トランプ関税、世界経済に2兆ドル打撃も-成長押し下げの影響鮮明に

トランプ米政権が貿易相手国・地域に課す上乗せ関税の発動期限が8月1日に迫っている。世界経済が受ける打撃は貿易戦争前の成長軌道と比べて、2027年末までに2兆ドル(約295兆円)に達するとブルームバーグ・エコノミクス(BE)が予測した。

  金融市場は現状を受け入れざるを得ないと覚悟を決めた様子だが、米国の保護貿易主義がグローバル経済に及ぼす損失がますます鮮明になりつつある。

  トランプ政権は日本や欧州連合(EU)との間で、関税率の引き上げを伴う暫定的な合意を発表。8月1日の段階で合意に達していない国・地域に対し、より高い税率を課す方針だ。トランプ大統領が構築した貿易障壁による国際貿易・投資の再編は既に始まっている。しかし上乗せ関税発動は、もう一つの重大な転換を意味する。

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  米国の関税水準は全体として、1930年代以来で最も高くなり、トランプ氏がホワイトハウスに復帰した年初から約6倍に上昇した。「解放の日」(4月2日)の上乗せ関税公表を受け、相場は一時的に下落したが、その後は回復に転じた。大統領が過激な脅しの実行を控えていると市場が確信したかのようだ。

  それでも企業は設備投資を凍結し、何年もかけて築いたサプライチェーンを見直し、コスト増のショック吸収のため利幅を削る努力を余儀なくされている。

  トランプ政権の「米国第一主義」に基づく関税は、日本の自動車メーカーや米国のトマト生産者、ベトナムのスポーツウエア工場にも痛みが及ぶ。一部に恩恵を受ける企業があるとしても、一層多くの企業が予期せぬ犠牲を被る。

  オックスフォード・エコノミクスの首席エコノミスト、ダニエル・ハーレンベルク氏は「トランプ大統領の関税交渉が(恐らく特に米国で)投資に害になると明らかになりつつある。関税率は最終的に心配されたほど高くならないかもしれないが、関税はサプライチェーンと国際貿易の動きを妨げる税金にほかならない」と指摘する。

  トランプ政権の通商政策にとって今週は重要な1週間となる。28、29日にはスウェーデンのストックホルムで中国との閣僚級貿易協議が予定され、週末の8月1日には上乗せ関税の発動期限が到来する。トランプ氏は国内経済への影響について強気を堅持し、「関税のおかげで、わが国の経済は好調だ!」と6月にソーシャルメディアに投稿した。

  ウォール街のエコノミストが最近数カ月で見通しを少し引き上げ、市場が動揺した4月にピークに達したリセッション(景気後退)への警戒も後退したことは確かだ。だが景気は好調ではなく減速傾向にあるというのが、引き続きコンセンサスだ。

  トランプ大統領とEUの行政執行機関、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は7月27日、自動車を含むEUからの輸入品に米国が課す関税率を15%とする貿易合意を発表した。フォンデアライエン氏は15%という税率について、「われわれが得られる最善の結果」と評価した。

  ドイツ産業連盟のウォルフガング・ニーダーマルク理事は「15%という関税率でも、輸出依存度の高いドイツ産業に甚大な悪影響をもたらす」と警戒する。

  日本も対米輸出の関税率を15%とする合意を得たが、同様の不安が広がっている。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、今回の合意に伴う日本の国内総生産(GDP)への影響が0.55%の押し下げにとどまり、当初提示された25%より軽減されるとしながらも、状況はなお厳しいと分析する。

  米国による自動車関税の上乗せに対応し、日本のメーカーは対米輸出価格を引き下げ、6月の対米輸出台数は増加したが、金額ベースでは27%減少した。関税率が15%に軽減され、そうした傾向が緩和されるかどうかは見通せない。

  日本の就業人口全体で大きな割合を占める自動車産業の利益が圧迫されれば、最近進んできた賃上げの流れも脅かされかねない。

  米国内の懸念は物価上昇の部分が大きいが、米国を含むほぼ全ての国・地域の成長を関税が妨げるという点が、貿易戦争のもう一つの特徴と言える。成長見通しとデフレが既に問題となっている中国にとって朗報ではない。

  中国の4-6月(第2四半期)の成長率は5.2%を維持したが、対米輸出減速の影響はまだ完全に織り込まれていない。BEの分析によると、33の産業部門のうち、今の関税の影響を吸収し利益を確保できるのは五つの業種にとどまり、GDPに占める割合は2.4%に過ぎないという。

原題:Trump Tariffs Are Already Stunting World Growth as Markets Shrug(抜粋)

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