「こっちまでうれしくなって…」中田久美監督がプレシーズンマッチで19歳の「新星」を抱きしめたわけ【バレーボールSVリーグ女子・SAGA久光スプリングス】:「おっ!」でつながる地元密着のスポーツ応援メディア 西スポWEB OTTO!

 10月10日に開幕するバレーボール大同生命SVリーグ女子の2025~26年シーズンを前に、SAGA久光スプリングスが練習拠点のサロンパスアリーナ(佐賀県鳥栖市)でプレシーズンマッチを2試合行った。9月21日は中国のリーグ(CVL)の「上海光明優倍女子排球隊」に3―1で逆転勝ち。23日は昨季リーグ覇者の大阪マーヴェラス(大阪MV)に3―1で競り勝った。

 アリーナには日曜日の21日が900人、祝日の23日は1088人が詰めかけた。「たくさんのお客さんが見に来てくださって…この緊張感は練習では絶対に経験できませんし、ファミリーといいますか、私の中で『温かみ』を感じました」。15~16年シーズン以来、10季ぶりにスプリングスの指揮を執る中田久美監督(60)は自らの復帰戦となった2試合を連勝で飾り、感謝の思いを口にした。

 190センチ台の長身選手を4人擁する上海光明優倍女子排球隊との試合では第1セットを奪われながら、2セット目から登場した新戦力のセッター、籾井あき(24)がスピーディーなトス回しでリズムをつくり、アタッカーの決定力を引き出した。リベロの西村弥菜美(25)に加えて、レフト対角を組んだ中島咲愛(26)と北窓絢音(21)のサーブレシーブも安定。攻撃の起点が定まったことで、ミドルブロッカーの速攻や、後衛からのアタックを交えた幅広い展開が可能になった。夏場の強化練習を経てパワーアップしたオポジット、吉武美佳(22)のライト側からの強打もさく裂した。

上海光明優倍女子排球隊、大阪マーヴェラスとの試合にスタメン出場し、ライト側からの強打で活躍したSAGA久光スプリングスの吉武美佳(右)

 今年日本代表デビューを飾るなど今季飛躍が期待される北窓もスケールアップした攻守を披露した。「コートの中で引っ張っていけるような存在になれるように、プレッシャーをかけて、技術も自分自身も見つめていきたい」。背番号も「17」から「3」に変わり、覚悟をにじませた。

 ハイライトシーンは大阪MV戦の2―1で迎えた第4セットだった。宮部愛芽世の鋭いサーブに苦しみ、序盤から失点を重ねると、中盤の時点で6―17と最大11点差をつけられた。中田監督は、キャプテンでセッターの栄絵里香(34)と、オポジットのステファニー・サムディ(26)を「2枚替え」で投入。ミドルブロッカーを平山詩嫣(24)から新加入のハッタヤ・バムルンスック(32)、アウトサイドヒッターも北窓から同じく今季加わったオルガ・ストランツァリ(29)にそれぞれチェンジした。

 中田監督は新外国籍選手を含む大幅な入れ替えを敢行した理由について「(スタメンで起用した選手の)疲労がたまっていたことで、フレッシュな選手も含めて、起用してから次のフルセットに…半分は備えたという形です」と説明した。

 この日の大阪MVのコートには、キャプテンの田中瑞稀やパリ五輪の日本代表で攻守の要でもある林琴奈の「二枚看板」は立たなかった。それでも堅守の試合巧者を相手に10点差以上をひっくり返すのは至難の業に思えた。だからこそ中田監督も「半分は…」と、気持ちを最終第5セットに向けていたことを認めた。

 そんな劣勢の展開で、日本代表ミドルブロッカーの荒木彩花(24)に代わって、6―16から送り込まれた、19歳の新星がコート上の重いムードを瞬く間に変えていった。大阪・金蘭会高出身の井上未唯奈(みいな)だった。

 自ら「強みです」と言い切るオフェンスを中心に、反撃の起爆剤となった。トスにタイミングが合わなくても、何とか打ちにいこう、決めようとする懸命な姿もチームメートを鼓舞。その「何とか」が中田監督の胸を揺さぶったのだろう。以下は試合後のコメント全文だ。

 「上海との試合では、ミイナ(井上)を使ってあげる機会がなくて、ちょっと…その…彼女の表情が暗かったのが気になっていたんですね。準優勝したアンダー(21歳以下)の世界大会(世界選手権大会)から帰ってきた時に、こう…決意表明みたいな長いLINEが私のところに来ました。そういう思いっていうのも分かっています。厳しい状況の中で入れて、すごく躍動感というか、思い切りプレーをしていたので、ちょっと、こっちまでうれしくなってしまいました」

 井上の体を力強く抱きしめる中田監督の顔は喜びにあふれていた。他チームに比べて多いとはいえない15人の少数精鋭で臨むシーズンに向けて、手ごたえを得るためにも重要だった、この2試合。「何も隠すことなく、全員で勝ちにいく」との方針を掲げ、3位に終わった昨季のレギュラーシーズン(RS)シーズンで4戦全敗を喫した難敵の大阪MVにも真っ向勝負を挑んだ。日本人選手中心の布陣でスタートからの3セットを戦い、大逆転で奪取した第4セットは外国籍選手が「助っ人」にふさわしい活躍。高卒2シーズン目となる井上もキラキラと輝いた。

大阪マーヴェラス戦でともに途中出場したハッタヤ・バムルンスック(左)の得点を喜ぶ井上未唯奈(右)

 「いい表情、いい笑顔でしたね。ミイナ自身、次のステップに向けて、いいチャンスを自分でつかんだと思います」

 つかんだのは本人でも、きっかけを与えたのは井上の決意をくみ取った中田監督だ。血の通った「タクト」が価値ある勝利を味わい深いものにした。(西口憲一)

途中出場し、活躍した井上未唯奈を抱きしめる中田久美監督

SAGA久光のスターティングメンバー(第1セット)◆ 【9月21日、VS上海光明優倍女子排球隊】 ●19―25 ○25―18 ○25―22 ○25―19

OH・北窓絢音(21)、オルガ・ストランツァリ(29)、S・栄絵里香(34)、OP・吉武美佳(22)、MB・平山詩嫣(24)、ハッタヤ・バムルンスック(32)、リベロ・西村弥菜美(25)

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