10年ぶりにモデルチェンジしたダイハツ新型ムーヴの走りは期待どおりか? 自然吸気とターボを乗り比べる
ダイハツ・ムーヴが10年ぶりにモデルチェンジした。先代はノーマルとカスタムの2ラインで構成していたが、7代目となる新型はカスタムを廃止した。車種ラインアップが少なかった頃は幅広いニーズに応えるためにカスタムを設ける必要があったが、受け皿が増えたのでムーヴにカスタムを設ける必要性がなくなったのが、廃止した理由のひとつ。もうひとつはユーザー層の変化である。
ダイハツ・ムーヴ X ダイハツ・ムーヴ RS以前は比較的若い世代にカスタムが求められていたが、先代ムーヴでカスタムを選んだユザーがすでに子離れ層だったこともあり、「ムーヴでの役割はいったん終える」ことにしたのだという。新型のターゲットはずばり新人類世代。と聞いてピンとこなければ、60代である。テレビCMに山下達郎と永井博を起用したことからも、ターゲット層が新人類世代であることは容易に想像がつく(そのちょっと下の世代の筆者には)。
発表会に展示されていた大型パネル。永井博のイラストに、オジサンはつい引き込まれてしまった。ちなみに、山下達郎の『FOR YOU』のレコードジャケットは鈴木英人が手がけたもので、永井博が手がけたジャケットで有名なのは大滝詠一の『A LONG VACATION』であり、ごっちゃにしないようお気をつけください。
バブル経済を経験している新人類世代は豊かな消費カルチャーを経験している(その経験をいまだに引きずっているという見方もできる)。つまり、目は肥えている(目だけは肥えているという見方もできる)。いっぽうで、物やサービスを合理的に選択する価値感を持っている(とダイハツは分析している)。そういう層に選んでもらえるよう、新型ムーヴの開発にあたってはメリハリをつけることを意識したという。割り切るところは割り切り、おごるところはおごるということだ。
先代ムーヴはヒンジドアだったが、新型はスライドドアを採用した。2024年に販売された軽自動車のうち約6割がスライドドアだったそうで、流れに乗った格好。いまどきヒンジドアを選ぶほうが異端ということになる。調査してみると、スライドドアは欲しいがスーパーハイト系で選ぼうとすると200万円になってしまって手が出ない。150万円で欲しい。オラオラしていなくてもいいが(どちらかというと、オラオラしていないほうが良く)、スタイリッシュではあってほしい。軽快に走ってほしいし、便利で快適な装備は付いていてほしい。これらの要望を満たすべく開発したのが、ハイト系の新型ムーヴというわけだ。
ムーヴとしては初採用となるリヤスライドドア。ムーヴにはL、X、G、RSの、価格と装備でメリハリを利かせた4つのグレードがある。「スライドドア軽乗用車最廉価」を謳うLは2WDが135万8500円で、法人需要がターゲット。必要充分な装備を備え、価格を重視する層をターゲットにするのがX。新型ムーヴのメイングレードの位置付けで、2WDの価格は149万500円だ。
Gは機能をプラスした上級グレードの位置付けで、2WDの価格は171万6000円。パーキングブレーキは足踏み式ではなく電動になり、LEDヘッドランプはオートレベリング付きになり、マルチインフォメーションディスプレイがカラーになるのに加えタコメーターが付き、フルホイールキャップではなくアルミホイールになる。
L、X、Gは自然吸気エンジンだが、RSはターボエンジンを搭載。余裕駆動力が欲しい人向けだが、機能はさらに充実しており、全車速追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)が標準装備。左側だけでなく右側もパワースライドドアが装備される。ステアリングホイールとインパネセンターシフトはウレタンではなく本革巻きだ。2WDの価格は189万7500円である。
エクステリアは動きの美しさにこだわったという。スライドドアを採用すると、どうしても全高は高くなってしまう。新型ムーヴの全高は1655mm(2WD)で、先代より25mm高い。すっきりとした動きを表現するため、スライドドアの後ろでキャラクターラインをキックアップさせて垂直尾翼風にしている。さらに、ドアがベタッとしないようドアハンドルの上に濃い目のプレスラインを入れ、下部は台形のプレスラインを組み込むことで鈍重さを払拭した。
新型ムーヴは2022年にデビューした2代目ムーヴキャンバスとハードウェアの多くを共用する。ムーヴのエクステリアは動きに勢いをつけたいので、Aピラーはキャンバスよりも倒したいと開発陣は考えた。実際倒れているのだが、乗降性との折り合いをつけたうえで角度を決めたという。もちろん、運転席からの視界についてもしっかり確認した。
