日本の経済停滞は本当に「人口減少」のせいなのか?他の先進国も減っている現実…牡蠣の殻むきに見る日本が抱える本当の問題(Wedge(ウェッジ))
多くの人々が、日本は人口が減少しているので経済がうまくいかないと考えているようだ。しかし、人口が増加することが、経済がうまくいくために、重要なのだろうか。 【図表】人口と経済の関係 図1は日本と他の主要国の人口の推移を比較したものである。日本だけでなく多くの主要国でも人口が減少していることがわかる。 イタリアも韓国も台湾も人口は減少している。ドイツは2012年まで人口が減少していたが、その後増えている。増えているのは移民によるものだ。フランス、イギリスの人口増加もそうだ。 図2で日本の人口を中国やインド、アメリカと比較すると、当然のことだが、日本がこれらの国と人口で競争するのは無理だと分かる。それはアメリカですら同じだろう。ただ、中国の人口はすでに減少に向かっている。 言いたいことは、日本ばかりでなく、多くの先進国、さらには中国でも人口が減少しており、そもそも日本がインドや中国に対して人口で競争するのは無理だということだ。
図3は、主要国の実質購買力平価国内総生産(GDP)を、アメリカを100として表したものである。日本の実質GDPは1990年には米国の40%だったが、その後20%にまで低下した。 日本の経済力は縮小している。対照的に、中国の実質購買力平価GDPは現在、米国を30%以上上回っており、インドは米国の60%近くとなっている。 図4は、実質GDPの成長が人口増加によるものか、一人当たりGDPによるものかを分解したものである。どの国においても、一人当たりGDPは人口よりもGDP全体の成長に大きく寄与している。 例えば、中国の2020年以降のGDPの成長はすべて生産性の上昇によるものである。韓国も台湾もそうである。インドですら、人口の寄与は小さくなっている。 要するに、一人当たりGDPに反映される生産性は、人口規模よりも重要だということだ。
では、なぜ日本の一人当たりGDPの成長率、生産性の伸びが低かったのか。主な理由は投資の停滞だ。 図5は主要国の一人当たり実質投資を示している。日本の投資水準は1990年代までは高かったものの、その後減少してしまった。投資がなければ、企業は生産性を向上させることができない。 なぜ投資が停滞したのか。その理由として、デフレや、円高で輸出が激減し資本コストの高さに投資意欲がなくなったこと、生産性の低い企業の新陳代謝を促す構造改革が遅れたなど、いくらでも理由を上げることができるだろう。筆者は、重要な理由の一つは、日本企業の規模が小さいことだと考える。 例えば、日本製の牡蠣の殻むき機械は1時間あたり5000〜6000枚の牡蠣殻を剥くことができる。しかし、多くの日本の牡蠣養殖会社は規模が小さすぎて、そのような機械を導入することができない。 機械を導入すれば、非常に短時間で作業が終わり、後は機械を遊ばせておくことになってしまう。機械を導入する代わりに、外国人労働者を雇用して、牡蠣の殻むきをさせている。 彼らの作業量は1人1時間あたり500〜600枚程度である。その結果、1950年代から現在に至るまで、牡蠣殻剥きの労働生産性はまったく上昇していない。 同じことは農業機械でも言える。ぶどうなどの果物を収穫する機械はある。しかし、これも生産性が高すぎて、小さな果樹園ではあっという間に仕事が終わってしまう。規模が拡大すればこれらの機械が導入できるようになり、生産性は飛躍的に上昇する。 問題は人口ではない。1人当たりの生産性である。そのためには、企業規模が大きくなることが必要だ。 そう考えると、なぜ多くの人が企業の事業承継が大事だというのか理解できない。もし企業が利益を上げているなら、事業承継したい人はいくらでも出てくるだろう。
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韓国のドラマでは、財閥の事業承継において、夫人愛人息子娘婿嫁婚外子らが相争って承継を狙うシーンがよく描かれている。跡目を争うだけの魅力ある企業であれば、事業継承者を探す必要はないとも言える。 事業継承への魅力がない企業は生産性の低い企業なのだろう。事業承継ではなく、企業の新陳代謝が起きれば、生産性を上げることもできる。もちろん、魅力的な企業がうまく承継されることは必要で、うまくいっていない企業が事業承継で生産性の高い企業になるのは素晴らしいことだと思う。
なお、上記の内容は、アメリカ上下院の議員スタッフの日本調査団に説明したものである。同調査団は、2月14日から21日まで、日本の政治・経済・社会・文化、あらゆることを調べて回ったようだ。 その中で筆者は3人の説明者の一人として日本の人口について説明した。日本側の説明者が、日本には最大3年間の育児休暇(うち1年間は有給)があると説明すると、調査団の人々は驚いたようであった。 アメリカには、12週間の無休の育児休暇しかないからだ(州や大企業では独自の有給休暇がある場合がある)。それなら私たちも子どもを作りたいという反応のようだった。日本の方が育児休暇などの支援が充実しているのに、日本の人口は減少し、アメリカの人口は増加している(もっとも、アメリカの人口増加も、移民と移民第1世代の出生率が高いことにもよる)。 日本で人口を増加させるのは難しい。だからこそ、生産性向上に努める必要がある。
原田 泰