手のひらに100万量子ビット、より小さく、より速い量子コンピューターの実現(Forbes JAPAN)
量子コンピューティングを再発明するにはどうすればよいのか。おそらく、極限まで小型化すること、そしてミリ秒で数十年分の計算を行うことを分野にとっては意外に聞こえるかもしれないが、さらに速くすることである。イスラエルの量子計算スタートアップであるQuantum Art(クアンタム・アート)は、その両方を約束している。信じられないほど強力でありながら極小の量子処理ユニット(QPU)と、競合する量子アーキテクチャの100倍の同時並列処理を提供する。 AIと大規模言語モデル(LLM)の革新が最近は注目を集めているが、量子計算でも大きな進展が続いている。Alice & Bob(アリス・アンド・ボブ)が最近、長寿命の量子ビットを発表し、IBM(アイビーエム)は現在の量子機よりも処理能力が2万倍の量子コンピューターへのロードマップを発表した。 Microsoft(マイクロソフト)も、トポロジカル超伝導体という本質的に新しい物質相を用いた量子処理のブレイクスルーを最近明らかにしている。 イスラエルは量子イノベーションのホットスポットであり、Quantum Machines(クアンタム・マシーンズ)、Classiq(クラシーク)、Quantum Artを含む9つの量子スタートアップが最近計6億5000万ドル(約1001億円)を調達した。
■業界の巨人に立ち向かう小さな挑戦者 Quantum ArtのCEOであるタル・デイビッドとの最近の対話に基づけば、同社は業界の巨人に立ち向かう小さな挑戦者となり、量子コンピューターのサイズ、速度、容量の点で有力なリーダーとなる現実的な可能性を持つ。 サイズ面でいえば、2インチ×2インチは小さいと言えるだろう。GoProや小ぶりのオレンジ、あるいはノートPCの充電用ブリックほどの大きさだ。しかしQuantum Artによれば、そのスペースに100万個の物理量子ビットを信じられないほど高密度に詰め込んだQPUを収められるという(この量子ビット数と、それらを収めるコンパクトなスペースは、ニューヨーク拠点の量子計算企業SEEQC(シーク)が取り組んでいるものを想起させる)。 さらに、Quantum Artは1度に数百の操作を実行できる多量子ビット・ゲートと、処理を高速化する動的再構成性に注力している。結果として、極めてコンパクトで強力なQPUにとどまらず、同社が2027年までに達成を約束する大きな量子優位性(量子コンピューターが従来のコンピューターを大幅に上回る性能を発揮すること)を得られる可能性がある。 CEOのタル・デイビッドによれば、動的再構成性だけでも量子計算の高速化におけるゲームチェンジャーである。まず、コンパイルにおいて驚異的な50倍の速度向上をもたらすという。 「従来の量子コンピューターでは、複数のイオントラップ(ion trap、イオンを捕捉して量子ビットとして使用する装置)が別々に配置されています。そのため、異なるトラップにある量子ビット同士で演算を行う際には、量子ビットを物理的に移動させて、あるトラップから別のトラップへと運ぶ必要があります」と、彼は最近のTechFirstポッドキャストで私に語った。「しかし、この移動プロセスには非常に時間がかかります。実際の計算よりも、量子ビットの移動と、移動後に必要となる再冷却作業に、処理時間全体の98%が費やされてしまうこともあるのです」。 イオントラップとは、量子ビットを保持・操作する物理的な空間である。従来型の量子コンピューターで複数のトラップにまたがってアルゴリズムを実行するには、イオンをトラップ間で物理的にシャトルするか、遠隔でエンタングルさせる必要がある。これは遅く、エラーが起きやすく、エネルギー集約的である。