コロナ禍を経て猫の飼育数が増加 問われる飼い主の“資質”
昨今の猫と飼い主の在り方、コロナ禍における猫の譲渡事情などについて、NPO法人 東京キャットガーディアンの代表者に、筆者が聞きました。
日頃から猫に癒やされている人も多いのではないでしょうか。多くの人に愛されている猫ですが、猫の特性、猫との付き合い方をきちんと理解している人はどれだけいるのでしょうか。昨今の猫と飼い主の在り方、コロナ禍における猫の譲渡事情などについて、NPO法人 東京キャットガーディアン(東京都豊島区)の代表者・山本葉子さんに教えていただきました。
一般社団法人 ペットフード協会の「令和6年(2024年)全国犬猫飼育実態調査」によると、2013~2019年までの猫の飼育世帯数は2018年を除き、500万世帯に達していなかったものの、コロナ禍となった2020~2024年は500万世帯を超えました。
新型コロナウイルス感染対策による自粛ムードが広がった2021年は、飼育世帯数が517万2000世帯(前々年比+17万8000世帯、前年比+13万8000世帯)と調査期間のうち最多という結果になりました。結果をみるとコロナ禍の外出自粛モードをきっかけに猫を飼い始めた人が少なからずいるといえそうです。
こうした中、猫の引き取り・殺処分の増加についての懸念が生じます。環境省の「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」によると、猫の引き取り・殺処分数は年々減少しています。2004年には23万7246頭の猫が引き取られましたが、2023年には2万5224頭まで減少しています。ただし、この結果のみを参照して安心するのは早計といえるでしょう。民間の愛護団体が保護をしていたり、登録ボランティアに譲渡されたりする猫も存在するため不透明な部分もあるためです。
猫を飼っている筆者は、猫を家族に迎えたい人が増えていることを喜ばしく思う一方、猫の愛らしさにひかれて衝動的に迎える人や、猫をぬいぐるみのように扱う人がいるのではないかと懸念していました。そこで、猫の飼育や保護猫カフェの運営などを行っているNPO法人 東京キャットガーディアン(東京都豊島区)の代表者・山本葉子さんにお話を聞きました。
猫にハーネスを付けて散歩をする様を撮影した動画や写真がYouTubeやSNSなどにアップされ、賛否議論が行われたりしています。そういった行為について率直な意見を質問したところ、山本さんは「猫の特性に合わないことをYouTubeやSNSなどで拡散しないでいただきたい」と語気を強めます。
続けて、「猫を散歩に連れ出さないでほしい。猫は体に何かをつけられるのが苦手なので、ハーネスをとても嫌がります」と述べた上で、「犬にリードをつけて散歩の訓練をする場合、飼い主への信頼や依存から犬たちはこれを受け入れ、散歩を楽しむこともできますが、猫はその他の動物と同じように体に何かつけられたり、環境の変化を我慢してまで飼い主のそばにいることを切望するわけではありません。『猫は小さい犬ではない』というのは獣医師間の合言葉ですが動物医療だけでなく、犬の特性をそのまま猫に持ってくるのは間違いです」と説明してくれました。
山本さんは「環境の変化に弱い猫の特性を予め知らなくても、表情やボディランゲージを読み取る努力をする飼い主さんには、それがストレスだとわかることだと思います」と話してくれました。
あわせて、筆者がコロナ禍から懸念していた、新型コロナウイルスの蔓延が落ち着き日常が戻った後の猫の飼育事情についても聞いたところ、「コロナ禍に猫の飼育者が増加したのは事実ですが、それらの方々が安易に猫を手放したというデータはありません」と教えてくれました。
また、「東京キャットガーディアンでは、コロナ禍に猫を迎えた人たちの多くが慎重な人たちでした」と聞かせてくれました。この時期に猫を迎えた人の多くは、「在宅でお留守番時間が少ない」などの迎え入れのタイミングを心待ちにしていて、猫の飼育を決心してくれました。
山本さんは「当団体では里親の譲渡審査を厳格に行っており、飼育に適した方へ猫を譲渡していました。飼育者としての適性を見極めているため、ケアレスな飼育者による被害を受ける猫が増えるわけではありません」と話してくれました。
最後に、里親を考えている方へ伝えたいことを聞いたところ、「猫は3歳児くらいの知能があると言われており、オリンピック選手並みの運動力を発揮することもあります。猫のこうした特性は事故も予想されるため注意が必要です。あらゆるリスクも想定した上で、猫を家族として大切に扱ってほしい」と話してくれました。
猫のかわいさにひかれているものの、猫と暮らす自信がない人への助言として、「保護猫カフェに遊びに行くなどある程度の距離を保った付き合い方もあります」と提案してくれました。
今回の取材を通して、筆者は山本さんの猫と真剣に向き合う姿勢、猫に関する知識の豊富さに感銘を受けました。また、筆者も猫と暮らしているため、“猫の表情をきちんと見てあげられているか”と自問をしました。
西田梨紗