超長期債の売り圧力に一服感-財務省の減額対応に中東情勢緊迫が加勢
日本の超長期国債利回りの上昇圧力は一服する公算が大きい。財務省が20日夕に事前報道を上回る発行減額案を示したことに加え、中東情勢の緊迫化によるリスク回避が市場の過度な警戒感を短期的に和らげるとの見方が広がっているためだ。
財務省は2025年度の国債発行計画の修正案で、償還期間が10年を超える超長期債の発行額を計3兆2000億円減額する方針を20日に明らかにした。米軍によるイラン核施設への攻撃を受けた債券買い観測も相まって、ストラテジストの間では、当面の超長期ゾーンにおける金利上昇リスクが和らぎ、相場は一定程度落ち着くとの見方が出ている。
みずほ証券の大森翔央輝チーフ・デスク・ストラテジストは「思ったよりも早く超長期債の発行減額を公表した」と指摘。24日の20年債入札が不調に終わるリスクを回避したかったのだろうとの見方を示した上で「超長期債のボラティリティー低下という意味では市場は安心感を得た」と語った。
ただ、こうした落ち着きは一時的との声もあり、長期的な展望には不透明も残る。国内のインフレ率は数年ぶりの高水準にあり、夏の参院選を控えた財政支出の拡大観測や、世界的な財政赤字への懸念も根強い。激化する中東情勢による債券買いへの期待も一過性にとどまる可能性がある上、超長期債の減額は短期債の増発というしわ寄せを生むことで根本的な解決には至らないとの指摘もある。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美チーフ債券ストラテジストは、20年債だけをみればポジティブだが、国債買い入れ消却が見送られたことも踏まえると「30年債や40年債が落ち着くかどうかにはやや疑問がある」との見方を示した。
三井住友トラスト・アセットマネジメントの稲留克俊シニアストラテジストも、超長期債の需給に問題があるにもかかわらず30年債ではなく20年債の減額幅が増えたことは「不可解」とし、今後30年債の減額幅が拡大される可能性があると話す。
財務省が提示した変更案では、入札1回あたりの減額幅は20年債が2000億円と、ブルームバーグなどによる草案を基にした事前の報道内容に比べて2倍に拡大された。5月下旬の20年国債入札の不調をきっかけに日本の超長期利回りが急上昇し、影響が世界市場に波及した経緯がある。
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野村証券の岩下真理エグゼクティブ金利ストラテジストは、20年債の減額幅が上振れたことは「債券相場にポジティブ」と評価。一方で、超長期債の流動性低下とボラティリティーの高さが改善するかは、今後の20年債入札や30年債入札での堅調な需要を確かめる必要があると指摘した。30年債の次回入札は7月3日に予定されている。
また、中東情勢の影響については「債券市場の初期反応はリスクオフで金利低下」としつつも、その後はイランの報復攻撃の有無と原油動向が鍵を握るとの見方を示した。緊迫した情勢が長引くとの見方が市場で強まれば、「原油価格は高止まりし、インフレにつながるため債券が売られるだろう」と述べた。
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財務省は発行計画の変更案を23日の国債投資家懇談会にも示し、正式に決定する。市場で関心を集めていた買い入れ消却について、財務省の担当者は今後の検討の可能性を否定するわけではないと説明。一方、現時点で実施に向けて作業を進めていることはないとも話した。実際に消却を実施する場合は、目的や手法に加えて、対象の年限や銘柄を検討する必要があり、課題は少なくないとの見方を示した。