食物繊維が糖尿病リスクを減少 食事で食物繊維をとると認知症予防にもつながる

 食物繊維は「消化酵素で分解されない食物中の総体」と定義されている。大きく、水に溶ける水溶性食物繊維と、溶けない不溶性食物繊維がある。

 野菜、豆類、大豆、全粒穀物、イモ類、海藻類、果物などに含まれる食物繊維は、体重や血糖の管理、心臓の健康などの改善に役立ち、がん予防にもつながることが知られている。

 また食物繊維は、腸内の細菌により発酵・分解され、ビフィズス菌などの善玉菌のエサになり、善玉菌を増やし、腸内環境を改善する。

食物繊維が不足している人が多い

 健康的な食事では、食物繊維を十分にとることが必要という新しい研究を、オーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学などが発表した。

 研究グループはこれまで、20種類以上の食物繊維が、腸内フローラ(腸内細菌叢)にどのような相互作用をもたらすかなどを調査してきた。

 「多くの国の人は、食物繊維を十分にとれていません。食物繊維には多くの利点がありますが、それを最大限に活用する方法についてのアドバイスも不足しています」と、同大学理学部のラジ エリ教授は言う。

 推奨される食物繊維の摂取量は、成人1日あたり28〜42gだが、米国人は平均して1日に12〜14gしか摂取しておらず、欧州では1日に18〜24gしか摂取できていないという。

 日本の食事摂取基準でも、食物繊維の1日の目標量は、成人男性で20~22g以上、成人女性で18g以上とされているが、日本人は食物繊維を1日に男性は18.8g、女性は16.9gしかとれていない。

食物繊維をとっている人は糖尿病リスクが少ない

 食物繊維の摂取量を増やすと、2型糖尿病のリスクを低下できるという別の研究を、ノルウェー科学技術大学などが発表している。研究成果は、欧州糖尿病学会の医学誌「Diabetologia」に掲載された。

 研究グループは、欧州の8ヵ国で行われた大規模なコホート研究の34万人超のデータを解析した。そのうち1万1,559人が2型糖尿病を発症した。

 その結果、食物繊維の摂取量が1日に26g以上ともっとも多いグループは、1日に19g未満ともっとも少ないグループに比べて、糖尿病の発症リスクが18%低いことが明らかになった。

 とくに全粒穀物から食物繊維をとっている人は、糖尿病リスクが19%低かった。また、食物繊維の摂取は健康的な体重を維持し、肥満を予防するのに役立つことも示された。

食物繊維は糖尿病リスクを減らすのに役立つ

 さらに、2型糖尿病を新に発症した4万1,000人以上を含む、18件の研究のメタ解析では、食物繊維の摂取量が1日に10g増加するごとに、糖尿病リスクは9%低下し、穀物からの食物繊維の摂取量が1日に10g増加するごとに、糖尿病リスクは25%低下することも分かった。

 「食物繊維を食事で十分にとることは、2型糖尿病や肥満のリスクが低いことと関連していることが示されました」と、同大学栄養学部のダグフィン アウネ教授は言う。

 「その理由ははっきりとは分かっていませんが、食物繊維をとることで、糖質などの栄養の吸収が遅くなり、満腹感が長く続くこと、インスリン分泌を促したり食欲を抑えるホルモンの分泌を増やすこと、腸内細菌のバランスが改善することなどが考えられます」としている。

 食物繊維をとることは、体重減少を促し、血糖管理を改善し、インスリンに対する体の感受性を向上することなどにつながり、糖尿病リスクを減らすのに役立つ可能性があるとしている。

食物繊維を多くとっている人は認知症リスクも低下日本人を最大21年間追跡して調査

 筑波大学の研究では、中年期に食物繊維を多くとることで、高齢期の認知症の発症リスクが低下することが示されている。

 ⾷物繊維を多くとっている⼈は、認知症にかかる確率がおよそ4分の3に減少することが示された。とくに水溶性食物繊維を多く摂っている人で、要介護認知症の発症リスクがより低下する傾向がみられた。

 「⾷物繊維の摂取が腸内細菌の構成に影響を与え、神経炎症を改善したり、他の認知症の危険因⼦を低減することで、認知症の発症リスクを低下させた可能性が考えられます」と、研究グループでは述べている。

 認知症はさまざまな原因により、認知機能が低下する病気で、そのうち、介護保険での要介護認定にいたった認知症は「要介護認知症」とされる。認知症は本人とその家族だけでなく、社会にも大きな負担をもたらすことから、その予防法の開発が求められている。

 研究グループは、日本人の健康に関する大規模コホート研究「CIRCS研究」を実施している秋田・茨城・大阪の3地域の住民で、1985~1999年のあいだの健診時に実施した栄養調査に参加した40~64歳の3,739人を対象に、最大21年間にわたり追跡して調査した。

 その結果、⾷物繊維の摂取量が上位25%のグループは、下位25%のグループに⽐べ、要介護認知症の発症リスクは0.74倍に減少したことが示された。

 「認知症の成因にはまだ不明なことが多く、ひとつのコホート研究の結果だけで因果関係を断定できませんが、研究成果は認知症予防につながる知⾒のひとつと⾔えます」と、研究グループでは述べている。

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