〈独自〉トランプ政権がロシアとウクライナに「領土交換」を提案か…南部2州とドンバスらを入れ替える“戦後国境”案(集英社オンライン)|dメニューニュース

〈独自〉トランプ政権がロシアとウクライナに「領土交換」を提案か…南部2州とドンバスらを入れ替える“戦後国境”案

4年半以上にわたって続くロシアによるウクライナ侵攻を終わらせるため、トランプ政権が新たな「領土交換」を検討していることが、関係者への取材でわかった。構想では、ロシアが占領する南部ヘルソン、ザポリージャ両州をウクライナ側に戻す一方、東部ドンバス地方をロシア側に置くという。実現すれば、現在の前線ではなく州境に沿って両国の支配地域を大きく引き直すことになる。ロシアにとってはクリミアにつながる重要な陸上回廊を失い、ウクライナにとっては長年守ってきた東部の拠点を手放すことを意味する。米国が描く“戦後国境”とは、どのようなものなのか。

州全体を対象にした具体的な「領土交換案」

この案が扱うのは、ロシアが全部または一部を占領しているウクライナの4州とクリミアだ。交渉内容を知る関係者によると、米側が示した案の一つでは、南部のヘルソン州とザポリージャ州をウクライナ側に置く構想が示されているという。

東部のドネツク州とルハンスク州からなるドンバス地方、それにクリミアはロシア側に置く。

今の戦線をそのまま停戦ラインにするのではない。双方が軍を引き上げたうえで、州の境に沿って支配地域を交換するという考え方である。

ロシアの主権を正式に認めるのか、それとも領有権の最終的な扱いを棚上げしたまま実効支配を事実上容認するのかによって、提案の意味は大きく変わる。両国がこの案を受け入れられるのかどうかも、はっきりしない。

それでも、州全体を対象にした具体的な交換案が出たのだとすれば、これは大きな転換点になる。

単なる面積の交換ではないことは、地図を見れば分かる

米国でウクライナ、ロシアとの交渉を担うウィトコフ、クシュナー両氏は9月、モスクワでプーチン大統領と会談した後、キーウを訪れ、ゼレンスキー大統領と話し合った。

米ロの双方は中身を明かさないまま、「新たな案」について協議したと説明している。ゼレンスキー氏も、米側から「かなり良い、検討に値するアイデア」が複数示されたと明かし、協議を続ける考えを示していた。

その中核に領土の交換があるかもしれない––––。関係者の話から、そんな見方が浮かび上がる。ウクライナが南部を、ロシアが東部を確保するように国境線を引き直し、4年半以上続く戦争を終わらせようというのが米国の構想だ。

この案が単なる面積の交換ではないことは、地図を見れば分かる。

2022年に侵攻が始まってから、ロシアは南部のヘルソン州とザポリージャ州の広い地域を占領している。この2州は、ロシア本土からアゾフ海沿岸を通ってクリミアへ抜ける陸の回廊になっており、ロシア軍にとっては、クリミアや南部戦線へ部隊や装備、燃料を運ぶための重要な補給路だ。

米国案のとおりにロシア軍がこの2州から完全に撤退すれば、ザポリージャ州の要衝メリトポリや港町ベルジャンスクはウクライナの手に戻る。欧州最大のザポリージャ原発も返される対象になり得る。

その代償は重い。ウクライナはドンバス全域を失うことに

一方のロシアはクリミアへの陸の回廊を失い、補給を再びクリミア橋や海上輸送に大きく頼らざるを得なくなる。

ヘルソン州では、ロシア軍がドニプロ川の東岸から退く。ウクライナは州都ヘルソンの対岸の地域を取り戻し、黒海沿岸とクリミアの北への足場を再び手にする。ドニプロ川を挟んで向かい合ってきた両軍の戦線も、ここでなくなる。

ウクライナにとってこれは、軍事力だけでは取り返すのが難しかった広い南部の占領地を、話し合いで取り戻すことを意味する。アゾフ海沿岸の支配を取り戻すことで、農地や港、エネルギー施設も戻ってくる。国の存続と経済の立て直しを考えれば、非常に大きな利益だ。

しかし、その代償は重い。ウクライナはドンバス全域を失うことになる。

ルハンスク州はほぼ全域をロシア軍が支配しているが、ドネツク州には今もウクライナの統治下にある部分が残る。州全体をロシア側にするのなら、ウクライナ軍は今の支配地域から戦わずに撤退しなければならない。

