「世界最大の動物」シロナガスクジラは、今も生物として可能な巨大サイズに向け進化し続けている(Forbes JAPAN)
化石記録を見ていると、ひときわ明確に浮かび上がってくる進化のパターンがある。現代の哺乳類の大半は、氷河時代の祖先と比べて、体が大幅に小さくなっているというパターンだ。 ところが、シロナガスクジラ(学名:Balaenoptera musculus)だけは特異な例外のようで、このパターンに当てはまらない。シロナガスクジラは、ただ巨大であるばかりか、体がいっそう大きくなり続けているのだ。 その理由を知るための手がかりは、2012年に『PNAS(米国科学アカデミー紀要)』で発表された研究にある。哺乳類の身体的な大きさの進化に関する最も詳細な分析の1つであるこの研究で、研究チームは、クジラは地球上のほかのどの哺乳類グループよりも速いペースで体が大型化していると見られることを突き止めた。実際、クジラの進化「速度」は、陸生哺乳類のほぼ2倍に達している。 同研究では、7000万年に及ぶ進化過程における身体的な大きさを、以下の手法を用いて再構築している。 ・哺乳綱に属する28の「目(もく)」の化石調査 ・歯、頭蓋骨、四肢骨の大きさを基にした体格の推定 その調査結果は、無数の世代にまたがる歩みを物語っている。それ以上に重要なのは、生物学者を長く悩ませてきた疑問、つまり、「進化はいかにして、シロナガスクジラのような巨大な生物を作り上げてきたのか」という問いに対し、明確な答えを提示していることだ。
■海中では、巨大化した方が物理的にラク 生命体の身体は、何よりも、重力という制限を受けている。これは、大型の陸生哺乳類は、自らの体重を支えるために身体構造を大幅に修正する必要があることを意味する。例えば、ゾウが現在の平均体重より重くなったとしたら、転倒を防ぐためだけに、脚の骨を、体の大きさに比して不釣り合いになるほど太くなるよう進化する必要があるだろう。 2012年に『PNAS』で発表された研究の分析結果からもわかるように、陸生哺乳類が大型化する速度は、海洋哺乳類のおよそ半分に過ぎなかった。陸生哺乳類の場合、体が1000倍のサイズまで大きくなるには500万世代もの月日を要した。これに対してクジラの場合は、300万世代分ほどで同等の大きさに到達した。 研究結果が示唆するところによると、進化速度に違いが生じるのは、哺乳類の環境──具体的に言えば海という環境に原因がある可能性が高い。水中で進化する場合、水が体重を支えてくれるので、陸生哺乳類と同じような力学的な補強を必要としない。浮力によって、体の大型化がずっと容易になり、大きくなっても骨格を丸ごと変える必要はないのだ。必要なのは、いくつもの世代を経て、体を少しずつ大きくしていくことだけだ。 力学的な制限が少ないことこそ、クジラが、ほかのどの哺乳類グループにも見られないような大きさになるまで、長期にわたって進化速度を維持している主な要因といえる。 ■クジラに大型化を促す、強い進化的圧力 クジラが大きいのは、ただ単に、海では大型化が「簡単」だからというわけではない。『PNAS』に掲載された論文の筆頭著者で、オーストラリア、モナシュ大学の進化生物学者アリステア・エヴァンズが、同国テレビ局の科学サイト「ABCサイエンス」のインタビューで説明したように、クジラの場合、体が大きい方が効率的だという。海洋環境においては、巨大なことにはいくつかのメリットがある。 まず、体が大きいと、体温調節がずっと効率よく行われる。恒温動物の場合、体表面積に対する体積が大きくなればなるほど、体温が奪われる速度が低下する。このことが、冷たい水の中で生き抜いていく上で大きな利点となるのだ。 体が巨大であれば、長距離移動もぐんとラクにもなる。さらに、オキアミのような小さな食物、つまり、豊富に存在するが低エネルギーの食物であっても、生き延びることが可能になる。動物は、体が大きければ大きいほど、組織1gあたりの代謝率が低下し、ひいては食料の摂取効率が向上するのだ。 こうした条件下では、自然選択はむしろ、体の大きい動物にとって有利に働くようだ。大量のエサが、必要なだけ手に入るのであれば、体が大きいクジラの方が、生存率が高く繁殖もしやすくなる。