健康不安説のイラン最高指導者、唯一の戦略は「様子見」 相次ぐ危機にデモ発生も静観

首都テヘランでのイベントで演説するハメネイ師=12月11日/Iranian Leader Press Office/Anadolu/Getty Images via CNN Newsource

(CNN) 今月上旬、イランのリゾート地キシュ島で開かれたマラソン大会で、そろいのシャツとレギンスを身に着けた女性数百人が列をつくった。その髪は後ろでゆるく束ねられていた。

イランで服装規定を無視すれば、高額の罰金や禁錮刑を科されかねない。しかしランナーたちは、大会主催者が違反行為を見越して用意した無料のヘッドスカーフや政府の指示を無視し、目の前のコースに集中していた。

10月には首都テヘランの路上で、バンドが熱狂的な聴衆を前にザ・ホワイト・ストライプスのヒット曲「セブン・ネイション・アーミー」を演奏する場面があった。この光景はSNSで拡散し、楽曲制作に関わった米国のギタリスト、ジャック・ホワイトさんも再投稿した。

今週、通貨が過去最安値を付けた後には、複数の都市で商店主や商人が街頭に繰り出して家賃が払えないと訴え、反体制のスローガンを叫んだ。スカーフの着用方法が不適切だとして拘束された女性マフサ・アミニさん(22)が警察の拘束下で死亡し、2022年に全国的な蜂起が起きて以来、最大規模のデモとなった。

今のところ規模は限定的だが、今回のデモはイラン国内の不満の高まりを改めて示すものだ。これと同時に、人々は組織だったものではない抵抗を通じて、静かに公共空間や個人の自由を取り戻そうと動いている。西洋文化の影響に長年反対してきたイランのイスラム神権体制は、拡大する市民の不服従行為を大目に見つつ、体制存続に集中しているとみられる。

通過リアルが下落する中、両替所の看板の前を歩く人々=12月20日、テヘラン/Majid Asgaripour/Wana News Agency/Reuters

舵(かじ)取りを担うのは、健康不安を抱えるイランの最高指導者ハメネイ師(86)だ。ハメネイ師は数十年にわたり、国内外の脅威から体制を守ろうと試みてきたが、いまや破綻(はたん)しつつある戦略と向き合わざるを得ない状況だ。国内では、いら立った若者がイスラム教の規範に対する前例のない反抗を見せ、通貨は過去最安値に急落。都市部は水不足に見舞われ、抗議の声も出始めている。国外では、宿敵イスラエルが対イラン追加軍事行動を求めて米国に働きかけている。

選択肢が限られる中、ハメネイ師は目下、慎重な様子見の姿勢を取る。国内の課題は山積だが、大きな決断や抜本的な戦略は避ける構えだ。

「ウォッチャーの多くは誰も家にいない、という印象を伝えている。大きな決断をする人がいない、というより、ハメネイ師が実質的な決定を一切許可していないのだろう」。そう語るのはイランやイラク、アラビア半島諸国に重点を置く英ロンドンのニュースサイト「Amwaj.media」の編集者、モハマド・シャバニ氏だ。

シャバニ氏は「現状ではハメネイ師がどんな決断を下そうと、大きな逆風を招く可能性が高い。このため、重大な決定を先送りしているように見える」と述べた。

イラン最高指導者の称号は、国家と宗教のあらゆる事柄への最終権限を付与する重要な肩書だ。報道によると、6月に12日間続いたイスラエルとの衝突の間、ハメネイ師は身の安全を考慮して連絡を絶ち、安全な地下壕(ごう)に閉じこもっていたという。何十年も準備を重ねてきたイラン政府だが、軍事衝突に不意を突かれた形になった。

衝突後、ハメネイ師の元に残されたのは、弱体化した軍と深刻な打撃を受けた核計画、そして、かつての革命指導者の36年に及ぶ政策に急速に信頼を失いつつある国民だった。

これに続く数カ月、苦境に立たされたイラン国民は、相次ぐ危機で国がさらなる機能不全に陥る様子を目の当たりにした。慢性的な停電に記録的なインフレ、失業率の上昇が重なり、市民の間では無力な指導部への幻滅が広がっている。

政府が冬の電力確保に躍起になり、天然ガスより安価かつ低品質で、汚染度の高い燃料に切り替えた結果、イランの空はスモッグに覆われている。

雨乞いの祈りをささげるイランの女性たち=2025年11月14日/AFP/Getty Images

イラン各地の20州は今年、ここ40年あまりで最悪の干ばつに見舞われた。対策の不備で水危機は深刻化しており、テヘランでは細る一方の水供給への負担を和らげるため、ペゼシュキアン大統領が首都から住民を退避させる案を公然と提起するほどだ。

経済面では物価高騰に悩まされる。生活必需品が手の届かない水準に跳ね上がる中、今月には通貨リアルが史上最安値を付け、商店主の抗議を引き起こした。

かつて巧妙で革新的だったイランの外交政策は行き詰まりつつある。欧米諸国が容赦ない制裁で締め付ける中、外交的な突破口を見いだせない状況だ。長年にわたってイランの地域的影響力と抑止力の要となってきた革命防衛隊の代理武装勢力ネットワークは、連日のようにイスラエルから狙われ、大きく弱体化した。さらに昨年、シリア反体制派がイランと近い関係にあったアサド政権を打倒したことで、鍵となる領土面の優位性も失われた。

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