死刑執行された70年前の殺人事件、再審きょう判断 4つのポイント
坂本純也 座小田英史 伊藤隆太郎
熊本県の山村で元役場職員が殺害され、ハンセン病とされた男性が死刑判決を受け執行された「菊池事件」。熊本地裁が28日、その再審請求を棄却した。事件の経緯や何が争点になっていたのかをまとめた。
1952年7月、熊本県の山道で元村役場職員の遺体が見つかり、ハンセン病とされた男性が逮捕された。事件名は発生地が現・菊池市内であることに由来する。
男性は無実を訴えたが、熊本地裁は「男性から犯行を告白された」という親族2人の供述やそれに基づき発見された凶器を証拠に死刑を言い渡した。自身のことをハンセン病と通報されたことを恨んでの犯行とされた。
男性の一審、二審は感染予防を理由に、患者を隔離する療養所内の「特別法廷」で開かれた。
ハンセン病は「らい菌」による感染症で、末梢(まっしょう)神経や皮膚がおかされる感染症だが、感染力は弱い。発病することも少なく、完治する病気だ。しかし、当時は特効薬が広く普及しておらず「不治の病」と考えられ、遺伝するとも誤解されていた。国が強制隔離を進めたことで患者に偏見・差別の目が向けられた。
事件を知ったほかのハンセン病患者らは、裁判のあり方や証拠に関して疑問を抱き「偏見・差別による冤罪(えんざい)だ」として二審から男性を支援し最高裁まで争った。だが、死刑が確定。男性が再審請求を繰り返すなか62年9月に執行された。
ハンセン病とされた男性を警察が取り押さえたとされる場所=2025年12月17日、熊本県、小宮路勝撮影「特別法廷」は裁判所法の「最高裁が必要と認めるときはほかの場所で開かせることができる」という例外規定に基づいて開かれる。
最高裁が2016年4月に発表した調査報告書によると、1948年1月~90年12月に計180件の特別法廷の申請があり、113件を認可。理由の最多はハンセン病の96件で、撤回1件を除く95件が認められていた。
最高裁は新しく発見される患者が著しく減っていたことなどを理由に「遅くとも60年以降は差別的な取り扱いがなされたことが強く疑われる」と説明。「偏見と差別を助長することにつながった」と謝罪した。
菊池事件はハンセン病を理由とした「特別法廷」で唯一、死刑判決となった事件だ。この法廷が憲法違反だったか否かが争点となった民事裁判で熊本地裁は2020年2月、「法の下の平等」を定めた憲法14条1項などに違反するとの判決を出し、確定している。
菊池医療刑務支所内に設けられた「特別法廷」=撮影時期不明、菊池恵楓園歴史資料館提供死刑執行から60年余り。再審請求が動き出したのは、国の隔離政策を違憲と断罪した2001年5月の熊本地裁判決がきっかけだった。判決の確定後、元患者たちから「菊池事件が解決しない限り、ハンセン病問題は解決したとはいえない」といった声が上がり始めたのだ。
ただ、再審を請求できる男性の遺族は打診を受けてもなお続く差別と偏見をおそれ、踏み出せないでいた。
それでも弁護士たちは事件記録の収集や分析を続け、冤罪(えんざい)との思いを強めていく。検察官に対し再審請求を迫る運動などを展開していった。
また、20年11月には市民1205人が「国民的再審請求」という名のもと、熊本地裁に再審請求を実施した。法律で定められた正式な方法ではなかったが、多くの人が再審を望んでいることを示した。
こうした機運の高まりが遺族の背中を押すことになり、21年4月、遺族による再審請求がおこなわれた。弁護士が最初に打診をしてから約20年がたっていた。
熊本地裁は2001年5月、ハンセン病患者に対する国の隔離政策を違憲と認定した=同地裁争点は主に二つあった。一つは「特別法廷」は差別、憲法違反で、それだけで再審を認める理由になるか。もう一つは、そもそも男性が無実か否かだ。
法廷が違憲であることを理由に再審を認める規定は法律にないが、弁護側は憲法98条が「国務に関する行為」が違憲なら無効、と定めていることなどから理由になると主張していた。
男性の無実については、凶器の短刀や「男性から犯行を告白された」という親族2人の供述に関する鑑定意見書を新証拠として提出していた。
凶器については、厚さ0.1センチの短刀では生じない微細な傷が遺体にあり、凶器ではないと主張。短刀と男性を結びつける根拠となった親族の供述も矛盾、変遷しており、捜査側に誘導された可能性があるとしていた。
検察側は短刀について、刺さった深さなどにより微細な傷はできると反論。供述も「犯行を告白された」との核心部分が一致しており信用できる、などとしていた。
「菊池事件」再審請求の争点戦後間もないころ、小さな山村で起きた殺人事件。のちに「菊池事件」と呼ばれるようになった事件では、ハンセン病とされた男性が逮捕されます。無実を訴えたものの死刑判決に。執行から60年以上がたったいま、再審請求に注目が集まっています。これまでの経緯を連載でたどりました。
この記事を書いた人
- 坂本純也
- 西部報道センター|平和、司法
- 専門・関心分野
- 国内政治、司法、平和・原爆
- 座小田英史
- 熊本総局|警察司法、公共政策
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- 財政、公共事業、調査報道、農業