米テロ対策トップがイラン戦争に抗議辞任 トランプ氏に「方針転換」求める
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アメリカのテロ対策トップが17日、イランへの攻撃に抗議して辞任し、ドナルド・トランプ米大統領に「方針転換」を求めた。米・イスラエルによるイラン攻撃を、政権の要職者が公然と批判したことになる。
ホワイトハウスはケント氏のこの主張を一蹴し、イランが先にアメリカを攻撃しようとしていたことを示す「説得力のある証拠」があったのだと主張した。
差別や憎悪(ヘイト)行動を監視する米団体は、ケント氏の主張が「反ユダヤ主義の決まり文句」に当たると非難した。
トランプ大統領は同日、ホワイトハウスで記者団に対し、ケント氏を「いいやつ」だが、安全保障に弱い」と評した。同氏の辞表については「彼がいなくなって良かった」と気づかされたと述べた。
トランプ氏宛ての手紙でケント氏は、「イスラエルの高官」や影響力のあるアメリカ人ジャーナリストたちが「誤情報」を広め、大統領の「アメリカ第一」政策を損なう方向へ誘導したと主張した。
「このエコーチェンバーは、イランがアメリカにとって切迫した脅威だと、あなたをだまして、信じ込ませるために利用された。(中略)それはうそだった」とケント氏は書いた。「エコーチェンバー」とは「共鳴室」の意味で、同じ考え・価値観が共有され増幅される現象を指す。
ケント氏は長年のトランプ支持者で、連邦議会選に2度出馬したが落選。現政権の初期に大統領から指名され、辛うじて承認された。野党・民主党の議員たちは、ケント氏が2022年の選挙戦で極右白人至上主義団体プラウド・ボーイズのメンバーをコンサルタントとして雇ったことを批判していた。
指名承認の審議においてケント氏は、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件を扇動したのは連邦捜査官だったという持論や、2020年大統領選でトランプ氏は敗れていないという持論を撤回しなかった。
ケント氏の今回の手紙について、反ユダヤ主義監視団体「名誉毀損防止同盟(ADL)」は声明で、ケント氏が「古典的な反ユダヤ主義の決まり文句を使っている」と、Xで批判した。
「だからこそ、イラン政権と戦争するよう大統領に圧力をかけたのはイスラエルとメディアだと、彼が非難しているのはまったく意外ではない」とADLは述べた。
親イスラエル・ロビー団体AIPACもこの声明をXで共有した。AIPACは、コメントを求めるBBCの取材にまだ回答していない。
リベラル系の親イスラエル団体Jストリートの幹部イラン・ゴールデンバーグ氏は、ケント氏の手紙について、「最悪の反ユダヤ主義の決まり文句を利用した醜悪な内容」だと評した。
与党・共和党の元上院院内総務、ミッチ・マコネル氏はXに「孤立主義者や反ユダヤ主義者は、どちらの政党にもいてはならない。そしてもちろん、信頼を必要とする政府の職に就く資格もない」と投稿した。
ケント氏は米陸軍特殊部隊と米中央情報局(CIA)で働いた元陸軍准士官で、2児の父親。陸軍兵として国外に11回派遣され、イラクでは陸軍特殊部隊に所属した。CIAの準軍事担当官にもなった。
海軍の暗号技術専門家だった妻シャノン・ケント氏は2019年、シリアで自爆攻撃に巻き込まれて死亡。ケント氏は、これを受けて軍を離れた。
ケント氏は辞表の中で自分の軍歴と妻の死を挙げ、「アメリカ国民に何の利益もなく、アメリカ人の命の犠牲を正当化できない戦争のために、次世代を戦場に送り、死なせることは支持できない」と述べた。
国家テロ対策センターのトップとしてケント氏は、タルシ・ギャバード国家情報長官の下で、世界中のテロ脅威の分析と探知を統括していた。
ケント氏の辞任を受け、ギャバード氏はイランとの戦争に踏み切ったトランプ氏の決定を支持。Xに投稿した声明で、大統領には、何が差し迫った脅威かを判断する責任があると書いたほか、国家情報長官室は大統領が意思決定するための「最良の情報を提供する」役割を持つと付け加えた。
「すべての情報を慎重に精査した結果、トランプ大統領はイランのテロリスト・イスラム主義体制が切迫した脅威だと結論し、その結論に基づき行動した」のだとギャバード氏は書いた。
ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官は、ケント氏が「トランプ大統領が他者、ましてや外国の影響を受けて決定した」と示唆したことについて「侮辱的で、笑えるほどばかげている」と述べた。
「トランプ大統領が明確かつはっきり述べているように、イランが先にアメリカを攻撃しようとしていたと示す、強力で説得力のある証拠を大統領は得ていた」のだと、報道官は付け加えた。
かつてトランプ氏を強力に支持していた、米共和党のマージョリー・テイラー・グリーン元下院議員(ジョージア州)は、ケント氏はアメリカの英雄だと称賛した。
トランプ政権ではこれまでにも、証券取引委員会のマーガレット・ライアン執行部長やケネディ・センターのトップ、リック・グレネル会長など複数の高官が辞任している。
しかし、トランプ大統領の2期目は、2017〜21年の1期目と比べると高官の入れ替えは大幅に少ない。