ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示す新たなグレーゾーン戦略(ニューズウィーク日本版)

フランス当局は先頃、同西部沖で船籍不明の石油タンカー「プシュパ号」を拿捕した。このタンカーは、ロシアが西欧諸国などによる制裁を回避して原油などを輸出するために運航させている「影の船団」の1隻とみられている。【エリザベス・ブロー(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト、米アトランティック・カウンシル上級研究員)】 【動画】ウクライナ軍が黒海でロシアの最新鋭ミサイル艦を攻撃 しかも、プシュパ号の活動内容は、制裁逃れだけにとどまらない可能性がある。最近、ロシアの「影の船団」──船籍はほかの国に置いているが、ロシア政府の指示の下で運航している──は、バルト海でこれまで以上に攻撃的な振る舞いを見せ始めているのだ。 ここにきてロシアは西側諸国を標的に、新しい「グレーゾーン」の攻撃的行動に乗り出している。その典型が9月22~23日にデンマークの首都コペンハーゲンとノルウェーの首都オスロの空港で起きた出来事だ。両空港は、近くに不審なドローン(無人機)が飛来したために数時間にわたり閉鎖された。 問題は、このドローンがどこからやって来たのかという点だ。デンマーク当局は直ちに、当時近くを航行していた3隻の船舶がドローンの発着基地になった可能性があると指摘した。その3隻とは、ロシア船籍の貨物船、乗員の一部がロシア人の貨物船、そしてプシュパ号である。 プシュパ号はたびたび、バルト海沿岸のロシアの港と、ロシア産原油を購入する国の間を行き来していた。フランス当局に拿捕されたときは、ロシアからインドの港を目指して運航していた。 プシュパ号は、西欧諸国などによる制裁対象に指定されていて、船籍と船名を頻繁に変更しながら運航を続けてきた(「キワラ号」「ボラカイ号」といった船名を用いていたこともあった)。現時点ではマラウィ船籍を称しているようだが、データベースを調べた限り、これは虚偽である可能性が高い。 バルト海を往来するロシアの「影の船団」の活動は、ますます大胆不敵なものになってきている。船籍や保険の問題や船体の整備不足の問題だけではない。操船の難しいデンマーク海峡を通過する際に、水先人(安全な航行を助ける誘導役)が乗り込むことを拒否する場合があるのだ。 デンマークの水先人たちによると、最近ひときわ気がかりな傾向が見られる。「制服を着用した人たちが乗船していて、ロシア海軍の迷彩服を携えているケースがある」と、水先人のビャルネ・スキルネップは述べている。 制服を着用した人たちは、乗員名簿に記載されていない。こうした非公式の乗員たちは、デンマークの陸海のインフラのマップづくりを行っているのだろうと、スキルネップは考えている。 こうした指摘は、いまデンマーク周辺の海で起きているもう1つの極めて不穏な動きとも関連があるのかもしれない。デンマークの地元メディアによると、不審なドローンが飛来したのと同じ時期に、南部のランゲラン島の沖にロシアの揚陸艦「アレクサンドル・シャバリン号」が船舶自動識別装置をオフにして潜んでいたことが分かっている。 ロシアの「影の船団」の実態を知ることは極めて難しい。西側諸国による監視活動の結果もおおむね機密扱いになっている。 その点、デンマークの水先人たちは、「影の船団」の活動を間近で目撃してきた唯一の人たちと言えるかもしれない。この人たちの言葉には、耳を傾けるべきだろう。 From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版
*******
****************************************************************************
*******
****************************************************************************

関連記事: