ゲームは無理にやめなくてOK!実はそれ、「脳を鍛える最高のトレーニング」になってます
TVゲームの爆発的な流行のきっかけとなった「スペースインベーダー」の登場から約半世紀。今やゲームは、スマホで気軽に親しめる身近なコンテンツへと進化しました。
その一方で、社会人のなかには「ゲーム=時間の無駄」と考え、やめられない自分に悩む人も多いのではないでしょうか。
しかし、それは大きな誤解かもしれません。実は、ゲームには脳の基本性能を高める効用があるのだそう。そう説くのは、スタンフォード・オンラインハイスクール校長を務める星友啓さんです。
星さんは、ゲームに関する多数の学術研究をリサーチし、その知見を著書『なぜゲームをすると頭が良くなるのか』(PHP研究所)にまとめています。
では具体的に、ゲームは脳をどのように鍛えるのでしょうか。話をうかがいました。
──かつては「ゲーム脳」という言葉に代表されるように、青少年犯罪と結びつけられるなどゲームへの風当たりが強い時代もありました。それが今、風向きが変わり、むしろ良い面が注目されているのはなぜでしょうか?
以前、アメリカで少年による銃乱射事件があったとき、ゲームが人を暴力的にさせるのではないかと疑われました。これに限らず、ゲームが爆発的に流行して「子どもに悪影響があるのでは」と大人たちが不安に感じたという社会背景があります。それによって「ゲーム脳」といった言葉が流布しました。
一方で、ゲームに関するさまざまな学術研究もなされてきました。その結果、ゲームが年少者を暴力的にさせるのではなく、元々暴力的な傾向がある人が、暴力性の高いゲームに過度にハマりやすいということがわかってきました。因果関係が逆なのですね。
そして現在では、ゲームが脳に良い効果をもたらすというエビデンスが次々と蓄積されています。
多岐にわたる能力が向上
──科学的に立証されている、ゲームの脳に対する効用を挙げていただけますか?
初期に行われた研究によると、まずアクションゲームは空間認識能力を向上させることがわかっています。目の前の変化を把握しやすくなり、視覚情報の処理が速くなる。その結果、注意力や集中力が高まるのです。
また、ゲームのステージをクリアするには攻略法を覚える必要があるため、プレイを重ねることでワーキングメモリーや短期記憶の能力も自然と鍛えられます。
画面内の複数の動きを見ながらコントローラーを操るゲームなどはまさに「マルチタスクのかたまり」で、同時並行で物事を進めるトレーニングに最適ですね。
ほかにも、ロールプレイングゲームなら問題解決能力や精神力、マインクラフトのようなサンドボックスゲームなら創造性を高めるといったように、ジャンルごとに多岐にわたる能力が強化されます。
ストレス解消にも有効
──ゲームはストレス解消の手段と考えている人も多いと思いますが、実際に効果はあるのでしょうか?
仕事で嫌なことがあったりしてストレスを感じても、ゲームに没頭すると気持ちがすっきりするのは、みなさん経験されていると思います。
実際に研究でも、ゲームにはストレスを軽減させ、心身をリラックスさせる効果があることが確認されています。 ストレスを発散する手段としても効果的なわけです。
心の3大欲求が満たされる
──星先生は以前から、「心の3大欲求」である「つながり」「有能感」「自発性」の重要性を力説されています。ゲームには、これらを満たす効用もあるのでしょうか?
現代社会は、心の3大欲求が満たされにくい環境にあります。孤独を感じがちで、自己否定感を持ちやすく、自分の「やりたいこと」より「やらされること」が多いのが現実ですよね。
しかし、オンラインで多人数が参加するロールプレイングゲームなら、仲間やキャラクターとの「つながり」を感じられます。さらに、クエスト(ゲーム内で与えられるさまざまな任務や目標)をクリアしていくことで「有能感」が得られ、自分の意志でプレイしているという「自発性」も満たされます。
実社会で3大欲求を満たすのは簡単ではありませんが、ゲームだと手っ取り早く、それらを得られるのも大きなメリットですね。
適正なプレイ時間は生活とのバランスで決まる
──「ゲーム中毒」という言葉もあるように、長時間のプレイによる悪影響も心配です。目安としてどれくらいなら問題ないのでしょうか?
「1日何時間まで」という視点より、全体の生活からみてバランスがとれているかどうかが大事です。
たとえば、週末に4時間をゲームに費やしたとしても、日ごろの勉強、仕事、運動、睡眠時間などに支障をきたしていないなら、それでよいでしょう。
逆に、どれだけゲームの時間が短くても、そのせいで日常生活のバランスが崩れ、やるべきことができなくなっているなら問題です。
ちなみに学術研究では、大人・子どもを問わず「1日平均2〜3時間」のプレイであれば、生活や仕事に悪影響が出ない限りは問題ないとされています。
ゲーム以外で心の3大欲求を満たす
──ゲームの時間が明らかに多いと認識しているうえで、ゲームの時間を減らしたくても、なかなか減らせない人には、どのような対策が有効でしょうか?
ゲームを長時間してしまうのは、心の3大欲求を満たすためというパターンが多いです。
そのため、単にゲームの時間を減らそうと決心するだけでは、欲求は満たされないため、元に戻ってしまうのですね。
大事なのは、日常生活で心の3大欲求が満たされるようにすることです。これは難しい話でなく、たとえば友達を誘って一緒にウォーキングをするといったことだけでも、「つながり」「有能感」「自発性」が満たされるものです。
そうした活動を増やしていけば、いつの間にかゲームにかける時間も、適正な範囲に収まっていくものです。
また、「習慣化のトリガー(行動の引き金)」を活用するのも効果的です。たとえば、スマホを手に取ること自体がゲームを始めるトリガーになっている場合、職場で電話に出ただけでも「ゲームがしたい」という衝動が誘発されかねません。
そこで、特定の場所にいる時だけゲームはOKと習慣づけるのです。「通勤時の電車の中でならスマホゲームをしてもよい」というふうにですね。習慣が定着すると、トリガーが発動しないかぎり、ゲームをしたくなる感情を抑えられます。
いずれにしても、ゲームの時間をゼロにする必要はないでしょう。1日に1時間でもプレイすることで得られる恩恵は大きいものです。ゲームの時間は、脳のさまざまな力を伸ばすトレーニングにもなっているのですから。
今回インタビューを行った筆者も、実は大のゲーム好き。仕事の繁忙期でもゲームをしてしまうことに罪悪感を覚えたものですが、星さんの「ゲームは脳の力を伸ばすトレーニング」という言葉に深く救われました。
もしゲームとの付き合い方に悩んでいるなら、大切なのは時間をゼロにすることではなく、「生活のバランス」を見直すこと。ぜひ、自分に合った「適正なルール」を作って、堂々とゲームの恩恵を享受してみてはいかがでしょうか。
スタンフォード・オンラインハイスクール校長。哲学博士。1977年、東京生まれ。2001年、東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。02年に渡米し、テキサスA&M大学哲学修士修了、スタンフォード大学哲学博士修了。その後、スタンフォード大学哲学部講師となり、スタンフォード・オンラインハイスクール・スタートアッププロジェクトに参加。 16年より校長に就任。学校や教育スタートアップ の支援やコンサルティングにも取り組む。著書に『脳科学が明かした! 結果が出る最強の勉強法』(光文社)、『脳を活かすスマホ術』(朝日新書)、なぜゲームをすると頭が良くなるのか(PHP研究所)など。最新の著書は『スタンフォード大学オンライン高校の校長が教える 世界の研究に基づいた 勉強法大全』(KADOKAWA)。
公式サイト:https://tomohirohoshi.com
Instagram:https://www.instagram.com/tomohiro_hoshi_education