ダイハツ・ムーヴ Xフロントマスクは「男前」を合言葉に、キリッとした端正な顔立ちになるようデザインしたという。縦長のリヤコンビランプは先代から継承。ただ受け継いだだけではなく、ブレーキランプが点灯した際にキラキラ光って上質に見えるような処理を施した。光源はLED(ブレーキ4灯、テール2灯)。上位グレードだけでなく全グレード同一仕様だ。
インテリアはスリーク(つややか、スマート)さと実用性の両立を図ってデザインしたそう。センターコンソールを中心に左右対称なウイング形状とする構成は先代と共通。先代ムーヴは2段構成の重ね合わせ部にエアコンの吹き出し口を隠すように配置していたが、新型は幾何学的な造形のエアコン吹き出し口を目立つように配置している。上位グレードは吹き出し口や、一体的にデザインされたカップホルダーにシルバーの加飾が付く。
「車両感覚をつかむためにも水平の軸は大事」とデザイナー氏。サブウインドウ越しに外が見えることもあり、視界は良好。六角形の空調吹き出し口に向かうインパネの隆起が秀逸で、昔アニメで見たロボットや宇宙空間を移動するファイターのコックピットを想起させる。このあたり、新人類世代に響くのではないだろうか。
ダイハツ・ムーヴ RSこだわりはエアコン操作パネルの下に設置したポケットだそう。夫婦で郊外のアウトレットモールに出かけて帰途につくとき、ここに箱入りのスナック菓子(例えばポッキーのような)を入れ、会話を弾ませながら手を伸ばすシーンを想定しての設計だ。キャンバスではここに電動パーキングブレーキのスイッチがあるが、新型ムーヴではそのスイッチをステアリング左側の奥に移動し、ポケットを設けた。
カラーやマテリアルに関しても上質さ、仕立ての良さを意識。G、RSのシートはネイビー色ということになっているが、実はブラウンの糸を織り込んでおり、インパネのブラウン色とのコーディネートを図っている。こだわりはセンターアームレストだ。従来は側面に異なる素材を使っていたそうだが、新型ムーヴではシートと同じ素材をおごった。チラッと目に入ったときの印象が違うそうで、気が利いた仕掛けである。
メディア向け試乗会では都心のホテルを起点に小一時間、メイングレードであるX(自然吸気エンジン、足踏み式パーキングブレーキ、ACCなし、パワースライドドアは左側のみ)と、RS(ターボエンジン、電動パーキングブレーキ、ACC付き、左右パワースライドドア)に乗った。終始1名乗車である。
市街地を走るぶんには自然吸気エンジンのXでも動力性能的に充分だし、地上レベルの首都高速料金所から高架の本線に合流する際の加速にも不足はない。実に頼もしい。ただ、ターボエンジンのRSに乗ると、余裕駆動力のありがたみをかなり強く感じる。高速巡航時はACCがあると便利だし、ブレーキのオートホールド機能がある電動パーキングブレーキも便利だ。結局のところ、どのグレードが最適かはどこまで割り切れるかだし、どこまで求めるかだろう。
ステレオカメラを活用したスマートアシストを搭載。RSでは全車速追従式アダプティブクルーズコントロール(ACC)とレーンキープコントロール(LKC)も備わる。新型ムーヴには足まわりに関してもメリハリが付けられており、RSは専用ダンパー(ショックアブソーバー)が適用されている。下回りを覗き込んで確かめたところ、RSもRS以外の自然吸気エンジン搭載車もダンパーはカヤバ(KYB)製。RSのダンパーには微低速域高減衰バルブのHLSバルブが適用されている。ダイハツの軽自動車初適用だそう。ちなみにHLSはHigh performance & Luxury with Saturation characteristicの一部頭文字をつなげたものだ。
軽自動車に適用するにはお高い部品だそうだが、ターボ仕様はワンランク上の性能を実現したいとの思いから採用に至った。HLSバルブを採用したダンパーはピストンスピードの遅い領域からきっちり減衰力を発生するので、一般論でいえばタイヤの細かな振動を抑制するし、ステアリング切り始めの応答が良くなる。また、ピストンスピードが高い領域では減衰力低く保つ飽和特性となっており、高速道路の継ぎ目などで受ける突き上げのような入力をほどよくいなす。つまり、操安性と乗り心地を高次元で両立する。
ちなみにRSは15インチ(165/55R15)、それ以外は14インチ(155/65R14)サイズのタイヤ&ホイールを履く。タイヤの能力の違いも大きいが、RSのほうがキビキビ動く(ので、キビキビ走らせたくなる)のは確か。いっぽうで、素のダンパーを装着する自然吸気エンジン系の乗り味も悪くないなと思ったのも事実だ(しなやかだし、収まりはいい)。見た目や装備だけではなく、走りの面でもしっかりとメリハリが付けられているのが、新型ムーヴである。