観測史上最大の爆発現象を「銀河核極限突発現象」と分類 典型的な超新星爆発の100倍のエネルギーを放出

宇宙には文字通り、桁違いのエネルギーを放出する現象が発生します。例えば典型的な超新星爆発は、太陽が約100億年の一生をかけて放出するエネルギーを一瞬で放出します。しかし、この超新星爆発すらも上回る爆発的なエネルギー放出現象もあります。

ハワイ大学天文学研究所のJason T. Hinkle氏などの研究チームは、「ガイア」宇宙望遠鏡など複数の望遠鏡で取得された観測データを分析した結果、非常に大規模なエネルギー放出現象を2つ見つけました。過去の研究で発見済みであるもう1つの天文現象と合わせ、Hinkle氏らはこの3つの天文現象が新たな分類に属することを提案し、「ENT(Extreme Nuclear Transient)」と名付けました。現時点では定まった日本語訳が無いため、本記事ではENTを「銀河核極限突発現象」と呼ぶことにします。

プレスリリースで「ビッグバン以来最大の爆発(※1)」とたとえられているように、銀河核極限突発現象は観測史上最大の爆発的なエネルギー放出現象です。わずか1年で、典型的な超新星爆発の100倍、最大の超新星爆発の25倍、銀河中心部で発生する他の現象の2倍以上のエネルギーを放出する極端な現象です。

※1…この比喩表現の受け止めには注意が必要です。「ビッグバン」は宇宙誕生の瞬間に起きた現象に対する比喩表現であると同時に、宇宙誕生の瞬間それ自体を表す単語でもあるため、何らかの爆発やエネルギー放出現象と比較することはできないためです。つまり、このたとえは「ビッグバンの次に大きな爆発」と解釈するべきではないことになります。

【▲ 図1: 銀河核極限突発現象を引き起こすメカニズムと考えられる、恒星が超大質量ブラックホールに潮汐破壊されている様子。(Credit: Carl Knox – OzGrav, ARC Centre of Excellence for Gravitational Wave Discovery & Swinburne University of Technology)】

銀河中心部では何が起きている?

太陽は1秒間に、全世界の電力消費量440万年分に匹敵するエネルギーを放出し、これを100億年ほど持続させると考えられています。しかし宇宙には、そんな太陽が小さく見えるほど大量に、しかも短い時間で放出する現象が無数に見られます。このような、短時間で非常に大きなエネルギーを放出する天文現象は、遠くから見ると突如として出現する一方、その存在は一時的であり、時間が経つと消えてしまうように見えます。このような活動をする天体を「突発天体(Transient source)」と呼びます。

例えば、重い恒星が一生の終わりに引き起こす超新星爆発は、爆発的なエネルギー放出現象としてよく知られているでしょう。典型的な超新星爆発では太陽の一生分、つまり100億年ほどかけて放出するのと同等のエネルギーが放出されると考えられています。

ところが研究が進むにつれて、そんな超新星爆発すら霞んで見えるほどのエネルギー放出現象が次々と見つかるようになりました。例えば、超新星爆発の中でも「超高輝度超新星(SLSNe; Superluminous supernovae)」と呼ばれるタイプは、典型的な超新星爆発の4倍のエネルギーを放出します。

また、銀河の中心部にある超大質量ブラックホールが、恒星などの大きな質量を持つ物質を飲み込む過程では、さらに大きなエネルギーを放出する「潮汐破壊現象(Tidal disruption events)」が発生することがあります。

銀河中心部の銀河核には、太陽の数百万倍から数百億倍という、非常に重い「超大質量ブラックホール」が存在します。このようなブラックホールが恒星を引き寄せると、その潮汐力で恒星は引き裂かれます。この時、バラバラになって生じたガスは、ブラックホールを周回する降着円盤を形成すると共に、重力や摩擦によって圧縮・加熱され、大量の電磁波を放出します。これを遠くから見ると、まるで何かが爆発したかのような膨大なエネルギーを放出しているように見えます。

しかし、特に銀河中心部で発生する突発的で大規模なエネルギー放出現象の実態は、よく分かっていません。発生する確率が超新星爆発よりはるかに低いため、観測数自体が少ないためです。この確率の低さを補うためには、発生確率が高まる若い銀河を見つけるか、もしくは単純に観測数を増やす必要がありますが、その条件を満たすには、遠方の宇宙にある過去の時代の銀河を観測する必要があります。しかし、遠くの銀河であればあるほど見た目の明るさは暗くなるため、詳細な観測データを入手することが困難になります。

これらの事情から、銀河中心部で爆発的なエネルギー放出現象を観測しても、その詳細を知ることは困難でした。

観測史上最大のエネルギー放出現象を観測

ハワイ大学天文学研究所のJason T. Hinkle氏などの研究チームは、実態がつかめていない銀河中心部で発生する激しい現象の研究を行いました。稀な現象を捉えるため、まずは欧州宇宙機関(ESA)が打ち上げ、ごく最近運用を終了した「ガイア」宇宙望遠鏡のデータを分析し、いくつかの基準を満たす突発天体の探索を行いました。

