機能停止で音信不通だった人工衛星、57年ぶりに信号発信

Image: NASA

いまから1年ちょっと前、オーストラリアの科学者チームが、突発的に放出された超短い電磁波を検出しました。そのパルスは、空から届く他のあらゆる信号をかき消してしまうほど強力でしたが、どこからやってきたのかは謎でした。

そこで、研究チームがデータを分析したところ、そのパルスの発信源が宇宙のかなたにある天体ではなく、目的を失ったまま地球を周回する「ゾンビ衛星」だったことが判明しました。これはびっくり。

ゾンビ衛星、1967年以来57年ぶりの信号を発信

NASA(アメリカ航空宇宙局)のRelay-2は、前身のRelay-1が軌道に送られた2年後の1964年1月21日に打ち上げられました。

この2機は実験用の通信衛星で、ヴァン・アレン帯として知られる、地球をドーナツ状に取り囲む放射線帯をマッピングする実験装置を搭載していました。Relay-2は、1967年6月9日に2台のトランスポンダ(信号を中継する装置)が故障するまで運用を続けました。

機器が故障したので当然ですが、それからはずっと音信不通でした。約57年後に短い信号を送ってくるまでは…。

そして2024年6月13日、オーストラリア西部のマーチソン電波天文台にある電波望遠鏡「Australian Square Kilometer Array Pathfinder」を運用する天文学者たちが、30ナノ秒(ナノは10億分の1)に満たない謎の高速電波バースト(FRB: Fast radio burst)を検出しました。

カーティン大学の研究者であるClancy James氏は、科学誌New Scientistの取材に対して次のように述べています

新たなパルサー(高速で回転し、パルス状の強い電波を発する中性子星)か、他の天体を発見したかもしれないと思い、すごく興奮しました。非常に短い時間でしたが、他のすべての天体をはるかにしのぐ強力な電波だったんです。

科学者たちは当初、この信号は宇宙のはるかかなたにある天体が発したものだと考えていましたが、さらなる分析の結果、長く機能停止していたRelay-2こそが、謎のパルスの発信源であることが明らかになったといいます。研究結果は、査読前の論文を公開できるプレプリントサーバーであるarXivに掲載されています。

どうやって発信したのかは謎のまま

通常、高速電波バースト(FRB)は深宇宙から届く短く強力な電波のパルスで、数ミリ秒しか持続しません。

NASAによると、FRBは短命であるにもかかわらず、その短い時間内に銀河全体を凌駕するほどのエネルギーを放出する可能性があるといいます。

2024年6月に検出されたFRBは特に強力で、当時、Relay-2が真上を飛んでいたタイミングと一致したそうです。また、その信号は異常なほどクリアで、はっきりと捉えられたとのこと。

とはいえ、Relay-2がどうやって突然この信号を発したのかについては、依然として謎のままです。研究チームは、長い時間をかけて電気を蓄えたRelay-2が、突発的に強力な一撃を放ったか、または、Relay-2が微小隕石(いんせき)や軌道上の物体と衝突した結果、小さなプラズマ雲を放出したのではないかと考えているそうです。

これからますます機能停止した衛星が宇宙空間を高速で飛び交い、あらゆる種類の奇妙な信号を発するようになっていくと、科学者たちはそれが宇宙からのメッセージなのか、それとも壊れた機器によるものなのかを特定するのがどんどん難しくなっていくんでしょうね。

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