「クジラ」支える体制にかじ、今中計での人件費8割増に-GPIF

世界最大規模の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、拡大する運用資産を支える人事制度へとかじを切った。職員数は海外の主要基金と比べて少なく、今期から5年間の中期計画では人件費を8割増やすなどして体制を整える。

  4月に就任した内田和人理事長は人事制度の強化を主要な運営課題と捉えている。ブルームバーグの取材に応じ、「研修や人事制度も含めて全体的に人事を強化する」と強調した。

  GPIFの運用資産残高は20年3月末時点から約7割増え、260兆円に達した。内田氏が人事の強化に注力するのは、規模が拡大するなかで債券や株式といった資産構成比の調整など「リスク管理が組織として非常に重要なガバナンス(統治)になる」ためだ。

  2025年度からの中計の人件費は、前の中計を8割上回る181億6000万円を見込む。収益を確保するため伝統的な資産に代わるオルタナティブ(代替)投資も進めており、「クジラ」の支え手には幅広い知識や手腕も求められる。

  現状、GPIFの職員数は4月1日時点で計187人で数が少ない。運用方針や業務内容が異なるため単純比較はできないものの、他国の主要基金とは差が大きい。

  運用資産が287兆円規模のノルウェー政府年金基金(GPFG)は676人の人材を抱える。カナダ年金制度投資委員会(CPPIB)や米カリフォルニア州職員退職制度(カルパース)の資産規模はGPIFの3分の1以下だが、人員はそれぞれ2000人を超える。

  ニッセイ基礎研究所の德島勝幸年金総合リサーチセンター長は「資産規模と人数は必ずしも関係がない」と指摘するものの、GPIFが強化するオルタナティブ投資やアクティブ運用などは「人を割いていかなくてはいけない分野だ」とみる。

  人材の確保に加えて、定着率や女性の管理職比率の向上など働きやすい環境の整備も重要だと話す。

  GPIFは人事制度の見直しに着手している。4月には正規職員の定年を60歳から65歳に延長した。24年度には新卒の運用専門職員を初めて採用した。

  専門人材の確保も進める。24年度までの5年間にはオルタナティブ運用担当を12人、投資運用担当を10人採用した。運用の事務やリスク管理といった業務を含む法人業務全般の担当の採用も積極化したという。

  内田氏は、職員は「公的機関であり、年金の運用という非常に重たい責任を負っている」と述べる。「国民の皆様から安心していただけるような組織」づくりを進めていきたいと意欲を示した。

  日本の運用業界を牽引する組織として取り組むよう促す意見もある。東洋大学の野崎浩成教授は「収益を向上するため質に力点を置いて人員を強化すべきだ」と強調する。特に株式の投資先を選定する担当に質の高い人員を多く配置すべきだと提案する。

  厚生労働省が24年末に開いた有識者会議でもGPIFの運営体制が議題となった。厚労省の担当者は業界の実態を踏まえた適時適切な報酬水準・体系の見直しも必要だとの課題認識を投げかけた。

  GPIFの給与水準は民間を踏まえて設定されているが、外資に比べると低い。委員からは「いかに採用した方に長く勤めてもらうかが非常に重要になる」といった指摘が挙がっていた。

  GPIFを所管する厚労省資金運用課の高島章好課長は、資産規模が拡大する中、リスクを適切に管理するためには資産構成の調整の精緻化が重要で「さらなる人材確保や育成が必要」と語る。運用担当者だけでなく、リスク管理などを担う部署にも優秀な人材が必要だとし、今後は「人事戦略に重きを置いてほしい」と求めた。

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