その結果、カタログ名「Gaia16aaw(AT2016dbs)」および「Gaia18cdj(AT2018fbb)」と名付けられた2つの突発天体が、興味深い性質を持つ可能性がある現象としてリストアップされました。Hinkle氏らはこれに加え、2023年に2つの独立した研究チームが注目して論文を発表した「AT2021lwx(ZTF20abrbeie)」も、Gaia16aawおよびGaia18cdjと同じ現象であると考え、合わせて研究対象としました。ZTF20abrbeieはそのカタログ名の末尾の文字列から「怖いバービー(Scary Barbie)」という通称が付けられています。

ガイアの観測データだけで分かることは少ないため、Hinkle氏らはカタリナリアルタイム突発天体サーベイ(Catalina Real-Time Transient Survey)、広視野赤外線探査機(WISE)、小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)など、いくつかの天文台や観測衛星による観測データアーカイブを取得し、天体現象の詳細を探りました。

その結果、これら3つの天文現象は、どれも今から77~81億年前、つまり宇宙の年齢の半分ほどの時代に起きたものと分析されました。地球からの距離が106~113億光年(※2)と極めて遠方で発生した現象であるにも関わらず捉えられたことは、極端に強いエネルギー放出現象を示唆しています。

※2…この記事における天体の距離は、光が進んだ宇宙空間が、宇宙の膨張によって引き延ばされたことを考慮した「共動距離」での値です。これに対し、光が進んだ時間を単純に掛け算したものは「光行距離(または光路距離)」と呼ばれます。

【▲ 図2: 今回観測された天体現象は、銀河の中心部で発生し、銀河そのものよりずっと強く輝いていたと示唆されています。(Credit: University of Hawaiʻi at Mānoa)】

観測データの分析の結果、3つの天文現象は、明るさが200~700澗ワット(2-7×10^38W)に達することが分かりました。これは太陽の数兆倍、典型的な超新星爆発の数万倍、天の川銀河の数百倍も明るい値です

また、この大きなエネルギー放出は少なくとも150日間ほぼ同じスケールで維持され、その後明るさを減少させつつも数年間は観測可能でした。放出エネルギーの総量は50~250載ジュール(0.5-2.5×10^46J)と推定され、これは太陽が一生かけて放出するエネルギーの100倍、または典型的な超新星爆発の100倍に相当します。それどころか、最も明るい超新星爆発と比較しても、さらに25倍も多いエネルギー放出量となります。これらを踏まえると、今回分析された天文現象は、単なる超新星爆発では説明がつきそうにありません。

「銀河核極限突発現象」への分類を提案

分析結果からHinkle氏らは、3つの天文現象はブラックホールが恒星サイズの物質を引き寄せることで起こった潮汐破壊現象に由来すると考えました。しかし、今回分析した3つの天文現象は、過去に銀河核で観測されたどのエネルギー放出イベントと比べて、少なくとも2倍以上のエネルギーを放出している、観測史上最も爆発的なエネルギー放出現象であることが分かっています。分析結果を元にすると、この天文現象は、太陽の1億倍以上の質量を持つ超大質量ブラックホールに、太陽の3倍以上の恒星が吸い込まれる過程で発生したものと考えられます。

【▲ 図3: 様々な種類の突発天体の明るさと時間スケール的変化を比較したグラフ。銀河核極限突発現象は他と比べて明るいだけでなく、変化の時間スケールも長いことが分かります。(Credit: Jason T. Hinkle, et al. / 日本語訳: 筆者)】

このことからHinkle氏らは、この天文現象は新しい種類に分類されると考え、新たに「銀河核極限突発現象(ENT; Extreme Nuclear Transient)」という名前を提案しました。数年間という時間スケールは、人間の感覚ではかなり長いように思えますが、天文学的には数秒と変わらない程度には一瞬の出来事です。短い期間で、非常に大量のエネルギーを放出する現象であることから、ハワイ大学ではこれを「ビッグバン以来最大の爆発」と表現しています。

観測された銀河核極限突発現象が起こった時代は今から約80億年前であり、今よりずっと若い宇宙で起きたことは注目に値します。この時代の銀河は、今よりずっと大量の恒星を生成するため、ブラックホールに吸い込まれる恒星の数も多かったでしょう。つまりもっと時代をさかのぼれば、さらに多くの銀河核極限突発現象が発見される可能性があります。

約80億年前という時代は、私たちの日常的な感覚からするとかなり遠い過去のように思えますが、天文学的にはかなり近い時代です。今回の研究で銀河核極限突発現象が定義付けられたことは、今後の観測でもっと古い時代の銀河核極限突発現象を見つけやすくなることを意味します。123~129億年前の宇宙で発生した銀河核極限突発現象を捉えることも不可能ではないでしょう。より多くの銀河核極限突発現象を捉えれば、この極端すぎる天文現象の実態にさらに迫れることになります。

ひとことコメント

超新星爆発ですらスゴい現象だけど、銀河核極限突発現象はそれが小さく見えるほどスゴい現象だよ!

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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