって引き起こされる病気で、心筋梗塞や脳梗塞などが含まれる。糖尿病のある人は、血糖管理が良好でない状態が続くと、CVDを発症する危険性が高くなる。
糖尿病の管理を改善し、糖尿病を抱える人の心血管疾患の発症を予防することは、その家族のうつ病リスクを軽減させることにもつながる可能性がある。
研究グループは、全国健康保険協会(協会けんぽ)の約52万人の医療レセプトのデータ、および約20万人の生活習慣病予防健診のデータを解析した。
「糖尿病は、日本でも有病率の高い疾患のひとつであり、継続的なケアが必要です。糖尿病の重篤な合併症を引き起こすと、患者さんだけでく、その家族のメンタルヘルスにも影響を与えると報告されています」と、研究者は述べている。
「ご家族によるサポートは、患者さんが糖尿病ケアを継続する助けになりますが、とくに心血管疾患のリスクの高い糖尿病患者さんの家族に対して、包括的なメンタルサポートを提供することが重要である可能性があります」と、研究者は述べている。
糖尿病は本人のみならず家族へも心理的な負担をかける
糖尿病の重要な合併症である心血管疾患(CVD)の発症は、大きな心理的負担をもたらす。
これまで、糖尿病は本人のみならず家族へも心理的な負担を与えることが報告されていたが、糖尿病の合併症の発症が、その心理的負担にどの程度寄与しているかはよく分かっていなかった。家族単位での健康に着目した研究は世界的にみても限られている。
そこで研究グループは、日本での最大の医療保険者である全国健康保険協会(協会けんぽ)のデータを用いて、52万1,010組の20歳以上の夫婦のペア(平均年齢 54.1歳)を対象に、2016年度から2021年度にかけて最大6年間追跡して、被扶養者のその後のCVDの発症がどの程度そのリスクを媒介するかを調査した。
その結果、配偶者(被扶養者)が糖尿病の新規診断を受けた夫婦では、配偶者が糖尿病の新規診断を受けなかった場合に比べて、世帯主(被保険者)がうつ病を発症するリスクが8%高いことが分かった。媒介分析の結果、糖尿病の診断を受けた配偶者のCVD発症は同相関の約22.4%を媒介していることも示された。
家族全体に着目したサポート体制を検討することが重要
「糖尿病の診断は、そのパートナーのうつ病リスクと相関し、その相関はその後のCVDの発症によって媒介されている可能性があることが示されました」と、研究者は述べている。
「本研究は、多くの研究が糖尿病の個人のみを対象としており、家族や世帯全体に着目した研究が少ないことに気付いたところからはじまりました。家族全体に着目したかたちでのサポート体制を検討することは、より効果的かつ包括的なメンタルケアを提供するうえで重要な視点である可能性があります」。
「糖尿病を抱える個人のみならず、その家族に対しても適切なリソースを提供することは、限られた医療資源を効果的に活用することにもつながるかもしれません」。
「世帯全体を対象とした研究は世界的に見ても限られているため、より効果的な施策の開発につながる知見の創出に注力していきたいと思います」としている。
研究は、京都大学白眉センターおよび医学研究科の井上浩輔特定准教授、近藤尚己教授、矢部大介教授、ハーバード大学の古村俊昌氏、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の津川友介准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Epidemiology」にオンラインで発表された。
研究は、全国健康保険協会の「外部有識者を活用した委託研究事業」、日本学術振興会(JSPS)の協力を得て行われた。
京都大学 白眉センター 京都大学 医学部・医学研究科 Depression Risk Associated with Spouses' Diabetes and Cardiovascular Events: A Nationwide Cohort Study (American Journal of Epidemiology 2025年4月16日)