準衛星「2025 PN7」──地球のそばを伴走する“月もどき”

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人類が月面着陸を夢見ていた1960年代、ひとつの天体が静かに地球と歩調を合わせはじめていた。 それは、のちに地球の準衛星と判明する「2025 PN7」だった。

地球の新たな準衛星「2025 PN7」が発見された。ハワイのパンスターズ天文台にある望遠鏡「Pan-STARRS 1」が今年8月、わずかな明るさの変化から捉えた。

軌道解析の結果、科学者たちはこの準衛星がいわゆる“準月”(quasi-lunar moon)であり、地球と1対1の共鳴関係を保っていることを突き止めた。つまり、地球とほぼ同じ周期で太陽の周りを公転しているというのだ。この軌道の同期により、遠くから見ると、地球が小さな小惑星を伴って動いているように見える。まるで地球にもうひとつの月があるかのように映るというのだ。

ただし月とは異なり、準衛星は地球の重力に束縛されているわけではない。宇宙的な時間の尺度で見れば、それは一時的な“伴走者”にすぎず、独自の軌道で太陽の周りを回っている。特定の時期にのみ地球に接近し、あたかも重力に捉えられているかのように見えることがある。

米国天文学会の学術誌 『Research Notes of the AAS』 に掲載された論文によると、2025 PN7は 今後もおよそ128年間、その軌道を維持するとみられている。ただし一部の研究者は、2083年ごろに地球から離れ、準衛星の軌道を離脱すると予測している。

準衛星「2025 PN7」は、地球(Tierra)の近くに位置する「アルジュナ(arjuna)小惑星群」に属し、地球と伴走するかのように、太陽(Sol)の周りを公転している。

なぜ“もう一つの月”が存在する?

これまでに、地球の公転軌道に沿って動くように見える7つの準衛星が確認されている。

地球にこうした準衛星が多い理由は、地球の軌道が「アルジュナ群(Arjuna group)」と呼ばれる小惑星の集団によく似ているためだ。このグループは、地球とよく似た軌道で太陽の周りを回る多数の地球近傍小惑星(NEA)で構成されている。

アルジュナ群が詳細に研究され始めたのはごく最近のことだ。天文学者たちは、今後さらに多くの準衛星が発見される可能性が高いとみている。

これらの小惑星の一部は、ときおり地球の軌道とほぼ一致する位置関係になることがあり、その軌道力学的な条件によって、「準衛星」または「ミニムーン」として分類される。主な違いは軌道の性質にある。

準衛星は惑星とともに太陽の周りを公転する。それに対し、ミニムーンは実際に地球の周りを“回って”おり、その軌道は通常、馬蹄(ばてい)型の軌道と呼ばれる特殊な形をしている。さらに、ごく短期間しか存在しないのがミニムーンの特徴だ。多くの場合、数週間から数カ月ほどで地球の重力圏を離れ、再び宇宙空間へと戻っていく。

重力に縛られない“月もどき”

これまでに知られている7つの準衛星は「64207 Cardea」、「277810」、「2013 LX28」、「2014 OL339」、「469219 Kamoʻoalewa(カモオアレワ)」、「2023 FW13」 そして「2025 PN7」だ。いずれもアルジュナ群に属し、地球の公転軌道と1対1の共鳴関係を保ちながら、太陽の周りを回っている。

今回、2025 PN7を発見したハワイにあるパンスターズ天文台は、現在、地球近傍天体(NEO: Near-Earth Objects)探査の最前線を担う観測施設のひとつとして知られている。その観測成果には、準衛星だけでなく、彗星や超新星までも含まれている。

この驚異的な成果を支えているのが、Pan-STARRS 1に搭載された、世界最大級の14億ピクセルのデジタルカメラだ。この高感度カメラによって、同天文台はごく微かな光の変化から新たな天体を捉えることができ、地球近傍の宇宙環境に対する理解を深めている。

天文学の世界では、惑星が衛星を得るにはさまざまな仕組みがある。例えば、木星や土星のような巨大惑星は、近くを通過する天体を重力で捕らえて衛星にする。一方、地球のような惑星は、太陽系誕生初期の衝突によって衛星を形成したと考えられている。

いずれの場合でも、基本的なルールは明確だ。すなわち、正真正銘の月として認められるためには、その天体が恒久的に惑星の重力に束縛されていなければならない。

(Originally published on wired.com, translated by Miki Anzai, edited by Mamiko Nakano)

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