クラマトルスクやスラビャンスクを含む地域まで対象になれば、2014年以降に巨額の費用と多くの犠牲を払って築いてきた防衛拠点を手放すことになる。

領土をあきらめることが最も難しい政治判断

ドンバスは戦争が始まる前から続いてきたロシアとウクライナの対立の中心にある。ロシアは2014年、クリミアを一方的に併合した。同じ年、ドンバスでは親ロシア派の武装勢力による紛争が始まった。

プーチン氏は、ロシア語を話す住民を「保護」することを侵攻の口実の一つに掲げてきた。ドンバス全域とクリミアを手に入れれば、ロシア政府は国内に向けて、戦争の主要な目標を達成したと宣伝できる。

ウクライナにとっては、領土をあきらめることが最も難しい政治判断だ。前線で守ってきた土地を交渉で渡せば、軍や遺族、避難した住民から強い反発が出るのは避けられない。ロシアの支配から逃れてきた住民が、また移住を迫られる恐れもある。

クリミアの扱いも複雑だ。ウクライナは一貫して、クリミアを含む全ての領土を取り戻すと掲げてきた。米国など西側諸国も、ロシアによる一方的な併合を認めていない。

米国案がクリミアを正式にロシア領と認める内容なら、武力による国境の変更を西側の中心国が追認することになる。他の地域でも同じような試みを招きかねない、という批判も強まる。

ロシアにとっても簡単に受け入れられる案ではない

米国側には、双方に「勝利」と説明できる成果を与えて、交渉を動かす狙いがあるとみられる。

ウクライナは南部2州と原発、アゾフ海沿岸を取り戻す。ロシアは、軍事的な完全制圧を目指してきたドンバスと、戦略的要衝であるクリミアを確保する。

トランプ政権は、どちらの側も全面勝利できない戦況を踏まえ、東部と南部を交換する「大取引」で戦争を終わらせようとしている可能性がある。

だがこれは、ロシアにとっても簡単に受け入れられる案ではない。

ロシアは2022年9月、占領地で「住民投票」と称する活動を行い、ドネツク、ルハンスクだけでなく、ヘルソン、ザポリージャの両州も一方的に併合した。4州をロシア領とする手続きも取った。国連総会は、この「住民投票」を違法なものとして認めず、ロシアによる4州の一方的な併合を非難している。

それでもプーチン政権は、4州がロシアの一部になったと国民に説明してきた。ヘルソン、ザポリージャの両州を返せば、自国の領土だと宣言した土地を和平のために手放す形になる。南部の軍事拠点や陸上回廊を失うことも、ロシア軍にとって大きな痛手だ。

領土交換だけを先に決めても…

ロシアはこれまで、ウクライナ軍が4州の全域から撤退することを停戦の条件に掲げてきた。米国案は、この要求をドンバスでは満たすものの、南部2州では逆にロシア軍へ全面撤退を迫る。

プーチン氏が従来の最大限の要求を修正する用意があるかどうかが、実現できるかどうかを左右する。

両国の首脳だけで決められる問題でもない。ウクライナ憲法は、領土の変更を国民投票で決めると定める。戦時下で延期されている選挙の実施、安全保障上の環境、国外に避難した国民の投票方法など、数多くの問題を解決する必要がある。

ゼレンスキー氏が領土に関する最終判断を国民に委ねる可能性を示してきたのも、このためだ。

停戦後にロシアが再び侵攻するのをどう防ぐかも決着していない。ウクライナは、米国を含む西側諸国による法的拘束力のある安全保障を要求している。欧州諸国の部隊展開や防空支援も協議されてきたが、規模や任務、米軍の関与は固まっていない。

領土交換だけを先に決めても、停戦監視や制裁解除、住民の国籍問題を処理できなければ、持続的な和平にはならない。特に、双方の軍がいつ、どの経路で撤退し、誰が履行を監視するのかは、交渉の成否を決める。

地図上の変更は、何百万人もの人生を左右する

米国案は、戦争で動いた前線を州境に沿って引き直し、双方が受け入れられる最終線を探る試みだ。ただ、そこに暮らす住民にとって、地図上の変更は、何百万人もの人生を左右する。米国、ロシア、ウクライナの交渉だけで国境線を引いてよいのかという問題も残る。

南部を取り戻す代わりに東部を手放すのか。ドンバスを得る代わりにクリミアへの陸路を失うのか。米国が示したとされる交換案は、両国に戦争終結への出口を用意すると同時に、双方が最も手放したくないものを差し出すよう迫っている。  

それは和平に向けた現実的な妥協なのか。それとも、次の戦争までの境界線を引くだけなのか。米国が描いた「戦後国境」を巡り、ロシアとウクライナは国家の将来を懸けた選択を迫られる。

文/集英社オンライン編集部

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